第3話 人生は驚きの連続だ①
アイネ:「(うん、人生本ッッッッ当にどんな目に遭うかわからないものなんだな)」(自分に抱き付いて大泣きしているジュリアの頭を撫でながら、ベッドに座って遠い目をしている)
(泣き疲れたジュリアをベッドに寝かし付けるアイネの部屋をノックする音が響く)
ロイエ:(アイネが扉を開き、招き入れると、扉に鍵をかける)「姫様、何かお変わりありませんか?」
アイネ:(ソファに座り)「大丈夫。防音がしっかりしてる部屋で良かったよ。ジュリアさんは自分が泣いているところを見られたくも聞かれたくもないだろうし」
ロイエ:(ベッドで眠り込むジュリアを見ながら)「………そうですね。気がお強い方だとはすぐにわかりましたもの」
アイネ:「そう見えるし、本人もその外見を理解しているんだろうけど、心まで外見と同じってことはないよ」
ロイエ:「どんな気の強い女性でもあのような出来事に動揺しない方はいませんものね」(背後に黒いオーラを漂わせている)
アイネ:(ロイエと距離をとりながら)「ま、まあね」
ナレーション(アイネ):事の起こりは、このノウェム国に滞在して一ヶ月経つか経たないか、の夜であった。伝手を頼った貴族の家に匿われながら、数日おきに夜は人気の全くない堤防の下で武芸の鍛錬などをしていた。昼は自分は外に出ることが出来ない為、少しでも気晴らしをしておかなければストレスが溜まる。そして今日、鍛錬にと訪れた堤防の真下で、酒瓶十数本をそのまま飲みしている女性と遭遇したのだ。
いや~、なかなか凄い光景でしたよ。言葉にするのは簡単なんだけど。想像してみてほしい。男装の麗人と言って差しさえない美貌の女性が、大瓶に口を付けてヤケ飲みしている姿を。気紛れから声をかけてみて、名前を聞き、何故こんな全く人気のない場所でお酒を飲んでいるのかを訊ねてみた。語られた内容は物語でもありえないだろう、と思うものだった。
曰く、この国の王宮で女性騎士として働いているジュリアさんには、結婚を約束した恋人がいたそうなのだ。結婚式の日取りと場所を決め、ドレスの試着も内々に済ませ、後は親しい人達に連絡するのみ、となった時、大どんでん返しが起きた。婚約者から呼び出され、別れを告げられると共に自分の友人と関係を持ち、授かり婚(出来ちゃった結婚、という呼び方は私は好きではない)をすると伝えられたのだそうだ。その場で元婚約者を殴り飛ばさなかったジュリアさんは感心に値する。しかし、話はそこまででは終わらなかった。
既に予約していた式場や日取りを、その友人との結婚場へと元婚約者が切り替えたのだ。これだけでも充分神経を疑うが、私が疑念に近い怒りを覚えたのはその後の話である。元婚約者は貴族で、伯爵家の跡取りらしいのだが、結婚相手を周囲や両親にまで秘密にしており、「当日を楽しみに」、という言葉だけ伝えられていたのだ。
え、おいおいッ?! 貴族ならば親が率先し、跡取りならば尚のこと婚約者と挨拶を交わし、行動するものだろうが?! 多少不思議に思う者がいても怪しまれなかったのは、元婚約者が誰と付き合っているのか一切名言していなかったこと。ほとんど我儘を言ったことのない将来有望と囁かれる由緒ある伯爵家の跡取りであったことが幸いした………、と。聞こえは良いが、真実を知った人間からみれば、当初から二股をしており、結婚相手を都合よく変えても誰も不思議に思わない状況をお膳立てしていたとしか思えない。
わあ、随分と人の気持ちを舐めくさった将来有望君だな、おい? しかも、ジュリアさんを結婚式に招待する厚顔無恥ぶり。日頃から何かと付き合いのあった元婚約者と友人の結婚式に出席しないのは確かに不思議に思われるかもしれないが、仕事を強引にでも入れてしまえばいいだけである。けれど、ジュリアさんはそれではいつまでも自分の気持ちに踏ん切りがつかなくなるから、と結婚式に行ったのだそうだ。マジでいい人だ…! だがしかし、そこでも予想外の事態に見舞われた。
元婚約者と友人は自分達の結婚式で思い出話と称し、ジュリアさんの昔の恥ずかしい話を赤裸々に周囲に触れ回ったらしい。今後ジュリアさんが何か仕返しをしてこようとするのを先手で潰そうという考えみたいだったらしいが、逆効果にもほどがある。周囲から笑い者にされても耐え抜き、結婚式が終わるや否や、誰にも見られないあの場所で大量購入した酒をあおっていたのだ。
自分の経験から言わせてもらうと、頭が良いと勉強が出来る、はイコールではない。勉強が出来てもバカ、と呼ばれる人間は実在する。頭が良い、というのは、想像力がどこまで豊かで先を見ることが出来るか、にある。歴史に名を遺す軍師達はこれを指す。政治に携わる者にとってはまず何よりも必須なものだ。場を荒げることで何も知らない伯爵家や友人(これ元友人、でいいよね?)の家族や親類縁者を守ったジュリアさんのほうが余程立派だ。
私が話を聞き終えると、溜まっていたものが噴き出したように涙を零しはじめた為、今現在お世話になっている邸に避難してきた、というわけである。
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