宮田絵里編(全3話)
第1話 お風呂場でドッキリ!?
不発弾事故で入院していた僕の前に現れたのは一人の少女は、女子寮の六人だった。
顔は前に見た
髪の毛はところどころ色が変わってマダラ模様になっている。前髪に隠れて横一文字に縫い目が見える。
「ちょっと、信じられないんだけど……」
「私たちは脳みそも繋がっているから、記憶も共有しているのよ。もちろん人格も」
そう言うと、後藤さんは目を瞑り、深呼吸をしてから目を開けた。
「今わたしはエリだよ。本当は目を瞑らなくても人格の主導権は変えられるけど、気持ちの問題で」
「ホントにエリちゃん?」
「そうだよ。なんだったら、あのことバラそうか? 学校でスカート捲りが流行った時に、わたしのスカートを捲ったところ先生に見られて怒られたこととか、授業中トイレに行くって言って出ていったはいいけど、途中で漏らしてパンツを洗ったこととか。えーと、あと……」
「わ、分かった。分かったからもう言わないで!」
「ホントにエリちゃんなんだね?」
「そう言ってるでしょ」
「じゃあ、小学三年の時の花火大会の日……」
エリちゃんの顔が紅潮してきた。
「エリちゃんが僕にした約束……覚えている?」
エリちゃんは目を伏せ、顔を真っ赤にしてモジモジしている。
その姿を見て確信した。目の前の少女は、姿かたちは違っていても、僕の幼馴染の宮田絵里ちゃんだということに。
「ホントにエリちゃんなんだね。右手をよく見せて」
後藤さんの右腕はエリちゃんのものだという。その右手の人差し指を見せてもらった。
人差し指の腹には「へ」の字型の傷痕がある。これは、公園に落ちていた割れた瓶を拾おうとして指で摘まもうとしたときにサックリと刺してしまったものだ。傷口部分が凹んでいて指紋がズレている。
「あの時はビックリしたわ。痛みを感じる間もなく血が出てきて。あとからズキズキと痛んで」
ああ、やっぱりエリちゃんだ。右腕と人格は残っている。
「他の先輩たちも同じように?」
「メインはマリちゃん。わたしの他にあと四人。寮生六人分全員ね」
「意識が全面に出ている時は他の人の状態は?」
「寝てるわけじゃないのよ。見えているけど何もできないの。ただ、他のみんなとお話はできるの」
後藤さんは目を閉じ、また開いた。
「ということで、寮生を代表してボク三宅梓があらためて挨拶するよ。これからもよろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「さっそくだが、明日は入学式だ。春休みが潰れてしまって残念だったな。精密検査では脳に異常はなかったので、意識が戻ったのならすぐ退院できるぞ。準備をしておかないとな」
三宅先輩の言う通り、僕はすぐに退院できた。
寮へは保健の先生が車で迎えに来てくれるという。
ロビーに現れたのは白衣を着た女性。眼鏡をかけ、長い髪を無造作に一ヶ所で留めている。胸が大きく、白衣の下はミニスカートだ。
「待たせたな。さあ、乗って」
保健の先生の軽自動車に乗って病院を出る。
保健の先生の名前は
この先生がみんなの体を繋ぎ合わせた人?
「あの……先生がみんなを手術したのですか?」
「ああ、外科手術はお手のもんだ」
「しかも、こんなに早く動けるようになるなんて。僕なんか無傷なのに一週間も入院してたんですよ」
「ワケを知りたいか?」
「……ええ」
「知ったが最後、もう普通の日常に戻れないかもしれないが、それでもいいか?」
「え、ええ!?」
「まぁ、人間、知らないほうが幸せなこともあるからな。君も知らないほうがいいだろう」
「え、えぇ……」
なんだろう、とてつもなくアブナイ匂いがする。この件は触れないほうがよさそうだ。
「それより、君は彼女たちに感謝しないといけないな」
「?」
「君が無傷だったのは、彼女たちが盾になってくれたお蔭だからな。死体の山を見つけた時はビックリしたよ。中に無傷な男子が居たんでな」
「そう……だったんですか」
確かにあの日、僕が部屋を出ようとしたときに食堂の窓側から爆発が来たんだ。もう少し爆発のタイミングが早ければ僕も無傷では済まなかっただろう。
「ありがとう。えーと代表して後藤さん」
命の恩人である後藤さん(代表)は「無事で何よりだったわ」と言った。
寮の敷地へと着いた。男子寮は見るも無残な瓦礫と化している。
女子寮の方の外観は綺麗に直っている。
「女子寮は戦前からの建物を流用してるんだけど、恐ろしく頑丈な造りでな。窓は割れたけど建物は無事だったんだ。まぁ、男子寮に面していた食堂の中はかなり破片が飛び散っていたけどな。それも綺麗に直したし」
確かに食堂は前に見たときよりも新しくなっている。
部屋の方は被害がなかったらしく、僕の荷物もダンボールに入ったままで無傷だった。
まずは荷物を広げなければ。
「私は学校の保健室の方へ行っているが、何かあったら呼んでくれ。まだ退院したばかりだからな。くれぐれも無茶はするな。それと……何か、いつもと違うようなことがあったら教えてくれ」
「いつもと違うって? どういうことですか?」
「あ、いや、まあ言ってみただけだ。いつも患者にかける声みたいなものさ」
何かを隠すようにそそくさと先生は去っていった。
一通り荷物を展開すると、もう夜になっていた。
汗もかいたしお風呂に入りたいな。一週間寝ていたということは、一週間お風呂に入っていないということか。洗いがいがあるな。
浴室へ行くと、ドアにタイムテーブルが貼ってある。
元々女子寮だし、男風呂、女風呂二つあるわけないし、男子女子の入る時間を時間によって区切るんだな。
今の時間は男子の時間か。入ってもOKだな。
湯船に浸かってノンビリしていると、ドアが開く音がする。
湯煙に浮かぶシルエットは女の子の姿。
ヤバイ! 隠れなきゃ。
思わず湯船の中に潜り込む。息を止めていて苦しい。
彼女が掛け湯をするために湯船に桶を入れた瞬間――
「ぷはー!」
苦しくて湯から顔を出してしまった。
「きゃー!」
見るつもりはなかった後藤さん(代表)の体を見てしまった。
ツギハギだらけの体に視線が釘付けになる。
「見ないでー! 恥ずかしいー!」
後藤さんは左腕で胸を隠し、右手に持っていた桶で股間を隠した。
僕は慌てて風呂から飛び出し、脱衣所へと駆け込んだ。
ドア越しに後藤さんに謝る。
「ご、ごめんなさい。タイムテーブル見たら男子風呂の時間だったんで」
「私こそゴメンナサイ。タイムテーブル使ってなかったから確認してなかったの」
「ぼ、僕はもう出るんで、ごゆっくり」
そそくさと体を拭いて服を着て自分の部屋へと戻った。
一人部屋でぼーっとしていた。
鮮明に記憶されたイメージを振り払おうとしても振り払うことができない。
しばらく呆けているとイメージの主が現れた。服を着た状態で。当たり前だ。
「さっきはゴメンナサイ。先輩たちの記憶が強くて……まだ男子のいる生活に慣れてなくて」
「そうか、先輩たちの習慣も残っているんだ。いろいろ大変だね」
「もう幾太君と一緒に暮らすんだしちゃんとルールを守らないと。あっ、エリちゃんが幾太君って呼んでいるから、私も幾太君と呼ぶね」
「じゃあ、僕も後藤さんのこと名前で呼ぼうかな。マリちゃん」
幼馴染のエリちゃんと同じようにマリちゃんと呼んではみたが、これって小学生の時の呼び方だよな。
「あー、ゴメン。やっぱり抵抗があるよ。ちゃん付けじゃなくて、さん付けで。マリさん」
「……はい」
マリさんはちょっと照れ臭そうにしていた。
マリさんからは石鹸の香りがしてくる。
湯上りで火照った体からの体温が僕にも伝わってくるようだ。
掻き上げられた髪の毛から剥きだしにされるうなじ……そこには首をごっそり縫い付けられた痕がある。
見るからに痛そうだ。
「その、傷痕って、痛む?」
「もう平気よ。痛くないの。お風呂だって沁みないわ。ちゃんと引っ付いているし」
「しかし凄いね。手術して一週間も経たないうちに完璧に引っ付くんだ」
「中野先生には感謝しないとね」
やっぱりどう考えても現代医学の範囲を越えているよな。気にしないほうがいいのだろうか。
「明日から学園生活かあ。楽しみだな。マリさんと一緒のクラスになれるといいね」
「……そうね。楽しみね」
一瞬暗い表情を見せたマリさんだが、すぐに笑顔に戻った。
マリさんが自分の部屋に戻り、僕はお風呂で見たマリさんのイメージと、すぐ側にいたマリさんのイメージで悶々とした時間を過ごした。
すっかり忘れていたけど、神達学園の男子生徒って僕一人だけだったんだよな。
ちゃんと友達できるかな……。
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