超能力(少し)

 ニルテと杏奈とケイが、夕食を食べている時だった。

 「あ、醤油とってー」

 杏奈がニルテに頼んで、

 「りょーかーい」

 ニルテが醤油を手を触れずに宙に浮かべた。

 杏奈の目の前まで二回平行移動して止まった。

 「!?」

 ケイは、フリーズした。

 「どうぞー」

 「ありがとー」

 杏奈は目の前に浮かぶ醤油さしを手にとって、小皿に注ぎ足した。何かの刺身を浸けて、口に運ぶ。 

 「え、えっと……超能力使えるの?」

 どうにか解凍できたケイが二人に聞くと、

 「うん!ボクが、ほじょとそがいの超能力で、」

 「私は、ちょくせつこうげきー!」

 そんな返事が返ってきた。

 「いってなかったっけ?」 

 ニルテが、聞くと、

 「……私も、出来るんだ」

 ケイが、そう呟いた。

 「!」 「おお!」 

 二人は、軽く驚いた。

 「まぁ、攻撃的過ぎるから、よっぽどじゃ無い限りは使わないけどさ」

 ケイは、ないない、とでも言いたげなジェスチャーと共に言った。

 「えー?」 「みせっこしようよー」

 二人はブーイングしてきたので、

 「……知らないよ?」

 ケイは、少しだけ見せる事にした。 

  

 マヤリオコには、橋が架かる程には大きめの川が流れている。川の名前が欄干に貼ってあるが、今はもう擦りきれて読めなくなっている。 今は、マクブア川と呼ばれている。

 そんな川辺に、ニルテと杏奈とケイは来ていた。

 「じゃあ、ボクからいくよー!」

 ニルテが、土手に座る二人に向けて手を振って言った。

 「がんばれー!」 「がんばれー」

 声援が送られた、その時だった。

 八メートルはあろう、脚が生えた巨大な魚がマクブア川から飛び出してきた。

 「ぶっ!」 「でかー!」 「なにっ!?」

 ニルテの真上に落ちてくる。

 「うおっ!?『障壁β』!」

 ニルテが右手を伸ばすと、その前に淡い青色の薄い直方体の壁が出現して、押し潰されることを回避した。

 「重っ!?」

 「やばっ!『冷きゃ』」

 杏奈が氷塊を放とうとしたが、

 「『PSIイナズマγ』!」 

 ケイがそれを遮って右手の人差し指から青白い電撃を放った。あまり効いていなかった。

 「どうして!?」

 「ごめん、ショック死の方向で戦って!」 

 「……了解」

 「『クイック』」 「『俊敏』!」

 ケイがその姿が掻き消える程の速さで魚に突っ込み、ニルテは急いで魚の下から出た。

 「『アタックアップ』!」

 そう唱えたケイの両手には、いつの間にか剣が一振りずつ握られていた。右手には、地下の探索の時も使った“降魔の剣”が、左手には、銀色の刀身が美しく、鍔がシンプルな四角い形状の剣が握られていた。柄頭は、滑らかな楕円形を描き、穴が空いていた。

 「あぁぁぁ!」

 ケイは、魚の腹をかっ捌いた。内臓がはみ出たが、体にかからないように上手く避けた。

 「『電撃β』!」  

 土手にいた杏奈が、掌からその名の通り電撃を放ち、

 「『全体障壁』!」

 杏奈の隣まで来たニルテが、全員に壁をかけた。

 「『エレメントサンダー』!……とどめ!」

 魚の背中に登ったケイが、刀身に雷を纏わせ、魚の首を一気に撥ねた。

 

 「……そんな事があったのですね」

 キュラノスが、そう言って、

 「それで店長とマッチョマン六人衆もろとも私も呼び出されたのですね」

 振り返りながら言った。

 そこにあったのは、首を撥ねられ、内臓も全て外に出た、さっきまで“ばかでかい魚”だった切身だった。  

 「いやぁ、ごめんね?かっ捌いたのは良いけど、三人じゃ食べ切れなくって」

 ニルテ、杏奈、ケイ、店長、キュラノスは、たき火を囲んで、焼き魚を頬張っていた。

 「ねぇ、マッチョマン達何やってるの?大声上げて」

 ニルテが、全員に聞いた。

 「……うん、知らない方がいいと思う。」

 店長が、代表して言った。

 「?」

 ニルテと、ついでに杏奈は、首を傾げた。

 

 「プロテニュウム超光波ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「ステロイドバアァァァァァァァァスト!」

 佐藤とダブツが雄叫びを挙げ、

 「筋肉シャウトオオオオオオオオオオオ!」

 さらにゾルが叫び、

 「俺オレンジ!」「俺パイン!」「俺ベリー!」

 残りの三人も着々と魚をプロテインとステロイドに変換していた。  

                 ―続く―


  

  

 

  

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