第2話 社会的に抹殺されました
入学式の日。不発弾のニュースは知れ渡っていて、僕とマリさんは衆目に晒されていた。
死亡者数は工事関係者五名、女子寮に居た人間六名の合計十一名にも及ぶ。その中で生き残ったのは僕
僕とマリさんは同じクラスとなった。クラスの名簿には僕の幼馴染
女子寮生六人のうち、生き残ったのは後藤茉莉一人だけという扱いになっている。確かに顔はマリさんなので仕方ないと言えば仕方のないことかもしれない。残りの五人は死んだことになっている。
しかし、マリさんの周りには誰もいない。
マリさんの顔の傷痕がみんなをひかせてしまっているのだ。まるで、ハレモノを触るような態度である。これは、みんなが悪いわけではなく、みんなもどう接していいのか分からないのだ。結果、マリさんは教室で一人ぽつんと座っている。
僕の方もみんな男子との接し方が分からないらしく、遠巻きに見ているだけだ。前後左右の席の子に声を掛けようとしても逃げられてしまう。
結局、僕はマリさんの席に行くことに。
「マリさんからも声を掛けたほうがいいんじゃない?」
「あんな事故のあとでどういう顔をすればいいの?」
「……うっ」
「私が親しかったエリちゃんは死んだことになっているし、明るく笑いかけるのも変でしょ? だからみんなの期待に応えるためには、事故でショックを受けている後藤茉莉を演じないといけないの」
「そんなのおかしい気がするな。新しい友達ができた方がいいでしょ?」
「あら、もう友達ならいるわ」
マリさんは僕の方を指さした。
「……うん、そうだね。同じクラス、これからもよろしくね」
こうして、僕とマリさんの二人だけのグループができた。
翌日は始業式で、二年、三年も登校してきた。
ただし、今年の始業式は特別で、不発弾事故の犠牲となった生徒五人の合同葬儀も行った。
一年生:
二年生:
三年生:
それぞれの写真が掲げられ葬儀は慎ましく行われた。
マリさんは複雑な表情で参列していた。
五人とも
「わたしの葬式に、わたしが出るなんて不思議な気分ね」
今、後藤さん(代表)の人格は僕の幼馴染のエリちゃんだ。
先輩たちも次々と交代して愚痴をこぼす。
「まぁ、死んじまったもんはしょうがないさ。ボクはもう吹っ切れてるぜ」
今のは誰だろう? 三宅先輩か。
みんなはもう死んだことにして、後藤茉莉としての人生を生きていくことにしたのだという。だから、人格が残っていることは僕たちだけの秘密なのだと。保健の中野先生も「その方がいいかもな」と言っている。
式が終わり、僕たち生徒は暗い気持で新年度をスタートした。
死亡扱いのエリちゃんの席は空席だった。
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