第二声 出会いの唄2
僕と
「さて!改めてよろしくね!アカゾメ君!」
橘さんはバンと机を叩き身を乗り出した。
…少し落ち着け!
でも改めてよく見ると、橘さんって背が高いなあ。一緒に歩いてて気付いたのだが、僕の肩より少し高かった。僕が177cmだから、大体170cmはありそう。そういえば...と最初に見た時に気になったことを尋ねてみた。
「橘さんってもしかしてハーフ?」
こういう質問って、人によっては嫌がるかも、と聞いてから後悔した。しかし橘さんはそんな事を気にもせずニコニコ...(いや、ニヤニヤと言った方がいいような)顔でこう答えた。
「うん、そだよー!カナダとジャパンのハーフ!因みに母親がカナダ人で父親が日本人!」
「そっか。その髪色もハーフと関係が?」
「ああこれ?これはね、髪染めようとして失敗しちゃったの!うふふ!元々は黒にしようとしたんだけど何故か淡いピンク色のやつ買っちゃって、気付かなくてこうなっちゃった!ふふふ!」
そんなミスするか!?黒とピンクなんてだいぶ違うぞ!!
「話は変わるけどさ、アカゾメ君はどうしてこのライブを見に来ようと思ったの?」
橘さんは頼んだカフェラテに口をつけた。
「好きなグループが出るから、だよ。」
「ほう!その好きなグループって?」
「”KUnoMA”ってグループだよ。」
そう言うと橘さんは目を輝かせた。
「Wow!ワタシもそうなの!!そのグループ大好きなの!!」
「いいよねKUnoMA。ネットでたまたま見つけてそれからハマった。」
「!!。いいねいいね!!ワタシはね特にあの曲が―」
その後はずっとKUnoMA について語り合った。今までこんなにアカペラに関して話が合う人がいなかったので気分が高ぶった。
ふと我に帰り、スマホで時間を確認した。
「あ、もうこんな時間だね。そろそろ行こっか?」
「そうだねー!いやー楽しみだなー!」
そう言って橘さんは半分くらい残っていたカフェラテを一気に飲み干した。僕もそれにつられてブルーベリーシェイクを飲み干した。
* * *
ライブハウスに戻る道中はテンションMAXの橘さんの弾丸の如く飛んでくる言葉を頑張って捌いていた。うーん、弾丸の数が多過ぎて話の内容忘れちゃったよ...。
そして会場に入り、しばらく待っているとステージ上に一組目の男3人女3人という構成のグループ“
ふと、隣にいた橘さんを見ると、彼女は真顔で“王道ず”を観ていた。僕はその表情に少し恐怖した。
それからはとても個性的なグループが続き、最後に登場したのが、僕と橘さんが今日一番見たかった”KUnoMA”だった。
「「「きゃあああああああああああああ。」」」
周りからすさまじい歓声が上がった。
…ほとんど橘さんの声だったけど。
ちなみに、観客は大学生らしい人がほとんどで、周りをみても高校生なのは僕と彼女だけだった。
「「「きゃあああぁぁぁああああああああああああああ。」」」
歓声が無くなっていなかったが、KUnoMAは歌い始めた。
その瞬間、僕はその迫力に圧倒されてKUnoMAの歌しか聴こえなくなっていた。
―――アップテンポなレゲエ風の一曲目がおわり、KUnoMA全員が「ありがとうございます」と言うと、リード(メロディー部分を歌うパート)の人がしゃべりだした。
「みんなー今日も来てくれてありがとねー!!」
その声はとてもはっきりしていて綺麗であり、迫力もあり、どのジャンルの歌も自分のものにしてしまうような声をしていた。僕はそれだけで満足してしまったため、どんな話をしていたのか内容が頭の中から滑り落ちていった。
その後はロック調の有名なJ-POPを歌い、
「最後の一曲です!」
と言うと周りから
「ええーーーー!」
「まだまだ足りねえよーーーー!」
という声が飛び交った。
「まあ気持ちはすっごい嬉しいんだけどね、一曲目のあとしゃべりすぎちゃって時間無くなっちゃったの!」
KUnoMAのリードがそういうとドッと笑いが起きた。
「では名残り惜しいですが、最後の曲です。この曲はこのメンバーと初めて出会ったときに感じた、私たちオリジナルの歌です。それでは聴いてください、”出会いの唄”―」
その歌は、さっきまでのハイテンポな曲とは違い、
静かに、
それでいて力強く、
ひとつひとつの言葉をかみしめながら、歌っていた。
歌詞もそんな歌声とマッチしていて、盛り上がっていた会場がさっきとは違う世界になっていた。
そして、サビになると――――――
抑えていたものが一気にあふれだすように曲の雰囲気が盛り上がった。
「凄い。」
僕は思わずそうつぶやいていた。
* * *
「いやー凄かったね!もう今日は興奮して寝れないかも!!はああああ!どうしようどうしよう!というか今日帰りたくないなって思えてきちゃった!」
橘さんがさっきよりもさらに高いテンションで話しかけてきた。
「凄かったね~。」
「ええ!感想それだけなのアカゾメ君!」
「勿論僕だってテンション上がってるよ、特に最後の―」
「最後!そう最後の!凄かったよね!こう、サビのところでガッとなったところがもう!きゃああああって感じだった!」
「…うん。そうだよね。っていうかずっと会場にいたら迷惑だろうから行かない?」
「はッ。そうだね!」
そして僕たちはライブハウスから出て、駅まで向かった。
「アカゾメ君はどこで降りるの?」
「
「Wow!一緒じゃん!じゃあ帰ろー!」
電車内でもテンション高いままだったらどうしよう、今度は人多いし迷惑になりそう…という僕の心配をよそに、隣でスース―と寝息をたてていた。
今宿中央駅に到着し、
橘さんを起こし、
電車から降り、
改札を抜けると橘さんはニコニコしながら、
「じゃあねアカゾメ君!…いや、”じゃあね”は止めよう。君とはまたどこかで会えそうな気がするから、”またね”!今日はアカペラだけじゃなくてアカゾメ君とお話しできて楽しかったよー!じゃあね!」
そう言われて顔が熱くなった。
……というかおいおい、じゃあねって言ってるじゃないか。
でも、またどこかで会えたらいいな。
そんな気持ちを込めて僕は彼女に負けないくらいの元気な声で、
「またね!!」
と挨拶をした。
…あ。連絡先聞けば良かったんじゃないのか……まあいいか。
* * *
それからしばらくたち、今日は4月1日。僕は高校2年生になった。
―僕はこの時、まさか、またすぐに彼女に会えるなんて思いもしなかった。-
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