第21話 百五十年

 マザーコンピューターの前で学者二人と桜田隊長でなにか言い合いをしている。何かあったのか? わかったのか?

 桜田隊長から無線が入る。

『全員降りてきて欲しい』

 みんなは返事する間も惜しくすぐにコックピットを開けて出て行く。みんなやっぱり見たいんだ。この目で直接自分達が戦ってきたモノを。

 マザーコンピューター前の桜田隊長の前に集まり自然と整列する。

「みんなこれを見て欲しい」

 桜田さんの指す先には言語選択画面にしか見えない画面があった。日本語や英語や韓国語や中国語など様々な国の言語だろう、他は何語かはわからないが記されている。


「これを選択するかどうかで議論していたんだが、みんなはどう思う?」

 南が静かに手を挙げた。

「ん? 南なんだ?」

「昨日と一昨日、世界中でマウスの襲撃を受けたのって二十三カ国ですよね?」

「ああ。あ! これか?」

 ここに記されてる言語は二十三ヶ国語。これらの国が全て襲撃を受けた国ってことか? わざわざ襲撃しておいてここに襲撃した国の言語選択を用意してある。ここにいるマウスは攻撃してこない、この場所に襲撃した国の兵士を招き入れるために。どっちなんだ。罠かそれとも。


「あの。俺はやってみるべきだと思います。でないとここまで来た意味がないようで」

 前の方にいた確か佐藤が言った。確かにこのまま引き下がる訳にはいかない。

「俺も賛成です」

 俺も手を挙げて言う。

 それにつられるようにどんどん手が挙がる。ここまで来ようと命を張って来ているんだ、今さらボタンを押すか押さないかで迷う連中ではない。


「よし! では日本語を選択する。みんなすぐに機体に乗り込む用意をしておけ。撮影班準備はいいな」

 二人とも小型だが高性能なカメラを構える。

 桜田隊長の合図で学者班の一人が日本語を選択する。


 すると今まで目の前にあった大型画面にいろいろ表示されていた画面が消えた。同時にマウス製造機も動きをとめ静かになった。そして、上で待機していたマウスが下降してきた。最初はマウスが攻めて来たと、慌てたがすぐにただの着陸だとわかった。みんな肩から力が抜ける。例のトラックが着陸してきたマウスを解体機へと運んで行く。

 何なんだ? 何が起こるんだ? と、さっき消えた画面が点いた。みんなそちらを見る。そこには三十代いやもっと上か? の男性が見えた。白衣を着てる。背景はどこかの都市のようだ。この世界ではない。もっと発展している都市に見える。

 ザラっと音がしたかと思うと音声が流れだした。

『やあ。これを見にきてくれる人間がいて嬉しいよ。人間だったらね。僕は今僕の作った兵器に攻撃される前の日本にいる。ここは素晴らしい。森は緑に輝き、空は青く澄み渡り、海は蒼く輝いてる』

 男から画面が変わり森、空、海、が映し出された。今よりも綺麗だとは言い難い自然だが男は心からそう思っているようだ。

『これは多分、今の君たちの時代よりも百五十年前の日本だ。そして、僕は百五十年後の未来からタイムスリップして今のこの時代にきたんだ。ゴホッ、ゴホッ』

 この発言にみんなはざわついた。タイムスリップ? 何だよそれ。

『百五十年後の未来は酷い地球に変わってしまった。太陽も見えないチリとホコリと有害物質が空を空気を汚している。海ももちろんそうだ。森はなくなり全てが砂漠になっている。砂とホコリとチリと有害物質の中を生活しているんでね、ぼくは今三十二なんだが余命半年だと宣告されたよ。ゴホッ、ゴホッ』

 それでさっきから咳を。あれ? 今彼の言う百五十年後って、今、いやそれ以上たっている、なのにこの世界はさっき映し出された世界よりももっと綺麗だ。

『死の宣告を受けて、作っていたタイムマシーンで過去に行こうと決めた。百五十年後のこの地球に。まだ間に会うはずなんだ。人間がその貪欲さゆえに自然を全てが壊してしまう前に戻ればと。ここにきて体の調子は凄くいいんだ。空気が綺麗なせいだね』

 なんなんだこの人は自分の命の延命の為に過去に来たのか? ならばここにいるマウスはどういう事なんだ?

 だいたい今の地球と男の語る未来の地球は違い過ぎる。

『僕はここにきて人間が科学を間違った方向に使い地球を汚染するのを防ごうと考えた。兵器を作りそれと戦うことだけに集中していれば、他のことに時間も労力もさけないからね。それに最初の襲撃には耐えられないだろうからこれで、今まであった社会も科学も壊すことができる。一から立て直すけれど、襲撃は続く、人間の建築する早さもずいぶんと遅れるだろう。その間に自然が生きる場所を広めてくれる事を願っている』

 ああ、この男の言う通りになったんだ。かつての街は森になっているところも多い。自然が生きる場所を広めていたから、俺ら人間がマウスと戦っている間に。だから、マウスは街しか攻撃しないんだ。森が焼かれたなんて話聞いたことがない。

『このコンピュータは寿命が近づくと二十三カ国の首都をマウスに集中攻撃させる。今までこの場所を隠してきたが、ここがわかるように大量なマウスの移動を続けるようにセットして置いた。今何日目だろうか、これでまた人類の進歩を遅らせることができればいいが』

 この男は今回のマウスの攻撃でこの場所を二十三カ国のどこかの国に教えるのと首都を攻撃して、最後にまた文明の発達を遅らす作戦だったんだ。

『僕の寿命も半年だといわれたが少しは伸びてはいるがもう限界だ。砂漠の襲撃拠点は僕の科学の全てが詰まっている。科学力が劣っている君たちに渡せば、この百五十年が無駄になるだろう。あの爆弾に入っている物質を探知してここに直接来てもらえるようにした。あれはただの百五十年後の未来から持ってきた科学物質で害はない。君らの知らない物質であることを願う』

 振り返り爆弾をみる。緑色に光ってるあれの事だろう。

『今から十五分後にここを爆破する。逃げてくれ。何億いや何百億人の命を奪っているだろう僕が言うのもおかしいが、君たちには生きて残って欲しい。そして伝えて欲しい。未来がどうなるのかを。平均寿命三十五歳になった未来を君たちの子孫に残したいかと。まあ、言葉で言ってもたとえ未来を見せても、人間の探究心や利便性を求める心は変わらないだろうがね。だから、僕は行動したんだけれど。ゴホッ、ゴホッ』

 男は苦しそうだ。もう寿命が過ぎているんだろう。この映像を残しに日本に戻って来たのかもしれない。もう全ての準備は整っているんだろう。マザーコンピューターもマウス製造機もあのトラックも解体機も爆弾も砂嵐を作り出す機械も。後はこのメッセージだけだったんだろう。

『では、僕はここで僕の作った兵器の成果を見届けるよ』

 ここで一同どよめいた。彼は一番はじめのマウスの襲撃の被害者になったのか。

『いくら決意をしても結果を見てこの計画を止めてしまわないようにね。君たちの今の時代の地球が輝きに満ちている事を願っているよ』

 ここで爆撃の音がする。すぐに画面に砂嵐がはいり、画面は消えた。マザーコンピューターも動きを止めたようだ。動いてるのはマウスを運ぶ音とマウスを破壊する音だけになった。

「あと十二分です!」

 爆弾付近にいた学者が叫ぶ。

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