第23話 人間の貪欲さ

 会議室が閉められた。全員揃ったようだ。

 前から司令官が入ってきた。

「精鋭部隊に志願し集まってくれて本当に感謝している。ビデオですべてを見させてもらった。もちろん全世界にも配信している。マウスの大量襲撃の後なのでリアルタイムで見ることのできない者もいるだろうが全てに行き渡るよう明日にもまた配信予定だ」

 そんなに、酷かったんだ、今回のマウスの襲撃。

「あの時点で行かなければマウスはさらなる攻撃に出てきていただろう。諸君らの迅速な行動には感謝しきれない」

 そうだ、マウスは作られ続けていた。まだやる気だったんだあそこに誰かが来るまで。そして、首都を攻撃して、最後のあがきでまた人類の進歩を遠ざけようとしていた。きっともっと凄まじい攻撃までいっていただろう。

「精鋭部隊の諸君! 他の部隊の正規戦闘員、戦闘員には本日をもって除隊を宣告している。本日はもう遅い上に長距離の飛行とマウスの巣の襲撃と疲労も多いだろうと思われるので、ここでもう一泊してもらう。明日付で諸君らも正規戦闘員の除隊をしてもらう。明後日からは一般市民となる。今までご苦労だった。市民を駆り出さなければ、こんなにも若い命をかけなければならなかったことを申し訳なく思う。明日は特別に休日とした。それぞれ持ち場に帰還後は家に帰りゆっくり休んでくれ。以上」

 明後日からは一般市民。ただの高校生となるんだ。想像できそうで、できない感じだ。


 司令官が退場し、桜田隊長が前に出て来る。

「ご飯の用意が出来てるそうだ。その後は自由。朝食は八時なのでそこには遅れないように。出発は十時になる。帰還先はバラバラなので配属先に着いたらそちらの部隊長が待っているので指示があるかもしれない。では。解散」

 やっぱり緊張が解けて砕けた感じになるのか、もう命令とかは必要じゃないからか、修学旅行の先生みたいだった。


「東出君ご飯行こ!」

「ああ、もうクタクタ。お腹も減り過ぎで感覚わかんないよ」

「私もー」

 あれ? 南、俺を引っ張ってるけどこれって……ただ引っ張ってるだけか。



 ご飯の後、家に電話した。

 軍からは連絡もあるし映像もある。マウス襲撃の方が危険度は高かったんだし、そこまで心配してないだろうけど。

「もしもし、母さん、薫だけど」

「うん」

「あの、明日帰るね」

「うん」

「明日正規戦闘員除名だから」

「うん」

 ああ、うん。しか言わない母。わかった悪かった勝手に精鋭部隊の志願して!


 南も電話している。

 また、廊下で待つ。帰りだし、みんな無事だから、明るい電話が多いけど、中には暗い顔の者もいる。今日のマウス襲撃で知っている誰かが被害にあったのかもしれない。


 南が出て来た。俺を見てまた涙が一筋頬を伝う。

 が、すぐに笑顔になる。

「心配し過ぎで寝込んだとかまでいうのよ。本当、困った人だよ」

 勝手に精鋭部隊の志願して困った人は俺達かもよ?


 寝てしまいたい! が、なぜかずっとそばに南がいるんで談話室に変貌した訓練所に行く。

 シュミレーターが目に入る。

「南! 行っとく? 全滅」

 南は笑いながら首を振る。

「もう必要ないからね!」

 なぜかバシッと肩を叩かれる。

「んだよ。まあ、必要ないもんな、もう!」

「ねえ、また出てきたら?」

「え?」

「未来からタイムマシンに乗って!」

「もう勘弁してもらいたいよ。もっと平和な解決方法見つからないのか?」

 あんなすごいものいっぱい作っておいて。あ、タイムマシンも。

「人間の貪欲さを止める機械はないんじゃないのかな?」

「ああ。貪欲さかあ」

 それぞれの思いに先ほどの記憶を巡らす。人類の為だったんだろうか、地球のためだったんだろうか、それともあの男の自己満足の為だったんだろうか。でもあの男の言う、百五十年後ではない未来がある。森があり空は澄み渡り、海は青い。あの男の写していた百五十年前の日本よりも。

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