第五章 祭りの賑わい(8) ー影の会話ー

「ごくろうさま」


 誰もいなくなった射的屋の店主に、誰かが声をかけた。


「見てたのか?」


「まあね」


「趣味わりぃ」


「褒め言葉と受け取っておくよ」


「まあいい。それより、あいつが今回の――――なのか?」


「そうでもあり、そうでないはずだとも祈ってる」


「はっ、いけ好かねえ餓鬼なのは変わってねえのな」


「失礼だな。だっていろいろ考えたんだからな」


「ん、ああ。俺っちも知らなかった仕掛けがそれか」


「彼ら、楽しんでもらえたかな?」


「んー? まあ見ていた感じじゃ楽しんでたと思うぞ」


「それはよかった……」


「特にあの嬢ちゃんとちびすけは外せねえだろうな」


「どういうことだい?」


「嬢ちゃんのほうは、能力がほぼ皆無だ。遊んで楽しめる出店はほぼねえだろうな。ちびすけのほうは、真逆で能力が強すぎる。あれじゃあそのうち出店を吹っ飛ばしちまってもおかしくねえ」


「それは困ったな」


「観てたんだろ? あの二人は見事にてめえの用意した連携技を決めてみせやがったじゃねえか」


「強すぎる能力を、弱すぎる能力で出力調整する、か。……ふふふ、そんなのぼくは考えてなかったよ」


「あんだと?」


「ただ単純に、協力プレイもできたほうが楽しそうだと思って仕掛けただけさ」


「ってことは、あいつら……てめえを出し抜いたってのか!?」


「そういうことになるかな」


「なんてこった。まあ、でかいのが精神的な支えになってた節もあったがな」


「暴れ馬が彼で、手綱が彼女で、乗り手があの大男ってところかな?」


「うめーこと言うじゃねえか。っと、もう行くのか?」


「……あまり見ていると肩入れしたくなっちゃうかもしれないからね」


 じゃあ、と言い残し、『ぼく』と名乗った誰かの気配は消えていった。


「ほんっと、誰がこんな残酷な世界を作ったのかねえ……」


 射的屋の店主の声は、誰もいない夜の空に吸い込まれていった。

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