第22話 亡霊との戦い

「みんないろんな思いはあるが今は退却だ。爆発範囲がわからない。ひたすら中国の基地に向かって逃げろ。以上だ。セイヴァーに乗り込め」

 桜田隊長の言葉でみんなは動く。様々な思いを胸にそれでも体は動く。次々に離陸をはじめる。上を見ると砂嵐も止まっている。

 これなら、簡単に逃げられる!


 マウスの巣から出た。後は中国基地まで行くのみ。上がったところで南が見えた。南は複雑な顔をしている。俺に気づいたので手で合図する。逃げろと。南の機体は動き出した。俺も後を追う。時間は。もうそろそろか。


 ズドーン


 大きな爆音と共に爆発があり砂が雨のように降ってくる。かなり離れていたはずなのに。すべてを粉々にするためなのか。一度、二度とセイヴァーを回転させて被った砂を払った。そして中国へと向う。

 途中、桜田隊長の無線が入る。

『カメラの電源を全て切っておいてくれ』

 ああ、そうだった。慌てていたので、忘れていた。機体のカメラとヘルメットの小型カメラの電源を切る。


『それから、今日のマウス襲撃の結果だが、再び自爆をしたが熱を探知したため早めに退避はできた。が、全区域の部隊で囲んでいたマウスの量があまりにも多かったため、負傷者多数、死者二十三名、行方不明者五十八名だそうだ。詳しい名前は中国での中継所で確認しろ。今日はもう遅い一刻も早い帰還を目指せ』

『はい』

『了解』

 などの声が入る。隊長はマウスの巣に入いる前に今の情報を知っていたんだろう。時間的にはすでにマウスの襲撃は終わっている。俺たちを動揺させないためだろう。今の被害者の報告だと正規戦闘員が被害者のほとんどだ。今までの戦友がどうなったのか気がかりになるだけだ。


 中国基地でまた休憩だ。そろそろあのスピードに慣れて来てるのか先発隊の人間が増え、すぐに基地はいっぱいになった。取り残された二機はこちらに戻っていたようで、先ほどから隊長に頭を下げている。間に合わないというよりギブアップしたのかもしれない。

 学者チームはそれを見越して、先に彼らは中国に来ていたらしい。早い到着なのはそのせいか。先に出発して俺らが追い越したんだ。なのでまだまだ帰らないみたいだ。


「東出君!」

 南も到着したようだ。だいぶ顔色がいいが、浮かない顔だ。どちらでだろう。

「みんな大丈夫かな?」

「ああ、さっき名前を見てきた。21部隊だけど正規の連中は負傷者には入ってたけど、他には入ってない。ただ戦闘員上がりの一人が死亡者にあった。多分知らない名前だと思うけど」

「私ちょっと見てくるね」

 南は小走りに去って行った。

 戦闘を続けて来たが俺らの頃になると負傷者は出るが死者は滅多に出なかった。

 こんな事態に慣れてない戦闘員ってなんなんだろう。というより、俺らは誰と戦ってたんだろう。いろいろ想定して来たけれど、まさかな人物だった。そして本人は最初の戦闘で亡くなっている。なのに俺らは百五十年以上その亡霊と戦ってきたんだ。



「そろそろ日本の本部基地に向う。到着の遅かった者、城田、阿波、先に出発しろ。次は軍の基地にて集合だ。時間も遅いがその後、最初の時の会議室で司令官よりお話がある。到着したものはそこで待機、以上」

 南もそれを聞いて乗り込む。悲壮な顔はしていない。戦死者リストに知った名前はなかったんだろう。

 第二陣が出発し俺も乗り込む。次は本部基地か。



 本部基地に到着した頃には真っ暗になっていた。クタクタだが命令だ、会議室に行く。南はまだみたいだ。セイヴァーを何機も追い越してはいたが誰かは暗くてわからなかった。ぞろぞろと到着する。さっと、隣に誰かが腰かけた。見ると南だった。

「追い越されたね。慣れてきてる?」

「ああ。まあもう意味がないけどな」

「そうだね。もう必要ない」

 そうだ、もう必要ないんだ。

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