第七章 大罪の栄冠(3)
「その真っ黒な浴衣は、返り血を隠すためのものか」
白い男が、僕に向けて最初に放った言葉だ。
男は、僕のすぐ目の前まで来ている。すぐ傍の地面には先ほどまで闘っていた男の遺骸が横たわっていた。
「臆病そうな貴様の性格が出ている良い色ではないか」
「なぜ殺した」
「なぜだと? そんなもの、こうするからに決まっているだろう」
白い男がそう言うと、口を大きく開けた。
カンブと呼ばれた男のむくろが、口に吸い込まれ跡形もなく消えてしまった。
「なかなかの美味だ」
「感情論を抜きであえて言わせてもらおう。あいつは僕に負けたと宣言したはずだ。なのに、勝者にのみ与えられる行為を……なぜお前が?」
白い男は、ぺろりと舌なめずりをした。
「簡単なことよ。あやつは貴様に負ける以前に、この俺様と戦い敗北していたのだ。この瞬間まで生かしておいてやっただけの話よ」
「何のためにだ」
「余興にちょうどよく、面白そうだったからだな」
「それだけか?」
「他にもあるぞ。ただ殺すだけではつまらなくなってしまったからな。負かした奴ら同士で殺し合わせ、最後のひとりになるまで眺める時間はなかなかに愉快であった。主催者はきっとこれがやりたかったに違いあるまい」
「お前は……殺した後に後悔はしないのか?」
「なんだそれは。快楽こそ殺人における至上の楽しみではないか、たわけが!」
男はけらけらと笑いながら吠えた。
僕のなかで、何かが切れる音がした。
「名前を聞かせてくれないか?」
「聞いてどうする? お友達になりましょう、とでも言うつもりか?」
「なに、これから殺すかもしれない相手なら、名前くらいは覚えておいてやらないとかわいそうだろう?」
「くっはっはっは。とんだ腰抜けかと思っておったが……」
静かに僕は、右手に刀を作り出し、正眼に構える。
「なるほど、貴様との決闘は、やはり面白そうだ!」
白い男もそれを察知したらしく、大きく後ろに飛び退いた。男の右手がばちばちと赤い光を放ち始め……僕と同じような刀を握った。
片手持ち。
刀は地面に向けてゆらりと下げている。
正眼ではなく、斜めに身体をずらした独特の構え……西洋の刺突剣を彷彿させるがそれとはまったく別物だと警報が鳴っている。半身から放たれるものは雄弁に語っている。
『さて、どのように殺してやろうか』
「俺様の名は、『殺人史家、ソク・ラデス』!」
「アキラだ」
「長ければラデスでもよいぞ。特別に呼ぶことを許してやろう!」
この時、僕は、自分が何のために闘っているのか見失っていた。目の前で理不尽な殺しを見せられたから、その元凶に殺意を向ける。
ただそれだけだった。
後ろから届いているはずの声を認識することはなかった。
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