店長と談笑、店長に相談
「……お客さん来ないなぁ……」
店長が、退屈そうに言った。
「そもそも、ここ、人通り少ないですし……」 キュラノスも、それに続いた。ぼんやりと、天井を見つめている。
「そういえばさ、今キュラノスちゃんが今着ているその服って、変わっているよね?」
「あ、これですか?」
キュラノスは、自分の体を見ながら言った。妙にぴったりとした、白を基調として、黒や赤のラインが走り、胸には、大きな赤いYの字の様な模様が描かれた服だった。どこか鎧の様にも見えた。
「これは、棺桶スーツの一種です。あ、棺桶スーツは、ヴァンパイアに広く伝わっている鎧なんです。太陽光から身を守るためのもので、戦闘用のものが多いですが、私のは、普段着用のものです。本気を出せば、多少戦えるくらいですね」
「へぇ……」
店長は、素直に感心した。
「なんというか、便利ねぇ」
「私の場合、極端に日焼けしやすいので、これが市場で安く売られていた時は、嬉しかったですよ」
「『露天通り』の市場って、何でも売ってるからねぇ」
「『屍食教典儀』が無造作に置かれていたのは流石に驚きましたけど……」
「そーいうのが要らないかありふれてるか何だよ、今の世界は」
「“今の”?」
「他意はないよ?ほら、鍋敷きが入荷したことあったじゃん?ああいう事、よくあるんだよ」
鍋敷き――『ルルイエ異本』が置かれている方から、ガタガタッ、とどこか不服そうな音が聞こえてきたが、店長は全く気にせずに言った。
「店長……いくつなんですか?」
キュラノスは、怪訝そうな表情で、首を傾げながら聞いた。
「ふふ、いくつだと思う?」
年齢がいまいち分かりにくい顔つきの女性は、妖しく微笑んで言った。
その夜、『セルフレス・ラヴ』の近くの酒場で、ケイと店長は、二人で弱めの酒を飲みながら、話し合っていた。
「……今日もお客さん、来なかったんだー」
「……あの、今日定休日ですよ?」
「えっ」
「そりゃ来ないですよ」
「……」
店長は、沈黙して、
「あっはっはっはっはっはっは!そっかそっか、あははははは!」
ばしばし、とケイの肩を叩いて豪快に笑った。
ひとしきり笑い終わってから、ケイは、本題を切り出した。地下通路の強敵モンスターの山と、その奥、さらに地下に広がる町についての事だった。
「へーえ、地下にモンスターが群がる町、ねぇ……。うーん、はつみまっ、だっ、いっ、舌噛んだ。初耳かな。うー……」
店長は、うえっ、とでも言いたげな表情になった。
「そうですか……。店長なら、知っているかと思ったんですけど……舌、大丈夫ですか?」
「ああ、うん、大丈夫大丈夫。ダメね、分かんない」
店長は、早々に諦めた。
「……この場合、ほっとくとマズイんじゃぁ……」
「たぶん、どうにもならないから封鎖されてたんじゃないかな?」
「ああ……成る程」
ケイが、納得した様子で、ぽん、と手を打った。
「まぁ、私達は、しがない雑貨屋。そういうのは、凄い人達にまかせりゃあいいのよ」
店長にそう言われたケイは、手の中のグラスに視線を落として、
「そうですね」
いつの間にか、ほろ酔いになっていた。
―続く―
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