第5話 他国の問題①

(ジュリアを玄関先まで見送り、応接間に入り、ロイエ以外の二人がソファに腰かける)

アイネ:「エイハブ様はジュリアさんをご存知だったのですか?」

エイハブ:(家令にお茶の準備を指示しながら)「彼女の亡くなったご両親は王都では有名でしたからな。ご夫婦揃って優秀な騎士でしたよ。先年の大規模な犯罪組織の殲滅の際に、お二人とも命を落とされました」

アイネ:(ロイエからお茶のカップを受け取り)「……そうでしたか」

エイハブ:(お茶を一口飲み)「………政務から引退した老人の独り言ですが、あまり人と関わり過ぎるのは良くありません。貴方は特に」

アイネ:「………そうですね」

エイハブ:「貴方の優しさは、王族としては致命的な事態さえ巻き起こす可能性が大きい。アイネ姫様」

アイネ:(微笑んでカップをテーブルに置く)「大丈夫ですよ。それは生まれてきてからのこの十八年間で嫌というほど経験しておりますから」

ロイエ:(とても複雑そうな表情でアイネを見ている)



アイネ:「(あれから外には出なかったけど、流石に息抜きがしたい)」(真夜中の人通りのない道を歩きながら、大きく伸びをする)「(ロイエは頻繁にジュリアさんに会えるのに、自由の利かない我が身のなんと不憫なことか………)」

酔っ払い:(前方から近づいてきて)「よお、姉ちゃん綺麗だね~~。これからまた一件行くんだけど、付き合ってくんない? 奢るからさ~~~」

アイネ:(頭痛を堪えるように額を指で押さえる)「お断りします…。(既に人に絡んでいて傍迷惑なのに、これからまだ飲むつもりか、このオッサンッ)」

酔っ払い:「固いこと言わなくていいじゃねえか~~。こんな夜更けに一人で歩いて寂しかったんだ………イッ、イダダダダダダッッッッ!」

ジュリア:(男の言葉を遮るように腕を捻り上げる)

ロイエ:(アイネに駆け寄り)「アイネ様! 外出の際はわたくしに一言かけて下さい、とあれほど申しましたのに!」

アイネ:「え…、いや……」

ロイエ:「このような下賤な者に絡まれても、そんなことが言えるのですか!」

酔っ払い:(腕をいまだ取られながら)「オイッッ! 下賤ってオレのことか?!」

ロイエ:(しれっとして、冷たい目線を酔っ払いに向けながら)「あら、他に誰がおりますの?」

酔っ払い:(顔を真っ赤にして)「こ、このアマッ………!」

アイネ:(何かの気配に気付き、酔っ払いを思いっきり蹴り飛ばす)「ロイエッッ!」

酔っ払い:(顔を真っ赤にして抗議しようとするも、自分とアイネが居た場所に刀剣が突き刺さっているのを見て唖然とし、次いで頬から流れ出た血に悲鳴を上げて後ずさる)

ロイエ:「こんな所まで追いかけてくるだなんて、本当に虫唾が走ることこの上ないですわね」(服の至るところから小さなナイフを取り出して投げる)

ジュリア:(黒装束の人間達を剣で倒しながら)「何なんだ?! こいつらは!」

ロイエ:(軽やかに動いてナイフを投げながら)「まあ、ジュリア様はお強いのですね」

アイネ:(目に見えないほどの動きで黒装束の人間の動きを封じながら)「呑気なことを言ってないで、敵に集中して! 命の危機だから、手加減は一切しなくていい!」

ロイエ:「御意に」



(十数分後の後、黑装束達を積み上げた山が出来る)

ロイエ:「今回はそれほど強い相手ではなくて良かったですわ」

アイネ:「ソウダネ…」

ジュリア:(気絶した黒装束の人間達を縛り上げながら)「しかし……、何故アイネ殿達が狙われたんだ?」

アイネ:(ジュリアの視線を受けて、逡巡する)「(どうしようか………。私のことを喋ってしまったら、ジュリアさんまで巻き込みかねない。でも、頭の良いジュリアさんを誤魔化しきれるかな…)」

ロイエ:「アイネ様、こんな物をあの者達の一人が持っていましたわ」(白い封筒をアイネに差し出す)

アイネ:(ロイエから受け取り、中を開けると、招待状らしきものがでてくる)「………一週間後に開かれる、王宮主催のガーデン・パーティーの招待状らしい」(ロイエに招待状を手渡す)

ジュリア:(ロイエと共に招待状を見ながら)「それならワタシも知っています。王都に住んでいる貴族ならば、誰でも知っているでしょう。数年に一度の催しです」

ロイエ:「何故この招待状をこのような者達が持っているのでしょう?」(気絶している黒装束達を見ながら)

アイネ:(暫し、考え込み)「………ジュリアさんは、この催しには参加されますか?」

ジュリア:「は? ワタシですか? いいえ。仕事上知っているだけのことで、ワタシは貴族ではありませんから」

アイネ:「ロイエ、この気絶している者達をエイハブ様に引き渡した後、現アスカン公もお呼びする旨を伝えて。その際、ジュリアさんも同席することも忘れずに伝えておいて」

ロイエ:「………宜しいのですか?」(ジュリアをチラリと見て)

アイネ:「今更隠せることでもないでしょう。私は少し情報収集に行ってくる。危険なことはしないから」

ロイエ:「何か、この国で、気にかかることでもありまして」

アイネ:「エイハブ様からノウェムの国の内情を聞いてはいたからね。今回のことと無関係とは思えない」

ロイエ:「承知致しました。エイハブ様にご連絡を取り、ジュリア様のことも必ずお知らせ致します」

アイネ:「お願い」

ロイエ:「………お帰りになられる際は、土や埃まみれの姿になっておりませんことを願いますわ」

アイネ:(目線を逸らしつつ)「は~~い…」

ロイエ:(ニッコリと微笑み)「お返事は延ばさなくて結構です」

アイネ:「はい…」(返事をした後、素早い動きで暗闇に消えていく)

ロイエ:(ジュリアに向き直り)「それでは、わたくしがこの者達を見張っておりますので、ジュリア様、申し訳ないのですがエイハブ様にご伝達願えませんでしょうか?」

ジュリア:「ワ、ワタシが?」

ロイエ:「はい。この者達が幾ら気を失っているとはいえ、目を離すわけにはまいりませんもの。勝手なお願いではございますが、他に頼れる方がいないのです」

ジュリア:「…了解した。くれぐれも、危険なことがないように」

ロイエ:「ありがとうございます」(深々とジュリアに頭を下げる)

ジュリア:(ロイエを気にしながらも走り去って行く)

ロイエ:(ジュリアの走る音が遠ざかると、ため息を吐きだし、道の脇に転がっている真っ青な酔っ払いに視線を移す)「………あら、まだいらしたのですか? こんな所にいらっしゃったら、また命の危機に遭遇するかもしれませんわよ。それよりも……」(ナイフを酔っ払いの顔スレスレに投げつける)「わたくしがその無駄な人生を終わらせて差し上げましょうか…?」

酔っ払い:(今度こそ本当に気を失う)

ロイエ:(気を失った酔っ払いに冷めた視線を投げつつ)「(これぐらいの八つ当たりは許されますわよねぇ。………どうして誰もかれも、姫様をソッとしておいては下さらないのかしら)」

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