吸血鬼の日々
私の名前はキュラノス。フルネームは、ある旧文明の有名な画家より三倍は長かったので、最後まで覚えられなかった。一応、上位種である、エルダーヴァンパイアだ。あまり大声では言えない出来事が原因で、放浪を続け、その末に木箱で眠りに就いたら、その箱が過剰梱包されてしまい、出られなくなってしまった。たぶん一ヶ月くらい経ってから、箱は開けられた。
そこは雑貨屋で、店名を『セルフレスラヴ』といった。無償の愛、素敵な名前だと思う。雑貨屋で働いていて、開けてくれた、ケイという女の子には、感謝してもしきれない。そして、木箱を店に入荷した、自由奔放な店長にも。今は、そんな店長の店に住み込みで働きながら、日々を過ごしている。
私の朝は早い。
ヴァンパイアといっても、私は日光で灰にはならない。エルダーヴァンパイアの所以の一つだ。
朝日が顔を見せる直前に、
「ん~……っ、はぁ……」
上体を起こして体を伸ばし、朝日が差し込む窓を見やる。
「うん。いい天気……ヴァンパイアは、何を思って朝日で灰になるのでしょう?」
丁寧な言葉遣いはよく分からないが、せめて『ですます口調』は使うように気をつけている。
「さて、朝ごはんを……」
今日の朝食の担当は、私だ。店長と交代でやっている。
「っとと、その前に……」
忘れるところだった。店長の部屋まで行って、店長を起こしてから、朝食を作り始める。
因みに店長は、旧文明で言う東南アジア系の美女だ。
今日は、ご飯と大根の味噌汁、後何の卵か分からないが目玉焼きを作ることにした。
朝食を終えたら、お店の準備を始める。お店の前で掃き掃除をしていると、
「あっ、キュラノス、おはよう」
「おはよー!」
私に挨拶をしてきた二人は、順番に、ニルテと杏奈。まだ十歳ぐらいで、口調が幼い感じがするところもあるが、しっかり働いている。
「おはようございます。今日も頑張りましょう」
私は、そう返した。
「うん」 「はーい!」
二人とも元気だ。
「キュラノスちゃん、おはよう」
次に、十代中頃の少女が私に挨拶した。どこか仏像的な美しさがある少女だ。この人が、私を出してくれた人、ケイ・シーだ。
「おはようございます。ケイさん」
「今日はお客さん来るといいね」
「あはは、ホントですね」
他愛ない会話をしながら、お店に入っていく。掃き掃除をそこそこにして、私もお店に入る。
「……お客さん、来ないですね……」
「閑古鳥ー」
「カァー!カァー!」
「いやそれカラス」
「ま、いつもの事だよ」
うだうだ言いながら、商品の手入れをしたりしていると、
「こんにちはー」
「あっ、ジャンゴさん、いらっしゃいませ」 「いらっしゃいませー!」 「お客さんだ!」
「あっ、ジャンゴさん」
「いらっしゃい」
ジャンゴさんが、お店に来た。この人は、ヴァンパイアハンターとして生計を立てている。つまるところ私の天敵なのだが、私は人を襲わないので、仲良くやっている。
「あーっと、回復薬十五個と、聖水四つと、太陽銃のバッテリー二十個ください」
カウンターの店長に言った。どれも商品としては大切な物なので、カウンターの後ろの棚に置いてあるからだ。
「はーい、えーっと、これとこれとこれね。全部で割引分考えると銀貨二十枚、かな」
「あ、はい」
ジャンゴさんは、カウンターに銀貨二十枚丁度を置いて、商品を受け取った。
「どうも、また来ますね」
「うん!いつでも来てね!」
店長ほ、かっこよくウインクをしながら言った。とてもよく似合っていた。
「ありがとうございましたー!」
店長以外の全員の声が被さった。
その後、お客さんは来なかった。
いつもの事だ。
夕食を終えて、お風呂に入り、店長が寝た後。
私は、家の屋根に座っていた。星を見るためだ。
「よく晴れてる、肉眼で天体観測するにはいい感じですね」
私の頭の上には、限りなく白に近い桃色の月が浮かぶ赤黒い空が広がっている。旧文明の時代には、夜空は濃紺に染まり、月は白に近い黄色だったらしい。今の赤黒い夜空も気に入っているが、そんな夜空も見てみたいとは思う。
「さて、もう少し見てから寝ますか」
もはや理由も分からない戦争が原因で、空が赤く染まっても、星は変わらず瞬き、輝く。
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