店長の夜
「はーい、今日はおしまいね!ちょっとだけ片付けて、閉めるよー!」
店長がそう大声で言うと、店の所々から、返事が返ってきた。うんうん、と大きく頷くと、店長は厨房に引っ込んでいった。
「今日はお客さん来ましたねー」
キュラノスは、本のポップを缶の箱に入れながら嬉しそうに言った。
「珍しく五人も来たね、今日は以外と忙しかった」
伸びをしながら、ケイが言った。
「色々売れたよね!」「もうかったー!」
ニルテと杏奈が、同時に言った。
「そうですね」「あはは、ホントにね」
四人が談笑していると、
「必殺!『店長マジカル』っっっっ!!」
「!?」「!?」「!?」「!?」
厨房から叫び声が轟き、
「ほい、まかない五丁!『魚介チャーハン』!」
店長が、まかないをトレーに乗せて厨房から出てきた。トレーには、魚介類が入ったチャーハンが。
「り、料理スキル……?」
杏奈が、唖然としながらも、何とかそれだけ言った。
ニルテ、杏奈、ケイの三人が帰り、キュラノスも眠った、その後。
大きな月が登り、世界を静かに照らしていた。
店長は、店の屋根に登って、足をゆっくりとぱたぱた動かしていた。
「ふーふふふふーん♪ふふふんふーふふふーんふーんふー♪」
かなりアップテンポの、疾走感のある鼻歌を歌っていた。
「ふーふふふふふー♪ふふふーふー♪ふーふふふー♪……さて、っと」
歌い終わって、スッと立ち上がった。
「一回り、行ってみますか!」
ふわりと浮かび上がって、あてもなく飛び始めた。
私の名前はリリス。旧文明では縁起の悪そうな名前だと言われそうだが、そんなのは気にしていない。今は、雑貨屋の店長をしているから、基本は『店長』と名乗っている。
最初は、一人でひっそりと店をやっていたのだが、今は、四人の店員達と共に、毎日賑やかにやっている。幸い、常連客もついて、経営もある程度安定している。
日課は、一緒に住んでいるキュラノスが寝静まった後にこうして夜のマヤリオコを飛び回る事だ。
「おっ、何だ何だ?」
店長が見つけたのは、路地裏で、まさに男が窓から家に侵入しようとしているところだった。
店長は、音もなくスーっと男の真後ろまで降りていき、
「おい、何やってんだ」
肩を掴みながら耳元で囁いた。
「!?!?!?!?」
男は凍りついて動かなくなった。
「ドロボーなら、止めときな」
「は、はい……」
男は、しおらしくなって路地裏から出ていった。
「よしよし……っと」
店長は、頷きながら言った。
「あっ!あれは!」
再び飛び始め、やがてマヤリオコの郊外まで来た店長が見たのは、ジャンゴだった。ヴァンパイアと戦っているらしかったのだが、苦戦していた。
「助太刀するか!」
店長はそう言うと、ヴァンパイア目掛けて、垂直に急降下していった。
「また太陽銃が効かないのかよっ、くそっ!」
ジャンゴは、ヴァンパイアの攻撃をかわしながら悪態をついた。
「くっ!……ん?」
ジャンゴの頭の角度が、斜め上になった。
「ちょおおおおおっとまったあああああ!」
次いで、
どっごおおおおおおおおおおおん!
爆音と共に、急降下してきた店長がヴァンパイアごと地面を穿った。
「あぁ、もう寝なきゃ……。朝日が昇ってきちゃった」
昇る朝日を眩しそうに見つめながら、店長が言った。
「すいません、助かりました」
「いいってことよ、困った時は、っていうでしょ?じゃあ、おやすみー」
店長は、歩いて帰っていった。
「あ、はい。おやみなさーい。」
店長が見えなくなってから、ジャンゴは、後ろを振り向いた。
そこには、大きな穴があった。穴の中心には、ほんの少し前までヴァンパイアだった挽き肉があった。
「……これ、どうしよう?」
ジャンゴは、苦笑いしながら言った。
―続く―
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