第3話【裁き】

 

 今、俺がいるのは『大罪会』に反乱を企てた組織が本拠地にしているラスベグスだ。ここはあの日からも相変わらず賭博の街だ。支配者が変わってもあり続けるとは業が深い。そんな街を裏で支配するのが『Money talks』だ。金がこそが絶対だという考えのもと行動する組織だ。

 

 俺からすればどうでもいい彼らの組織も今日で終わる。俺たちに反意を示すこと自体、この変容した能力社会では悪である。半年経った今でも表面だけを見れば世界に変化を感じない。それでも、根底となる秩序はすでに崩壊し、俺たちが新たな秩序になっているのだ。

 

世間からは俺たちが能力を使い、既存社会の崩壊を阻止したように見られている。でも、そんなことはない。俺たちがしたことは自身の力を見せつけ、力による支配を実現させただけ。結果としては変わらない。社会の支配者が中途半端な能力者ではなく絶対的な能力者になっただけ。既存社会の破壊を行ったことに変わりはないのだ。

表面からはわからなくとも内部には能力者に有利となる決まりが出来始めているのだ。

 

この町もそうだ。今までは政府に管理されていたラスベグスも、今では犯罪組織が裏から実効支配するような街になってしまっているのだ。これも『諸行無常』の一つなのだろうか。

 

ラスベグス上空で俺たち七人は、町全体を見下ろしていた。

 

 

 

-------

 

 

 「それで、どれが『Money talks』の拠点なんじゃ?」

 

 ラースが聞いてくるが、俺は知らない。

 

 「知らん。知ってるやつは?」

 

 逆に俺が聞いてみるが誰も知らないだろう。

 

 「なに! アケディア、お前が知っておk……」

 「知らないわねぇ」

 「知らねぇな!」

 「知らない」

 「もぐもぐ」

 

 案の定、全員知らないようだ。もうグダグダだ。

 俺たちからすればこの街がなくなろうとも構わないので、この街ごと吹き飛ばしてもいいのだが、後々が面倒になる。

 

 「どうすんだ? 旦那ァ?」

 「探すしかないだろう。各自適当に探してくれ。で、見つけたら破壊しろ。それで終了だ」

 

 グリードが聞いてきたので、俺は作戦を伝える。作戦名「適当に」だ。この七人ではこれが一番楽だ。こいつらを統率なんてできないからな。

 

 「いつものね。貴方がやる気に見えたのは間違いだったようね」

 

 ラストが呆れながら言ってきたが、無視する。

 

 「もう行ってもいい?」

 

 今にも飛び出しそうなエンヴィーが聞いてくる。なにか見つけたんだろう。

 

 「ああ、各自解散」

 

 俺は七人にそう言って、解散させる。

 ラスト、グリード、エンヴィーが我先にと街に降りていく。それを見てプライドも降りていく。捨て台詞を何か言っていたが、聞き取れなかった。

 俺の隣にラースが飛んでくる。

 

 「おぬしは何もせぬのか?」

 

 このショタ爺さんは、切れてないと異常に頭が切れる。

 

 「おぬし、奴らの拠点を知っておるのだろう?」

 「ああ」

 「何故皆に教えんのじゃ?」

 「全員で行動とかめんどすぎ」

 

 俺はラースに言った。俺の行動原理は『怠惰』なのだ。面倒なことはしたくないのだ。七人で行動なんかした日には、獲物の取り合いで七人での喧嘩になってしまうだろう。

 

 「はぁ。まあ、よい。おぬしに譲ろう」

 

 ラースは何やら納得してから降りて行った。

 残るはグラトニーだ。

 

 「おい、聞いてただろう。行ってこい」

 

 グラトニーはもぐもぐと咀嚼をしながら首を傾げた。聞いてなかったのだろう。

 

 「標的は『Money talks』。食い放題だぞ」

 

 俺がそう言うと、グラトニーは手に持っていた肉を一口で食べ、街に降りて行った。

 これで全員だ。俺もそろそろ始めよう。

 

 俺は『怠惰』。その真髄は、抑圧、抑制、鎮圧等。ようは、対象を怠惰にさせる力ということだ。消す、止めるといってもいいかもしれない。俺が議長を務めるのもこの力があるからだ。

 俺が重力を消せば、浮かぶことができる。俺が酸素を消せば、周囲の人間は死ぬ。俺に迫る攻撃の一切は無効化される。

 チートにもほどがある。欠点らしい欠点もない。強いて言えば、能力を精密に制御して使うのが面倒だということと、世界が成り立つための力は消せないこと。やったことはないが、蘇生のような自然の摂理に逆行することはできないようになっているらしい。

 俺は、力を使って飛んでいく。この飛行能力は『怠惰』の力ではなく、七大罪共通の力だ。他にも言語理解だとか、高速演算だとか、いろいろとあるうちの一つだ。

 

 今回の俺の標的は、『Money talks』が経営している『ザ・ラスベグス』というカジノだ。このカジノの収入が『Money talks』の屋台骨になっているようだ。だから、それを潰せば組織も勝手に潰れていくだろう。

 俺は付き人が調べたカジノ『ザ・ラスベグス』の場所が書かれている地図を見ながら、標的を探す。

 探し始めて数十秒、俺は標的を見つけた。というか、街の真ん中にデカデカと建っていた。自己顕示欲が強すぎるだろ、と呆れながらも、早くに見つかったことを喜んだ。

 俺はその建物の上空に飛ぶ。その建物は三角錐のような形をしている。ピラミッド型といった方がいいだろうか。そこにいろいろと建物が生えていて、もはやなんといえばいいかわからない。周囲にもいろいろと建物が経っている。

 

 俺の力を使えばこの建物を崩すことも簡単だ。建物としての結束力だとか強度を消せばいい。それだけでいいのだが、カジノの中にいる人も死ぬことは免れないだろう。それはダメだ。中にどこかのお偉いさんやその関係者がいれば後々大事になるかもしれない。俺は違う案を考える。

 

 次に思いついたのは、中に入って組織の人員だけを殺していくというもの。幹部を全部殺せば相手も気づくだろうが、これは思いついてすぐに却下した。少数をピンポイントで殺すのは疲れるのだ。人を殺すのならば心臓を止めればいいのだが、心臓を止めるのは結構大変なのだ。心臓という身体の一部をピンポイントで止めること自体は、そこまで難しくないが、心臓をピンポイントで捉えるというのは難しい。それが複数になればもっとだ。他の奴らならやるかもしれないが、俺はやりたくない。

 

 残る作戦は二つ。いや三つだ。

 

 一つは、『Money talks』の奴らが外に出てきたときに殺すというもの。周りに巻き込みそうな人がいなければ力を制御する必要もない。ただ、待たないといけないので却下。

 二つ目は、カジノの客を外に出すこと。自然災害とかあれば外に出るかもしれないが、起こすのは面倒だ。後始末もしないといけないしな。

 三つめは、何もしない。ここに浮かんでればプライドあたりが勝手にこのカジノを破壊してくれるだろう。

 

 うん。何もしない方向でいこう。作戦名『他力本願』だ。いい作戦だ。

 俺は宙に浮きながら眠ることにする。あとはみんなに任せよう。

 目を閉じ、既に寝る気満々な俺に向かって銃弾が飛んできた。俺の権能が発動する。銃弾は勢いを失くし重力に誘われる。俺は閉じていた目を開き攻撃をしてきた者を探す。

 能力がこの世界に広まってから、一人で空を飛ぶ人はそこまで珍しいものではなくなった。この街の上空にもいっぱい飛んでいるはずだ。試し撃ちだろうか。性質が悪いな。

 狙撃の主は眼下にあるカジノから生えている塔の上階の窓から顔を出していた。俺がそいつの方を向くと、顔を青ざめて室内に走っていく。なにがしたかったんだろうか。俺を殺そうとしたのだろうか。一般人を理由なく殺せるほどの力を『Money talks』は持っているのだろうか。俺が見た報告書にはそこまでの力を持っているとは書かれていないかった。

 いくら『Money talks』が支配しているといってもこの街の所有者はアミリカだ。司法なしっかりと機能しているはずだ。報告書のもそうあったのだが。

 

 俺は、寝るのをやめ、カジノの方をじっと見つめていると、爆音が聞こえてくる。俺以外の奴らが何かしたのだろう。今はまだちょっとした爆発だが、時間が経てばもっと大きなものに変わるだろう。

 

 さっきの攻撃が俺への攻撃であれば大義名分になってこのカジノごと消せる。俺たちの権力はそれほどに高い。俺は再度次攻撃されるのを待とうとするがやめた。

 先ほどの狙撃を俺は、『大罪会』への攻撃として認識することにした。その方が楽だ。このままこの建物は崩壊させる。

 

 俺は自身の力を解放する。『建築物として成り立つためのあらゆる力』を消す。こういった『建物にかかる全ての力を消す』ことにすれば『怠惰』の権能が勝手に処理してくれる。細かな制御は自分でしないといけないのに大雑把な制御は勝手にやってくれるのだ。これはこれで楽なのだが、使用する機会としては細かな制御の方が多い気がする。

 

 俺が力を解放するとカジノは轟音を立てながら崩れ落ちていく。俺が消したのは『建築物・・・としての成り立つためのあらゆる力』なので、重力は消えない。『怠惰』の判断では、重力に逆らうことが建築物の前提であるから、建物として成り立つための力ではないようだ。

 トランプタワーの一層がいきなり消えたかのような勢いで倒れていく元カジノを俺はただ見つめる。巻き込まれることで数百、下手をすれば、数千という数の人が死んでいるのだろうが俺の心は何も感じない。こういうところは権能に感謝したい。俺は興味のないものに囚われない。惨劇を見つめる俺の目には、なんの感情も乗っていなかった。

 

 崩壊したカジノだった建築物の生えた三角錐は、すでに見る影もない。その場に残ったのは建築物の残骸と、数々の悲鳴。それを見つめる俺。

 

 これも、ラスベグスの街全体で起きている惨劇の一部に過ぎない。今日の出来事は、『あの日』から歪に変化したこの社会で俺たち『大罪会』に背くことの重大さを人々の頭に刻み込んでくれることだろう。

 そして、気づくだろう。既にこの世界は俺たち『大罪会』に支配されていることを。

 

 

 

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