第五章 祭りの賑わい(1)
やはり強盗罪を起源とする偉丈夫は、はなっから僕らを殺すつもりはなかったとのことだった。
「手加減したってのか?」
「それはない。規約の範囲内で、我が輩は全力で貴殿らを潰すつもりで挑んだ。確かに魅力的な計画ではあるが、現実味がないと思ったのでな。ならば我が身で試すまでとふっかけたのだよ…………つっ」
偉丈夫は、細目を痛そうにこすった。
「悪い。こっちは完全に本気だった。閃光弾でやられた眼、まだ痛むか?」
「気にするでない。本気で来るよう挑発したのは我が輩なのだ。しかし……閃光弾と言ったか? 我が輩は至近距離で花火が炸裂したように見えたぞ」
「適当に『敵の眼を殺せる武器』で生成したからな。厳密には閃光弾じゃなかったのかもしれない。忘れてくれ」
それより……、と僕は続けた。
「さっきの混戦のほうが気になる。あんたが負けを宣言した時点で決闘が終了した。おかしくないか? だってまだこの娘が残っていたんだぞ?」
僕の隣にちょこんと立っている、薄い桃色の浴衣を着た少女を指さした。もちろん計画の最重要人物、ほぼ罪にならない道路交通法違反が顕現した存在、ミンコだ。
「それは簡単だ」
偉丈夫は、深く息を吐き、答えた。
「我が輩が決闘を申し込んだのは貴殿らだ。そして貴殿が我が輩に勝った。その娘が貴殿とそのまま戦い続ける意志がなければ、貴殿と娘の決闘は成立せん。ゆえに終了したのだ」
「なるほど、意図せず巻き込まれた場合にも、決闘の選択権はあると……待て。もしあんたとの決闘中にこの娘が殺された場合はどうなる? あんた、僕から奪った猟銃をぶっ放してきただろう。あれが当たったとしたら?」
「む……」
偉丈夫は、たくましい腕を組み、悩ましい表情を作った。
「すまぬが、それは我が輩にも解りかねる」
「……じゃああんたは、どこで決闘や混戦の知識を得たんだ?」
「それは、これじゃ」
偉丈夫は、袖のなかから小さな冊子を取り出した。
「これは初歩じゃが、ある程度の規則が書いてある」
「それはどこで手に入るんだ!?」
「出店の景品じゃよ。貴殿、さては決闘のことばかりで、祭りのことはまったく調べておらんのではあるまいな?」
ぎくっ。
まさにその通りだった。
「その顔は、図星か。ふう……我が輩も同行したほうが良さそうじゃな」
「な、仲間になってくれるのか!?」
僕は身を乗り出して、偉丈夫に接近した。
「なるもならんも、先の決闘で我が輩は貴殿に負けたのじゃぞ? 決闘の敗者は勝者に従属するのが基本規約じゃ。貴殿の命令抜きではもはや行動もできぬ」
「い、いろいろあるんだな」
僕は、その場を濁すことしかできなかった。
決闘で負けると殺されることしか知らなかったからだ。これからも勝ち抜いていくには詳細な規約を覚えていく必要がありそうだ。それを知るためには、お祭りに出店している屋台を回ることが近道のようだ。
「お話おわりましたか?」
僕と偉丈夫が黙り込むと、ミンコが暢気そうに声を出した。
「あ、ああ。これから祭りの出店を回るよ。あとこいつは仲間になってくれるそうだ」
「わあ、おともだちとお祭りを回るなんて、とっても楽しそうですね!」
「お、お友達?」
偉丈夫が困惑した様子で声を出した。
こそこそとミンコには聞こえないように、僕は偉丈夫に伝えた。
「(こういう娘なんです)」
「(なるほど。貴殿が優勝候補者に推す理由がすこし解った気がするわい)」
「わたしはミンコです! こちらは、わたしの下着を取り返してくれたアキラさんです!」
こちらの気も知らずに、とんでも発言をいきなりぶちかますミンコ。その発言は、主に僕の立場が危うい。
偉丈夫は、ぎょっと表情を強張らせ、僕を睨んできている始末だ。
「貴殿……」
「ご、誤解だ! あんたにも最初から説明する! えーっと、あんたのことはなんて呼べばいいんだ?」
僕が問うと、偉丈夫は疑いの眼を僕に向けたまま、片手を頭の後ろに乗せて微妙な表情を作った。思案した様子で、そのまま数秒が経過する。
「……『ゴエモン』とでも呼んでくれい。著名な強盗犯の俗称らしいでな」
「ゴエモンさん、よろしくです!」
「お、おう……、ミンコ女史」
「よろしく頼む、ゴエモン」
「うむ、アキラよ」
ミンコの間髪入れぬ挨拶に便乗して、僕も挨拶しておいた。
こうして『強盗罪』を起源に持つ、ゴエモンが僕たちの仲間に加わった。
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