時計の針が重なる時に

石之宮カント

第0話

「ああ……」


 彼女は目を見開き、感嘆の声をあげた。


「ようやく、追いついてきてくれたのね」


 皺に覆われたその頬が、笑みの形に歪む。


「ええ。ずっと、ここで待っていましたよ」


 かつては街一番の美女と言われたその瞳が、若い頃と同じように、キラキラとサファイアの様に輝いた。


「……うん。いいの。最後にもう一度、こうして会えたんだから」


 老女はゆっくりと、その目を閉じる。


「ええ。……勿論。しあわせでしたとも」


 まなじりから涙が溢れ、彼女の頬を伝う。


「行きましょう……あなた」


 そう言ったきり。


 彼女の心の臓は、もう二度と脈打つことはなかった。



 白い影がさっと駆け、いななく。

 無数の花弁が舞い散り、老女の身体をゆっくりと埋め尽くした。

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