第4話 地球が弾け飛んだ日 2
外に出た僕は、別荘に来た時と同じ初夏の日差しを眩しく感じながらも、直感的に違和感を覚えた。
「音が無い?」
そう。
夏の始まりを告げていた蝉の鳴き声も、爽やかな風に揺られて奏でられる葉音も、愛を囁く小鳥達の鳴声も、ここへ来る道すがら聞いていたはずの音が一切聞こえないのだ。
「音だけじゃない。」
この別荘に来るとき通り抜けた針葉樹の林もまるで嘘だったかのようにその姿を消していた。
「一体どうなってるんだ?」
僕は頬を伝う汗を拭うのも忘れて、あんぐりしたまま呆然と突っ立っているのであった。
「ん。感度…良好…聞こえる?」
右手の腕時計から少女の声が聞こえた。
「う、うん。聞こえるよ。」
「ん。腕時計…示す…歩く。」
先程貰った腕時計を見ると、玄関から真っ直ぐに歩くように表示されている。
僕は、不気味で居心地の悪い不思議な雰囲気に包まれた無音の世界を腕時計の指示に従い歩き始めたのだった。
出発地点から数分歩いてみたけれど、別荘以外にこれと言ったものは何も無かった。
正確に伝えると雑草のような草は一面に生えているのだけど、タンポポやオオイヌノフグリなど花を咲かせる植物は一切見当たらなかった。
やがて別荘もどんどん小さくなり、腕時計が無ければ何処に向かっているのかも分からなくなりそうな何の変化も特徴もない景色。
思わず先日インターネットで見た地球の果ての画像を思い出した。
僕が見たのは、鏡の様に空を映し出すウユニ塩湖を舞台とした写真だったけど、ここはそれに勝るとも劣らない大地の緑と空の青で飾られた地球の果てなのではと思う。
実際、こんな状況でなければとても素晴らしい景色だと思う。
見渡す限りの平地は、まるで緩やかな丘を登っているのかと錯覚するように綺麗な地平線を描き、その曲線が地球は丸いのだと実感させてくれる。
今更だけど、まるで最近流行っている異世界転生物のライトノベルでも読んでいる気分だ。
ん?
待てよ?
もしかしてこれって、その異世界転生というものなのでは?
だって、先程まで居た世界は別荘を取り囲むように針葉樹の林があって、蝉の鳴き声も聞こえていた。
なのに今の世界は、そこにあるべきはずの物が何も無く、どれだけ贔屓目に見たとしても先程まで居た場所とは全くの別の世界と言う結論に辿り着く。
これは明らかに別世界だと考えるのが妥当ではないだろうか?
もし、これが異世界では無いとするのならば、僕は夢を見ているのかも知れない。
そもそも、これが現実だと断言できる根拠は何処にもない。
現実の僕は「BIKINI QUEST」をプレイしている最中に寝落ちして、夢の中でも「BIKINI QUEST」を楽しみたいと言う願望がこんな夢を見させているのかも知れない。
「BIKINI QUEST」の中にこのような殺風景なフィールドは無いと思うけど、これが夢ならば多少の矛盾や違和感も説明できる。
それに冷静に考えてみれば、現実では考えられない状況も起きている。
例えば、別荘を出発してから結構な距離を歩いているのにも関わらず、僕は全く疲れを感じていない。
万年帰宅部の僕がこれだけ非日常的な条件で歩き続けているのに疲れを感じないなんて事があり得るのだろうか?
百歩譲ったとして、僕自身が戸惑い、混乱している事が原因で疲れに気付く事が出来ていないとしても、この季節の日差しを浴び玉のように汗をかいているのに、全く喉が渇かないのは何故だろう?
これらの現象を考えてみれば、これは夢であると結論付けるのがもっとも自然なのだと思う。
「そう、これは夢なんだ。」
僕が高度な思考を巡らせ、そのような結論に達した時、聞き慣れた声が全てを否定するのだった。
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