ハーレムフランケン
楠樹 暖
プロローグ
私たち一人になりました
道端に落ちる桜の花びらが多くなり、いよいよ学校が近づいてきたことを知らせる。
これから僕が通うことになる私立
僕が向かうのはその隣、神達学園寮だ。
そもそも僕がこの学校を受験したのは、友達のの
「なぁ、この神達学園って女子校なんだって」
「僕らには女子校は関係ないだろ」
「いや、それがさ。神達学園は来年度から男女共学になるんだって。俺たちが入学するときだよ。俺たちが最初の男子になるんだよ。いいと思わない?」
「あんまり興味ないけどな」
「お前はいいよな、かわいい妹がいるから。俺なんか女の子と縁がないし」
「まぁ、妹が女の子の範疇に入るかは別にして、どこにあるの? その神達学園って?」
「ほら、ここ」
「ちょっと遠くないか?」
「寮も完備だから大丈夫だって。なぁ一緒に受けようぜ」
とまぁ、こんな感じで神達学園を受験することになったわけだが、僕を誘った当の本人は落ち、僕だけが受かったというわけだ。
入学資料を頼りに男子寮の場所へ着くとまだ工事中だった。あれ? 僕が泊まる場所って……。
「御用の方は女子寮へ」と案内が貼ってある。
女子寮の方へ行くと、一人の女性が出迎えてくれた。
「君が
「今年度から入学する入江です。よろしくお願いします」
「ボクの名は
短い髪、ホットパンツ。ボーイッシュな姿で、一人称も【ボク】だ。ボクっ娘だ。ホットパンツから伸びる右ふとももの内側にホクロが一つ。
「ん? 内股のホクロが気になるのかい? なんならよく見るかい? ほら!」
三宅先輩は脚を広げてホクロがよく見えるようにした。
慌てて視線を外した。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ」
「ははは、まだ中学を出たばかりの子はウブだなぁ」
「からかうのはやめてくださいよ。それよりも、男子寮が……」
「ああ、ちゃんと説明しよう。とりあえず、中に入ってくれ」
女子寮の食堂へ連れていかれ座らされた。窓の外には工事中の男子寮が見える。
「えーと、まずは神達学園に入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「で、男子寮の件だが、見ての通りまだ建設中だ。今年度から共学になるので、男子寮を建設し始めたのはいいけど工事が遅れてまだ完成していないんだ」
「じゃあ、僕はどうすれば……」
「ふふふ、まあ慌てるな。幸いなことに、共学になった最初の年の男子生徒採用数は一人だけ。みんな元女子校というのに魅かれてあんまり勉強していない男子が多かったんだろうな。受かった男子は君だけだ」
「えっ、そうなんですか!」
「で、一人だけだったら、女子寮の空いている部屋にでも押し込んどけって感じで」
「えー! 僕が女子寮に入るんですか!?」
「つまるところ、そういうことだ」
「他の皆さんは大丈夫なんですか、男と一緒なんて」
「みんな興味津々だったよ。なにせ、中学から男子と喋ったことのない連中ばかりだからな。というわけで、みんなに紹介するよ」
食堂の入り口には様子を見に来た女子が五人覗き込んでいた。
「さあ、入っておいで」
ゾロゾロと集まり総勢六人の女子に囲まれた。
「あー、やっぱり幾太君だよね。名前を見た時からそうじゃないかと思ってたんだ。ほら、わたし、エリ、
エリという名前には聞き覚えがある。小学校時代によく一緒に遊んだ女の子だ。中学は別の学校に行ってしまってそれっきりだった。
「エリちゃん? 懐かしいね。何となく面影が残っているよ。今もポニーテールなんだね」
「なんだ、二人は知り合いか。積もる話は後にして、先に寮生の紹介を済ませるよ。じゃあ同じ一年生から」
「
「マリちゃんはねー、中学時代みんなから頼りにされてたんだよ。色んなこと知ってるから、幾太君も困ったことがあったら相談するといいよ」
同じ一年生だから、後藤さんの顔はちゃんと覚えておかないとな。前髪パッツンのミドルヘア。確かに聡明そうな顔つきだ。
「次は二年生だ」
「
う、キラキラネームだ……。丸顔モジャモジャ頭なのでよく目立つ。
「自分は
背筋がスラッとして筋肉の締まりもある。髪の毛もショートヘアだ。たぶん、スポーツをやっているのだろう。
「最後に三年生」
「
長い髪、白い肌。吹けば飛んじゃいそうなイメージを受ける。左手首にはリストバンドを付けている。
「ボクはさっきも紹介したけど、
一気に六人も覚えるのは大変だな。とりあえず幼馴染のエリちゃんは除いて、一年生の後藤さんだけはしっかり覚えておこう。あとの先輩は追々覚えていくとして。
しかし、女子六人の中に男子が一人って、なんてシチュエーションなんだ。神達学園を落ちた倉田が聞いたら羨ましがるだろうな。
「この食堂だが、自由に使って構わない。誰も居なくなったら電気を消してくれ。ほらそこ、入り口の横にあるやつ。ためしに、点けたり消したりしてみてくれ」
僕は入り口の方へ歩き、電気のスイッチに手をかけ、明りを消してすぐ点けた。
「覚えました」
「じゃあ、次は部屋へ案内するぞ。さすがに他の女子とは部屋を離させてもらったからな」
みんながゾロゾロと入り口の方へ歩いてくるとき、大きな爆発音が響いてきた。
食堂の窓から来る衝撃で、女子が僕の方へ倒れてくる。なすすべもなく僕も倒れて頭を打ってしまい、僕の記憶はそこで途切れた――。
気がつくと見知らぬ白い天井。どうやら僕はベッドの上に寝ているらしい。
首を傾けると一人の女の子が座って本を読んでいた。
モソモソする気配を感じて少女がこちらに気がついた。
「あっ! 気がついた!」
少女が顔を覗き込む。これは……後藤茉莉さん? ケガの痕か、顔には無残にもツギハギがある。
「入江君は一週間ほど昏睡状態だったのよ」
「……えと、寮で爆発があって……」
「工事中の男子寮で不発弾が爆発したんだって。元々、地盤工事中に不発弾が見つかっていて、それのせいで工事が遅れていたんだけど、更に別の不発弾が爆発したって」
「そうだったんだ。……他のみんなは?」
「無事……と言えば無事だけど、助かったのは私だけ……」
「えっ? どういうこと?」
「あの爆発で私たちの体はバラバラになっちゃったの……。救急車が来るまで持たないって、保健の先生が飛び散った体の使える部位を集めて一人分の体を作ったの。で、脳みそもかき集めて、その体に押し込んで……。それが今の私」
「?」
後藤さんは服を脱ぎ、体の傷を見せてくれた。
体のアチコチにツギハギがある。腕は明らかに縫い付けた痕があり皮膚の色が微妙に異なる。
「この右腕は、わたし宮田絵里のよ。この左腕は、ドミソのだよ。この胴体は、自分杉村有希のだ。この右脚は、ボク三宅梓の。この左脚は、あたし……高岡……梨都……のです」
「私たち、一人になりました」
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