第六章 運命の時(5)

 僕らは書状に記された決戦の地、第六十六番広場へ足を踏み入れた。

 道中は不安を塗りつぶすつもりで力が入り、身体が強張っていた。手ににじむ汗が冷たく感じ、背中にも同じ悪寒が走りっぱなしだ。

 隣を歩くゴエモンも、これからはじまる死闘を前に表情を引き締めている。僕とは違って、不安を表に出さないのはさすがだが、歩調の乱れは確実に平常心ではないと物語っていた。

 ミンコに至っては、努めて笑顔を作っているが、無理をしているのがばればれで、見ていると緊張がこちらに伝染してしまいそうだった。


「……」

「……」

「……」


 その場に足を踏み入れるまで、誰も口を開かなかった。

 しかし。


「……これは、どうなっているんだ?」


「閑散としすぎておる」


「あれだけ賑わっていたのに、みなさんどこに行ったんでしょう。まるでここだけ、お祭りの会場から外されてしまったみたいです……」


 そう。

 第六十六番広場の入り口に立った僕らは、同じ感想を持った。

 静かすぎる、人が居なさすぎる。

 ここは花火を打ち上げる用途の広場だったらしく、出店が最初から一軒もなかったことは確認済みだ。それでも夜空に打ち上がる、赤、青、緑、黄色といった鮮やかな華を観るために賑わっていたはずだ。

 だと言うのに……。

 今はまるで墓場のように、すべてが沈黙している。


「……墓場……」


「……」

「……」


 風に揺れる橙色の提灯は、さまよう魂を彷彿とさせる。

 人という主役がいなくなり、夜空の闇に浮かぶ白く大きな満月が、会場全体を睨み付けているようだった。

 暗さに眼が慣れてきた頃、僕は広場の中心に二人組が立っていることに気づいた。

顔は判然としないが、体格はここからでもわかる。片方は長身の割にずいぶん細身な男性のようだ。もう片方は……チョッパヤの言葉が甦る。


『髪の毛もちょうど似た感じにボサってたかなあ。ああ、ついでに髪の毛も白かったっすね。背丈も体格も……そういや驚くほどそっくりっすねえー』


 黒い浴衣に黒髪の僕とは真逆で、白い浴衣に白髪の、しかし体格はまるで瓜二つな少年が斜に構えていた。

 僕らが彼らの存在に気づくと、長身で細身のほうの男性が、こちらに振り向いた。こちらですよ、と言うように手を上空に伸ばして、左右に振っている。


「余裕の挑発だと思いたいな」


「侮ってくれているならば、僥倖じゃ」


「笑っているのに、なんだかあの人、怖いです……」


 僕らは、二人組に向かって近づいていった。

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