第8話 他国の問題④
(突然、大きな音が辺りに響き渡る。音がした方向には、数人の男性貴族が酔っ払いながら焦点の合わない顔つきで酒盛りをしている)
貴族一:「あれはバジル殿下の取り巻きではないか?」
婦人三:「まあ! なんてはしたない!」
貴族二:「殿下が殿下なら、取り巻きも取り巻きだな」
第一王子:(血相を変えて取り巻き達に走り寄る)「お、お前達ッ?! 一体何をしているんだ?!」
(バジルの言葉が全く耳に入っていないかのように、女性達を巻き込もうとして騎士達に取り押さえられる)
第一王子:「いっ、一体どういうことだ! わ、私はッ!」
ロイエ:「『王太子の側近に薬入りのワインを飲ませろ、と命令したはず』、ですかしら?」(給仕服のメイド姿で現れる)
王太子:「……兄上、貴方は本当に碌でもないことばかりを考える」(ため息を吐きつつ)
第一王子:(顔色を変える)
王太子:「一週間前、アスカン公から連絡がありましてね。他国の雇われ賊が国に侵入しているようだ、と。捕えた者達を白状させたところ、兄上の名前をだしましてね。一週間後のこの催しで、私に失態を犯させて王太子の地位を剥奪することを目論んでいる、と」
(会場内が大きくざわめき始める)
第一王子:(周囲の状況に狼狽えながら)「わ、私はそんなことは知らない! 濡れ衣だッ!」
王太子:「では、兄上、このグラスに入っているワインを飲み干して下さい」(ロイエの持っている盆からグラスを一つ差し出す)
第一王子:「な、なに?」
王太子:「私も共にワインを飲みます。お互いに飲み干せたのなら、このことは陛下にお願いし、不問としましょう」(自らも盆からグラスを取り、バジルにもう片方のグラスを手に取らせる)
第一王子:(震える手で、グラスを受け取る)
王太子:(グラスを目の高さまで掲げ)「それでは、お互いの身を祈って」
(周囲が静まり返り、王太子と第一王子の行動に固唾を呑んでいる。グラスの中身を口に運ぼうとした刹那)
第一王子:(グラスを足元に叩き割る)「ふ、ふざけるなッ! こ、こんな茶番………ッ!」(王太子に掴みかかろうとする)
アイネ:(目に見えぬ速さで第一王子を地面に叩き伏せる)
第一王子:「グエッ!」(アイネの足で頭を踏みつけられている)
アイネ:「バジル殿下? これだけの衆目の前でみっともない姿を晒すのは、いい加減お止めになったほうが宜しいですよ。王族なのですから、引き際は美しくありませんと」
第一王子:(アイネの足元でバタつきながら)「へ、平民風情が知ったようなことをッ……!」
ロイエ:(第一王子の言葉にすぐさま反応し、足で第一王子の横っ面を思うさま蹴り上げる)「………第一王子殿下? 言葉は弁えられたほうが宜しいですわ。人を見た目では侮るな、ということを王族はすべからく幼い頃から叩き込まれるはずでしてよ?」
アイネ:(ロイエの微笑みの威圧に引きながら)「………ロイエ、ここは王太子殿下に処分を委ねないと」
ロイエ:「あら、それは失礼を致しました」(王太子に向き直り、礼をとる)
アイネ:「(全ッッ前悪いと思ってないだろ!)」
王太子:(ため息を吐き、眉間の皺を指でほぐしながら)「………兄上。アイネ殿は国は申せませんが、れっきとした王族の姫君です」
第一王子:(血で汚れた顔で驚愕する)
アイネ:(第一王子から目を逸らし)「(同情出来ないとは言え、目が当てられない顔だわ)」
(周囲が驚きで静まり返っている中で、エイハブが進み出る)
エイハブ:「王太子殿下。バジル殿下のご処分は陛下に任され、この場は一時解散したほうが宜しいでしょう」
王太子:(エイハブの言葉に頷き)「皆、よく聞け! この場は解散を余儀なくするが、必ずまた機会を設けて場を整えよう! 王宮からの知らせが行き渡るまで、各自帰途について欲しい!」
(騒然とする中でエイハブとアスカン公が王太子に礼をとる姿に、場に集まった貴族が各々それに倣う)
アイネ:(ジュリアの元まで行き、放心しているジュリアの肩を軽く叩く)「ジュリアさん、申し訳ないのだけれど、私はこの場をエイハブ様達と一時撤退します。ロイエを残しておきますので、自分のこれからの為に決着をつけて下さい」
ジュリア:(金縛りから解けたように)「あ……! わ、わかりましたッ!」
アイネ:(ロイエに目配せをして、エイハブ達と場を後にする)
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