第9話 ジュリアの独白

ナレーション(ジュリア):初めて出会ったのは、真夜中の堤防の下だった。

婚約者だった男に別れを切り出され、同時に告げられたのは己の友人と関係を持ち、子どもを身籠ってしまった、ということだった。告げられたその日は、どこをどうして家へと帰宅したのか覚えていない。それでも翌日は何とか仕事に出て、平静を装った。だが、結婚式の招待状が届き、捨てられた自分への一切の優しさのないその行動や言葉に、何故自分はこんな男と結婚したいと思い、愛していたのかさえわからなくなった。と同時に、友人を友人として見ていたのは己だけであった、という事実も突きつけられた。だからこそ、己の気持ちを新たにする為に、行きたくもない結婚式へと赴いた。

しかし、その場で元婚約者と元友の己への仕打ちは、別れを切り出された以上のものであった。泣く、などという可愛いことが己に出来るはずもなく、結婚式からの帰り道、祝いの品や花束も全て川に投げ捨て、大量に購入した酒をあおっていた。そんな時、頭上から柔らかな声がかかった。

「どうかされましたか………?」

こんな酔っ払いに声をかけてくるのは誰だろうと思い、顔を上げ、息を呑んだ。己に心配気に話しかけてきたのは、まだ大人の成長段階の少女であった。しかし、夜に溶け込んで紛れそうな双黒の髪と瞳に、それを引き立たせたような瑞々しい美貌は、将来絶世の美女となるに値する要素を十二分に兼ね備えて余りあった。美貌の少女はアイネと名乗り、優しく温かい声音で臆することなく話しかけ、不思議とその柔らかい声を聞いている内に、全てを吐露していた。冷え込み始めたから、とアイネ殿が滞在されている邸宅にお邪魔し、その後は恥ずかしながら、大声をあげて泣いた。あれほど泣いたのは幼い頃以来だった。

全て夢のような気がしたが、翌日目覚めると、穴に埋まりたいほど恥ずかしいことに、夢ではなかった。

アイネ殿が滞在されている邸の持ち主が、国内でも庶民すらその名前を知っている公爵の地位を息子殿に譲り渡したエイハブ様であった時は驚愕した。しかし、それと共に納得もした。アイネ殿の立ち居振る舞いは、貴族の上流階級でも見たことがないほど洗練されており、お付きのロイエ殿も、毅然とした色香の薫る美女で、上流貴族令嬢のお付きだと一目でわかる振る舞いを持っていた。

けれど、疑問を覚えたのはロイエ殿と共に夜の街の買い物に出掛け、アイネ殿が酔っ払いに絡まれた後の出来事であった。黒装束の暴漢に襲われても顔色一つ変えず、見事な体術とナイフ投げで全員を仕留めた。侍女ならば、必要に応じて武芸も習うが、上流階級の女性はまず剣以外を習うことはない。おまけに、アイネ殿もロイエ殿も、騎士の己から見てもとても戦い慣れていた。かなりの場数を潜り抜けてきた証拠でもある。

その疑問は、今払拭された。



ロイエ:(ジュリアの肩に優しく手をおく)

ジュリア:(ロイエを見て)「ロイエ殿……。アイネ………さ、まは」

ロイエ:(何も言わずに、微笑む)

ジュリア:(アイネの去った方向を眺めて)「ワタシも……一歩を踏み出さねばな…」

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