第四章 正義の在処(1)
「その女の言う通りだ。力なき者が勝ち上がるなど、道理ではない」
そう言って、その男は僕たちの前に姿を現した。
精悍な顔立ち。
僕よりも頭一つ半は高い身長。
肩幅も異様に広く、肉付きは浴衣を押し上げて主張している。
間違いなく、偉丈夫、と表するに相応しい男だった。
「聞いていたぞ。貴殿、殺人罪の持ち主だそうだな。なぜその力で戦おうとしない。我が輩はそれが気にくわん」
くっきりとした顔から鋭い視線を男は送ってくる。
偶然ならまだしも、聞き耳を立てていたとなれば、男を責めたくもなる。しかし、男の放つ圧倒的な威圧感がそれを許そうとしない。
「答えよ! さもなくば、その女ここで始末してくれようぞ!」
ミンコは何も答えない。
しかし視線を男から外すことはなかった。
僕はこの偉丈夫の問いに答えた。
「さっきの会話を聞いていたのなら解るでしょう! 僕は『殺人罪』だ! 僕がもし勝ってしまったら人間界はどうなるって言うんです!?」
「そこだ。そこが気に入らん」
偉丈夫は腕を組み、僕を睨んでくる。
「貴殿は、自身の力を過信しているのではないか?」
「何を……」
「聞いていたが、貴殿の作戦を成功させるには、貴殿がすべての敵を屠る必要があるのではないか?」
「…………!! その……通りです……」
「我が輩が言いたい事を察したようだな」
そうだ。
僕は『殺人罪』が具現化した存在。だが、行った戦闘はたったの一回。その一回の内容ですべてを決めつけてしまった。
相手に「死ね」という意志を叩き付ければ、それが具現化するという、まさに超常破格の能力。だが、これが最強であるという証明は一切されていない。僕の作戦は、ただ僕がそうあってほしいと願っただけの、机上の空論だ。
「そう、貴殿もまた『力なき者』かもしれぬのだよ」
偉丈夫が拳を突き出し、構えを取る。
「ゆえに」
一呼吸し、偉丈夫は力強い声を発した。
「力を示してみせい!!」
偉丈夫の眼は大きく見開らかれ、意志そのものを込めて、僕にぶつけているようだった。もともと精悍だった顔つきは、さながら鬼のようにも見えるほどに険しく変化していて、恐ろしいほどだ。
気圧されながらも、僕は偉丈夫に応えるべく、弱々しく揺れる戦闘の意志を全身に走らせた。
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