常識は筋肉でへし折る物
「スーパーカブはあるのね……」
「そりゃあ、足はあった方が良いからね」
ケイと店長の目の前には、カゴと荷台が付いた赤いスーパーカブが鎮座していた 。何時でも動かせるようになっていた。
「じゃあ、配達行ってきますね」
ケイは、スーパーカブに跨がって、エンジンを起動させた。ヘルメットを被った。
「お土産待ってるよー」
「買ってきませんよ」
「ええー……いってらっしゃい」
「行ってきます」
ケイは、スーパーカブを発進させた。
「イヤァ助カッタヨ!丁度プロテインガ無クナッタ所ダッタンダ!」
「は、はぁ……はい、こちら、ご注文の品物のプロテイン二カートンですね。こちらにサインをお願いしますね」
「ハイヨ……ホレ」
ケイは、男(?)から、受け取りのサインを受け取った。
目の前の男(?)が、筋肉モリモリマッチョマンのロボットという一点を除けば、実に普通の対応だった。
「気にしたら負けだ、気にしたら負けだ、気にしたら負けだ、気にしたら……」
次の配達先に着くまで、ぶつくさと言い続けた。
「はい、こちら、ご注文の品の曼陀羅ですね、こちらにサインをお願いします」
「あ、有り難うございます。……どうぞ」
「どうも」
筋肉モリモリマッチョマンのブッダの様な見た目の人は、優しい笑顔でケイを見つめた。
その後、今度は筋肉モリモリマッチョマンの狼男にサングラスを配達した。その時、何故か口説かれたが、どうでもいいのでカットします。
「私って、そんな綺麗かな……?」
大きな目の輪郭が上下対称に弧を描き、鼻はよく通り、絶妙な濃淡の唇がある、仏像的美しさを持つ顔つきの少女は呟いた。
この後、残り三件とも様々な筋肉モリモリマッチョマン達がそれぞれプロテイン四カートンを頼んでいたのだが、ケイの精神が磨耗してきたので、やっぱりカットになりました。
配達を終えて、ケイは、店の入り口で黄昏ていた。
「どうして皆してマッチョマンなの……?嫌がらせなの?馬鹿なの?死ぬの?」
虚ろな目でぼそぼそとぼやき続けていた。
こうして、一日が終わった。
翌日。
「うーんうーん……」
ケイは、寝込んでいた。風邪を引いていた。
「だ、大丈夫……?」
冷却シートを張り替えてから、杏奈が聞いて
きた。
「大丈夫、大丈夫、寝たら直るだろうから……気にしたら、負けだ」
「仕事行ってきますから、安静にしててくださいね」
「んー……」
ケイは、何とか返事をした。
「しかし、徹底してマッチョマンばっかりって言うのは、若干の悪意を感じる……」
天井を見つめながら、ケイはぼやいた。
その時だった。
「きゅー」
「ん?」
玄関の方から、何かが音を立てた。
「何だろう……」
ふらふら、と玄関に向かう。ガロリ、と玄関を開ける。そこにいたのは、
「きゅー」
何だかよくわからない生き物の様な何かだった。大きさは猫ぐらいで、全体的に白くてツヤツヤしているが、ツルツルというわけではなく、丁度良い大きさの耳と、長めの毛が生えていた。
「きゅー」
何かは、再度鳴いた。
「どうしたの?お腹空いてるの?」
意識が朦朧としているケイが、何かを抱き上げる。もちもちした触り心地だった。温かかった。
「何かたべよーかぁー、よぉし、今日からおまえは島三郎だぁー……」
意味がわからない名前をよくわからない何かに付けた瞬間、ケイは、バタリ、とその場に倒れ込んだ。
「……きゅー」
島三郎は、ケイの体に巻き付いて、布団まで運び、一度離れてから、ケイと一緒に布団に入った。
夕方。
「ただいまー」「たっだいまー!」
ニルテと杏奈は、家に帰ってきた。二人の両手には、食材や日用品が入ったビニール袋があった。
「……大丈夫かな?」
ニルテが、不安そうに言った。返事が無かったからだ。
「……ケーイ、大丈夫ー?」
杏奈が、リビングへ向かいながら呼び掛ける。やはり返事はない。
「寝てるのかね?」
杏奈の問いに、
「……さあ?」
ニルテは答えられなかった。
リビングに入ると、
「……あ」「うおっ?」
よくわからない何かを抱き枕にしてすやすやと眠るケイの姿があった。
「きゅー♪」
「うわぁ、かわいい!ねえねえ、ニルテ、この子家で飼おうよ!」
「えっ、あ、うん、別に良いけど」
いつにも増してハイテンションな杏奈に呆気に取られたニルテは、何とかOKサインを出した。
「島三郎って言うんだ、その子」
「へぇ、島三郎かぁ……」
ニルテは、思考放棄した。
「あ、もう風邪は治ったらから、明日から復帰出来るよ」
ケイが、そう付け足した。
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