アカペラに青春をかけるワタボク♪
NqzoNqzo
第一声 出会いの唄
「凄い...」
自然とそう呟いていた。
5人という少人数で、しかも一切楽器を使わず、人の「声」のみで奏でられた歌。
それぞれが思うがままに体を動かし、時には全員でアイコンタクトをとる。彼らは見ている人の心を華麗に奪い去っていく。
特にハモりがとても綺麗だった。徐々に、徐々に、音の重なりが増える。綺麗な高音から体に響く低音。
そして、グルーヴが襲ってくる。変拍子や転調がバチっと決まり思わず飛び上がりそうになる。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、この世のものとは思えない程、強く、強く、印象に残った。
これが、
これが――――――――
――――――“アカペラ”
その日からずっと記憶に残り続けた...
* * *
「いってきまーす」
僕はげんなりしながら家を出た。
「今日も雨か…」
学校までは大体自転車で20分。まあ近い方だと思う。ただ、雨が降った時はとても面倒だ。真っ赤で頑丈なお気に入りのリュックサックを濡らさないように大きめのレインコートを羽織らなければならないからだ。ここ5日ずっと雨で、レインコートを羽織るのがとても面倒だった。
憂うつになりながらも、
今日は高校1年生最後の日だからまあ許してやろう…ってなんで上から!?
という心の中の自分と漫才をしているとようやく学校に到着した。
「(今日は終業式だけだし、“アレ”に間に合いそうだな…)」
そして僕は自転車を校門と校舎の距離がちょうど真ん中くらいになる位置に置き、着ていたレインコートを自転車に被せて校舎に向かって走った。
* * *
「…とうとう高校生活の3分の1が終わったんだなー。早いよなー。」
終業式が終わり、成績表が渡された後、前席の“
「でもまだ始まったばっかりだよ。そういえば、タメアツは最近バンドの方はどうなの?またライブするって聞いたけどホント?」
為篤は凄くニコニコしながらこう言った。
「はっはっは~!よくぞ聞いてくれた!わが友“マモル”!実はな、今度ワンマンライブすることになったんよ!!いやー、俺の夢がまた一歩近づいたぜー!!詳しく説明するとな――――――」
為篤の話を要約すると、
彼が所属している4人組ロックバンド“color beenz”はストリートやライブハウス等で精力的に活動しており、市内外のファンもかなり多い。そんな絶賛活躍中のバンドがとある音楽スタジオで練習中の際、以前出演したことのあるライブハウスのオーナーに“ウチでワンマンライブやってみねーか?”と誘われたらしい。
「…ってことで良かったらお前も来てくれよ!!あ、チケット代は2000円+1ドリンクだから!!」
かなりテンション上がってるなあ。そのテンションで雨を止めて晴れにしてほしいよ。
「うん。行く行く。っていうか日にちは?」
「おう!日にちは…えっと…あれ?いつだったかな…うーん。」
でた。たまに抜けてるんだよなあこの人。
「まあいいや、後でRINE送るわ!…ところでさ、」
「なに?」
「マモルこそ最近どうなんだよ。例の“アカペラ”は~?」
僕は思わず為篤から視線を逸らした。
「………まだ誰もいない………。」
それを聞いた為篤はため息を漏らした。
「はあー。まだ集まらないかー。誘い方変えたか?俺が言った通りにしたか?」
僕はため息をついた。
「いや、緊張しちゃって、その、いつもと同じ誘い方になっちゃった…。」
「またか…いい加減変わらないとこのままズルズルだぞー。」
僕は椅子に座り直し、天井を見上げた。
そう、変わらなきゃいけない。自分でも分かってる。だけど…
為篤は頭を掻いたあと、焦げ茶色のギターバックに今日配られたプリントを無理矢理ねじ込んだ。
「さすがに、初対面の奴に“僕とアカペラやりませんか?”なんて言われてもすぐに“いいよ”なんて言う奴いないって。しかもそれで終わりだろ?一回断られたらもう二度と声かけないんだろ?そりゃ、集まらないだろー。」
「…ごもっともです。」
そう、僕は交渉が下手なのだ。(緊張するし、人と話すのは苦手だけど)ストレートにものをいうことはできるが、ストレート過ぎて相手にかわされてしまうのだ。また、僕は諦めるのが早い。断られたらもう無理だと思ってしまう。
「はあ。マモルのその行動力はめちゃくそ良いと思うんだよ。けどなあー。」
「ははは…。」
うつむきながら僕はリュックに荷物をまとめた。
* * *
校舎を出ると雨が止んでいた。さっきまで黒く分厚い雲に覆われていた空から青色が覗いた。本当に為篤のテンションのおかげかもと少し笑ってしまう。
自転車に被せていたレインコートを丸めて籠に入れ、スマホで現在の時刻を確認すると、
―午後11時28分
うん、まだ余裕がある。一旦家に帰るか。
僕は自転車にまたがり、ペダルを踏んだ。
* * *
「ただいまー。」
しーん。
まだ、誰も帰ってきてないみたいだな。
玄関で靴を脱ぎ、急な階段をあがり、2階の自室に入った。予定の時間まで余裕があったので、イヤフォンを装着し、小型音楽再生プレイヤー“!bod(ビックリボッド)”に入っている曲をランダム再生した。
「えーっと、場所はどこだったかな。」
音楽を聴きながら、机の中を探し、目的のものを見つけた。
「…18時から入れるのか…。」
僕が行こうとしてる場所というのは、家から自転車と電車を使って40分のところにある都内のライブハウス“000(トリプルゼロ)”だ。今日そこで有名なアカペラサークルに所属するグループ6組が歌うということで、僕は前々から興味を持っていた。特に僕が最も聴きたいと思っていたのが、6人組の“KU no MA”だ。
このグループはギャルバン(全員女性のグループ)でしっとりとしたバラードから、激しいメタルなどかなり幅広いジャンルを歌っている。人気動画投稿サイトYabaTVで始めてみたときに衝撃を受けた。生で聴きたいという願いが今日叶うんだ!!そう思うと心臓の鼓動が早くなった気がした。
しばらく曲を聴き続けて時間をつぶした僕は少し眠りについた。
* * *
ワタシは今日という日をとても楽しみにしていた。なんせ、あの人気アカペラグループ“KU no MA”を直接目にすることができるから!他にもたくさん出演するみたいだし、今日はなんて良い日なんだろう!
ワタシは最寄りの駅まで思わずスキップしていた。
* * *
カーカーとカラスの鳴き声で目を覚ました。
「!」
いつの間にか寝てた!!今何時だ!?
僕は慌てて机の上の電波時計を確認した。
―15:20
「ふう。なんだ、まだ大丈夫じゃん…」
とは思ったものの、次眠ったら今度こそ遅刻しそうという思いに支配されてしまい、予定よりもだいぶ早く家を出た。
家から駅まで自転車だと7分で着く。そこから電車で20分、駅からライブハウス000まで10分といったところだろう。
「16時に出たからかなり早く着いちゃうな。まあいいか、ライブハウス周辺で時間つぶすか。」
アバウトでざっくりした予定を決めながら、僕は自転車をこぎ続けた。
駅に到着するとちょうど電車が来た。乗り込むとその車両には奇跡的に一人も居らず、ちょっと優越感に浸った。
「ダァシエリイェス!!」
ドア付近に座り、発射メロディーがなった時――――
「せーーーーーーーーーーーーーーふうううううううう!!!!!」
「うぉ!」
女の子が目の前のドアから大声でセーフと言いながら車内に入ってきた。僕は思わず声を出してしまった。すると、アナウンスで
「駆け込み乗車はお止めください。」
と流れると、女の子は
「んあ!ごめんなさい!」
とさっき入ってきたドアに向かって頭を何度も下げながら謝っている。
僕はその一部始終を見て、吹き出しそうになるのを堪えるのに必死になっていた。しかし、女の子は僕の存在に気付いた様子はあったが、特に恥ずかしがる様子もなく、僕の目の前に座った。
「(さてと、電車内暇だし、曲でも聴くか…ってあれ?…あー、家に!bod忘れちゃったよ…)
電車内で暇を潰す為のものを持ってくるのを忘れた僕は目の前の女の子を観察することにした。
彼女は今スマホにイヤフォンを繋げて何かを見ている様子だった。
よく見るとどっかの国のハーフかなと思わせる顔立ちでかなり整っている、と思う。肌は白く綺麗。髪は薄いピンク色で、後ろ髪を白いシュシュで留めている。この髪型って、ポニーテールっていうんだっけ。目はキリっとしているが、口元は何故かニヤけていた。美人なのになんかこう、変な人だなー
というのが僕から見た印象だった。服装は...おしゃれとかよく分からないからいいか。
すると突然ー
「ブッ!ハハハハハハハ!」
「!!」
急に笑い出した!!びっくりした。なんだよ一体!?それにしても、この人は周りを気にしないんだな。
その後の彼女は、急に吹き出す事はなかったが笑いを必死に堪えていたり、真剣な眼差しになったり、怖がったり怯えたり......など、表情がコロコロ変わっていった。その様子を見るのが楽しくて僕は電車内で退屈しなかった。
「(ふふ、どうも、ありがとうございます)」
と心の中で感謝の言葉を呟いたのと同時に、
「次はぁ~空袋~そらぶくろ~駅ぃ~。お出口はぁあ~ん、左側でぇす。」
あ、もう着いたのか。そう思い、立ち上がると、
「(えっ!)」
向かいに座っていた彼女も僕と同じタイミングで立ち上がった。
「(あの人もここで降りるのか。もしかして目的地一緒だったりして。いや無いか。こんな早くに普通来ないよな。)」
彼女が座っていた方のドアが開いた。
* * *
その後、僕はあの不思議な女の子と会う事はなかった。
.......
って思ってたのに!マジですか!僕は思わず声が出そうになった。
駅周辺には”ドショート”というカフェがあったのでそこで時間を潰そうとしたが、後で迷ったら困ると思い、電車から降りてまっすぐライブハウス000に向かうと、ずっと僕の前をあの子が歩いてるじゃありませんか!
僕より先にいる彼女は、ライブハウスの前に着くとどうしていいのかわからない様子で右往左往していた。こういう時、僕は話しかけるようなタイプでは無いのに、何故か声を掛けていた。
「あ、あの...えっと、ど、どうされました?」
緊張して声が上ずってしまった。ああ恥ずかしい!!
背を向けていた彼女はクルッと僕の方を向いた。一瞬ぽかんとしていたが、すぐに表情がパーっと明るくなった。すると―
「あ!さっき電車でずっと一緒だった人!もしかして今日ここでやるアカペラライブ見に来たんですかー!?実はワタシもそうなんですよー!!本当はこんな早く来る予定じゃなかったんですけど、始まる時間をまちがえちゃってー!ところでアナタも高校生?なら嬉しいなーこういうライブって高校生あんまり来ないらしいので仲間が増えたって思えて嬉しいなーー!そうそう!今日このライブで出るグループの中でワタシのオススメは...」
「ちょ!ちょっと待って!」
予想だにしていなかった怒涛の攻めを仕掛けられた僕は一旦制止させるので精一杯だった。すると彼女は、
「どうしたの?」
と首を傾げた。
「いや、その、一気に来られて、頭が追いつかなくて...えっと、僕もアカペラライブ見に来ました。」
「ああゴメンナサイ!テンション上がるとついこうなっちゃうの。でもアナタもなのね!なんだか嬉しいなー!でも来るの早くない?まだかなり時間あるよ?」
「あー、えっと、今日のこのライブが楽しみでつい早く来ちゃったんです。」
「そうだったんだねー。ところでおいくつ?ワタシは16歳でーす!」
「あ、同い年です。僕も16歳。」
「ホント?じゃあお互いタメ語で!」
いいけど、さっきからちょいちょいタメ語だったよね?別にいいんだけど。
彼女は両手を上に上げて伸びをした。
「んーーー!折角こうして会えたからもっと話したいけど、ずっとここに居るのは邪魔だよね。どこかいい場所知ってる?えっと、何君?」
僕もつられて伸びをした。
「赤染。あかぞめ まもる、です。さっき駅前にドショートっていうカフェあったけど、そこはどう?」
「おーあそこカフェだったんだー!いいよ!そこ行こ!おっと、因みにワタシは”
―これが、僕と彼女の初めての出会いである。―
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