Action.20 【 迷惑な隣人たち 】
郊外に住む主婦の
長女は六歳で小学一年生、次女は五歳で幼稚園、少し離れた長男は十ヶ月になります。旦那さんは真面目なサラリーマン、ごく普通の主婦沙織さんの趣味はガーディニング、家の周りはいつもお花でいっぱい、道行く人々の目を楽しませてくれています。
沙織さんの家は一年前に購入した新築分譲住宅で、三軒家が並んで建っています。
真ん中が沙織さんの家で、両隣は広さも作りもほぼ同じ。右側の家は吉田さんという女性が幼い息子と二人で住んでいます。左側の家の山本さん夫婦はお子さんはいません。
二軒とも近所付き合いですが、ちょっと大変な様子なのです。
もう少し詳しく隣人についてお話しましょう。
右隣の吉田さんは派手な美人です。シングルマザーなのに裕福な暮らし振り、時々、ベンツに乗った年配の男性が夜間に訪問します。チラッと見た感じ、ちょっと怖い職業の方みたいでした。
だらしない性格の吉田さんはゴミの分別もいい加減、お掃除が嫌いで家の中や駐車所もゴミで溢れ返っています。自治会の役員に当たっても何もしないので、近所の評判は最悪みたい。
息子は沙織さんの次女と同じ幼稚園に通っていて、よく送迎バスの出迎えを頼まれます。パチンコ店に一日中入り浸りの吉田さんは留守がちで、よく息子の世話を頼んできますが、子供好きの沙織さんは快く引き受けて上げています。
左隣の山本さん、看護師の奥さんは経済力があります。かなり年上の姉さん女房みたいで、若い旦那さんは無職なので昼間もブラブラしています。
山本さんは神経質で気が強く、昼間、家の前で子供たちが遊んでいると「うるさい!」と、大声で怒鳴ります。夜勤があるのに、寝れないからと近所の子供に当たり散らします。
旦那さん
先日も自宅の車庫入れに失敗して、沙織さんの家に突っ込み、大事に育てていたプランターの花をグチャグチャにして、驚いて出て来た沙織さんに向って「バンパーに傷が付いたらどうしてくれんのよ!」と逆ギレされました。
壊されたプランターの代わりに、沙織さんはアザミの花をいっぱい植えました。赤紫色のアザミは少し毒々しい色です。
専業主婦の沙織さんは生協に加入しています。
両隣も生協に加入しているのですが、生協の車が来ても出てきません。仕方なく、沙織さんが両隣の買った物を品分けして届ける役割なのです。最初は感謝されましたが、最近では当たり前のような態度、それでも沙織さんは文句も言わずに届けてあげています。
吉田さんは旅行に出掛ける時には、息子を沙織さんに預けていきます。
ネグレクトされて育った五歳児は、手が付けられないほど乱暴者で、沙織さんの二人の娘に悪口や暴力を振るいます。
先日もキッチンで洗い物をしていたら、十ヶ月の末っ子が火が付いたように泣き出しました。慌てて見に行ったら、吉田さんの息子が赤ん坊の足を噛んでいるのです。さすがの沙織さんも叱って、「なぜ、こんなことしたの?」と訊くと、「僕のオモチャ踏んだもん。こいつが悪い!」と駄々をこねて泣き出す始末。
赤ん坊の足にはクッキリと歯型が残り血が滲んでいます。それを見て、沙織さんも泣きたくなりました。
最近、吉田さんと山本さんの無職の夫が怪しいと町内で噂になっています。
沙織さんも何度か、二人が腕を組んでパチンコ店から出てくる所を見たことがありました。夜勤で寝ている妻の目を盗んで、二人はこっそりデートしているようです。
その日、二階の娘たちの部屋を掃除しようと窓を開けたら、とんでもないものを見てしまいました。
隣の家との壁の隙間は30センチほどしかありません。窓の位置も近いのでお隣は丸見えなのです。吉田家の寝室で絡み合う裸体の男女。――お相手は山本さんの旦那さん。
昼間っから恥かし気もなく! しかも、子供部屋から丸見えじゃないの!
沙織さんは怒りで全身がワナワナ震えました。
その日の夜、吉田さんの家が大騒ぎになりました。
顔から血を流した吉田さんが救急車で運ばれ、包丁を持って暴れていた山本さんの奥さんが警察官に取り押さえられてパトカーに乗せられていきました。残った、山本さんの旦那さんは真っ青な顔で茫然としています。
その後、山本さん夫婦は離婚して引っ越ししていきました。
少し遅れて、吉田さんもベンツの男に捨てられて、借金まみれになって、夜逃げ同然で消えてしまった。
――ついに両隣が空家になってしまいました。
今度はどんな人が引っ越ししてくるのか沙織さんはドキドキしながら、今日もお花を育てています。
えっ? 沙織さんが何かしたんじゃないかって……?
いいえ、別に何も……回覧板に、家で撮った写真を一枚貼り付けて、山本さんの奥さんに手渡しただけ……。
ただ、それだけですよ。あははっ。
ねぇ、プランターいっぱいのアザミの花が見事でしょう。
ご存知ですか? アザミの花言葉は『復讐』なんです。
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