包丁

 「うっは、スパスパ切れる、やっぱり儲かった!」

 ケイが、若干気持ち悪い笑いと声を上げた。その手には、先程、研子から買ったばかりの包丁。何かの肉を切っている。肉に包丁を乗せ、少しでも力を加えると、ぬるり、と肉が切れていった。

 「ひゃー、スパスパどころかぬるぬる切れる……これ、ちょっと危ないな、切れすぎでテンションが変になる」

 散々食材を切って、ようやく落ち着きを取り戻した。

 「……ケイ、大丈夫?なんか気持ち悪かったよ?」

 杏奈が、心配そうに覗き込んだ。

 「ぐっ……否定できない」

 「でも、切れ味が凄いのは確かだよ、肉はぬるぬる切れるし、野菜なんて、若干抵抗がある空気切ってるみたいだし」

 「でも、切りすぎじゃない?」

 杏奈は、ケイが落ち着きを取り戻すまでに散々切った野菜と肉を見た。野菜は鍋半分、肉は、ちょっとした山になっていた。

 「……」 「……」

 「……今夜は、カレーかな」

 

 食後。

 「いやぁ、ほんと、良い意味で『魔剣』だった。大事にしよう」

 ケイは、魔剣染みた切れ味の包丁を丁寧に洗いながら言った。

 「こういう良いものが広まると良いな……」

 「……でも、危なくない?」

 洗い物を手伝っていた杏奈が、ケイに聞いた。

 「あー……そうだね、うん。使う人は選ぶと思う。……キュラノスちゃんと、あと念のため店長にも見てもらうか」

 洗い物の山は、上から徐々に削られる。


 「……呪われているどころか、祝福されていますよ、これ」

 「……本当?」

 「ここで嘘を吐いて何になるのですか?」

 「……確かに」

 翌日。雑貨屋『セルフレスラヴ』にて、ケイは、キュラノスに出刃包丁を見せると、そんな返事が返ってきた。

 「一目で分かるよ。それ、腕が立つ刀匠が打った代物だって」

 頬杖をついた店長が言った。包丁の刀身を見て、ため息を一つ。

 「スピリチュアルな事を言いますけど、古い鍛治の神様に愛されているのでは?と、思いたくなる一品ですね」

 二人の評価は、大絶賛だった。

 「……うん、そのお店で買い物してくるから、店番よろしく」

 店長は、唐突にそう言うと、店から出ていった。

 「自由人だなぁ」 

 ケイが言った。

 「それで回るのが、このお店の良いところです」

 キュラノスは、それに続いた。

                 ―続く―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る