第八章 最強の審判(1)
僕と、白い男は――ラデスは、同時に動いた。
僕は、刀を天に突き刺し、そのまま振り下ろす。
対してラデスは、地を這うようにぶら下げていた刀を、天に向けて振り上げた。
強烈な斬り下ろしと斬り上げが激突し、まばゆい閃光が宙に生まれる。衝突の衝撃によって軌道がそれた刀が、波打つ銀の円弧を描いて戻ってくる。それぞれが必殺を掲げる一撃だというのに、斬り合いは続いた。
「よいな」
ラデスが嬉しそうに、その低い声音を響かせた。
眼を爛々と輝かせ、新しい遊びに夢中な子供のように、笑っている。
「こうして斬り結べるというのは。俺様の攻撃はすべて一撃で終わってしまう」
「知らないなら教えておいてやる。規約で殺生を禁じれば、それは解消される」
くつくつとラデスが、目を細めながら、また笑う。
「それはまったく考えもしなかった。俺様もそうすればよかったかな?」
「ほざけ」
殺人を至上の快楽だと主張するこの男が、殺しを禁止する規約を作るはずがない。呑むはずもない。
「これはどうかな?」
ラデスは大きく後退し、左手を前に突き出し、刀を持った右手をだらりと下げる。
左手が発光し、新たな武器が出現した。それは小銃だった。
僕は意識を集中して襲い来る弾丸に備えた。
ズドォォンッ!
小銃とは思えない、大砲でも撃ったんじゃないかというほどの轟音が、大気を振動させ、広場に拡散していった。頬がびりびりと痺れ、踏みしめる大地から巻き上がる小石が身体のあちこちを叩いてくる。
ギイイィィン!
弾丸を殺すと念じ、刀に衝突して角度をずらされたそれは、一瞬であさっての方向に消えていった。
ばきばきばきっ!
何かが倒壊するような音が、立て続けに起こり、何事かと視線を向けると、広場を
囲む大木の何本かが、横倒しになろうとしている。
即座に視線を戻すと、ラデスは小銃をしげしげと見て何やら首をかしげていた。
「ふむ、まあまあか」
「何が、まあまあ、だ。洒落になってねえぞ」
弾丸を受け流した余波が、確実に僕の腕に残っている。刀が折れなかったことが、信じられないくらいの威力だった。
「使い手が替われば、武器の性能もまた変わる、ということだな」
「お前がさっき喰った部下のことを言ってるのか?」
「部下だと?」
ラデスはそう言って、呆れたとばかりに眼を大きくし、口を開けた。
「残しておいた菓子に向かって、部下とは……笑わせてくれるではないか」
「それが仮にもお前を慕った男に対する言葉か!」
「虫ずが走る」
僕と、ラデスの間を隔てるように、大きな爆発が起こった。
激発物破裂罪が、奴の喰った者にいたのだろう。
罪の把握は能力の推測に直結する。僕らは、設営本部で膨大なポイントを支払い、罪の簡易辞書と呼べるものを景品で獲得していた。
どおおおおお!
続いて、地鳴りとともに、地面から巨大な物体が生えてきた。いくつかの箇所が、月光を反射して輝いている。高層建築物だった。
ラデスは高層建築物に乗って、僕を見下ろしながら徐々に上空へと遠ざかり、背の青白い満月と同化していった。
白い浴衣は淡く発光しているように白く、髪の毛は銀糸のよう。握られた刀と小銃は青白い月光を反射している。
突如として建造されたビルにより、影ができる。僕は影のなかに身が吸い込まれるのを気にせず黙っていた。視線の先は常に、白い男にある。
「激発物破裂罪に、建築基準法違反か」
「ほお! よく知っているではないか!」
高く、遠い位置から、男の声が降ってくる。
「さて、俺様の気分を害してくれた礼に、とっておきの贈り物をくれてやろう!」
ラデスは、切り札を切った。
それは、僕らが確認したときにはすでになくなっていた、最上級の景品だった。
ウオーンという、警戒音のようなものが鳴り響き、決闘場の境界を示していた紫の薄い幕が……消えていく!?
「アキラ――ッ!!」
「アキラさーん!!」
その時になって、僕はようやく仲間の声を再び認識した。
「あやつを撃て!」
これから起こることを察知した僕は、慌てて長筒を作り出し照準をビルの上に立つラデスに合わせようとした。
「ふははは、遅いわ! 《
直後、祭りの会場全体が、戦場と化した。
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