ケツはげ!!!!!
「待った?」
「ううん! 全然! 今来たところだよ!」
嘘をつけ、お前はかれこれ1時間以上そこにいたはずだ!
駅前の犬の銅像の前。
いい意味でも悪い意味でも有名な待ち合わせスポット。
俺は目をつけていた40代くらいのサラリーマンとおぼしきでへでへといやらしく鼻の下を伸ばす頭のハゲ散らかした中年デブ親父に、心の中で突っ込みを入れる。
ハゲデブ親父が熱っぽい視線を送るお相手は、ブレザーにチェックのスカートのよく似合う艶のある腰まである黒髪も美しい14、5歳の美少女。
腕時計をちらりと確認。
時刻は月曜日の15時15分。
とっくに学校は始まっている。
はい!
決定!
援交ですね!
◆◆◆
俺の名前は仲嶺一。
警察学校での基礎教養を終了し、この春から新任の警察官として少年課に配属された。
…が、こんな所でくすぶってる訳にはいかない!
学生結婚で苦労をかけどうしだった妻の為にも必ず刑事になって、捜査一課に配属される…それが俺の目標。
その為にも月末に集計される「検挙ポイント」で頂点を取り、刑事課へ転属願いを出すのだ!
今日現在、俺の順位は同期で交通課の山岸と同列首位…負けられない!
が、俺が配属されたのは少年課。
検挙ポイントのなかでも少年補導は最も得点が低い…だからこの「援交」を青少年保護育成条例や児童福祉法で検挙できれば高得点だ!
これを逃してなるものか!
幸運にも今日は、私服で巡回していたのでハゲデブ親父も俺が警察官であることには気づいていない。
俺は、決定的瞬間を押さえるため移動を始めた二人の尾行を開始した。
平日の昼から夕方にかけての人混みの増え始めた繁華街を二人は手を繋いで通り抜けカフェに入る。
「う…!」
ピンクだ…!
そのカフェは、まさに10代向けの乙女使用でピンクとリボンとフリルやデコレーションが男の入店を堅くお断りしているかのように無言のプレッシャーを発している。
まだ学校の時間でメインの客層のいない閑散とした店内。
ハゲデブ親父と美少女は、なんの躊躇もなくカフェの窓際のカウンター席に着いたので俺も様子が伺えるようにすぐ近くの席に着く…。
うっ浮いている…。
俺も人のことは言えないが、このファンシーな乙女チックカフェにおいてハゲデブ親父は明らかに汚物のように浮いている!
可愛いピンクのフリルエプロンを着用したウェイトレスが、美少女とハゲデブの異色の組み合わせにちらちらと視線をよこしながら俺のテーブルに水を持ってくる…よし、まずは落ち着こう。
兎の模様のついたファンシーなグラスに口をつけた俺の視線の先で、くたびれたスーツの丸い背中がもそもそ動く。
「はぁ、はぁ、ま まさか来れるなんて お 思わなかったよ・・・」
少しばかり歩いた程度なのに、すでに息を切らしたハゲデブが肩で息をしながら美少女の髪にふれる!
「はふぅ、きれいだねコレ」
ハゲデブ親父はぶひひと鼻を鳴らし美少女の艶髪をさわさわと野太い指に絡め、ぬたりと脂ぎった自分の唇を舐めずりあげた!
のおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
清らかな乙女の艶髪が薄汚れたハゲデブ親父に穢されるぅぅぅぅうう!!!
俺は今すぐ飛び出して検挙したい衝動を必死に押さえ込んだ!
パリン!
「おっ、お客様! お客さまぁあ!!?」
勢い余って握りつぶしたグラスで掌が血まみれになるが、そんな事はどうでもいい…落ち着け俺…平常心だ…検挙するにはまだ足りない。
わたわたと慌てながら代わりの水のグラスとおしぼりを差し出すウェイトレスを尻目に、俺はさらに様子を伺う。
「ちょっと~あんまり触らないでよ! 手入れ大変なんだからぁ~」
美少女は、不機嫌そうに眉を寄せてハゲデブ親父を「むぅ~」と睨んで見せる…どうしよう可愛い…まるで妻の学生時代を彷彿とさせるようなぷくっと膨れたもち肌の頬に俺は勤務中にも関わらず見とれてしまう。
「ごめん、ごめん ほっほら、今日はこの前に約束した通りお小遣いあげるから! それとバッグね!」
「ほんと!? うれしい!」
美少女に胸元に飛びつかれたハゲデブ親父は、ぶひぶひと笑いハゲ散らかした寂しい頭をガリガリ掻きながらフケを飛ばす!
パリン!
「ちょ! お客様?! なんなんですか! 新手の自殺志願者ですか!?」
もはや涙目で『よそでやって下さい!!』と、叫びながら飛び散った血をふき取るウェイトレスを尻目に監視を続けていると既に注文していたのか二人のカウンターにこのカフェの名物らしい「お嬢様のメガもりパヘ」が運ばれて来た。
美少女はその塔のようにそびえるソフトクリーム部分を少しだけスプーンの先ですくって、その桜色の唇に運んで目を細める。
「う~ん…おいひぃ…食べてみたかったんだぁ…」
そう呟くと、今度はスプーンいっぱいクリームをすくい鼻の下を伸ばしていたハゲデブ親父にずいっと突き出す。
「はい、あ~ん…」
恍惚としたハゲデブ親父の脂ぎった唇に、美少女の使用済みスプーンがぬちゃと収まっていく!
かっ関節キッスだとぉう!?
なにその手厚いオプション!
最近のガキは金と物欲の為ならなんでもするの!?
しかし、意外だな…美少女の清楚な外見からは、俺が普段扱ってきたような少年少女のようなすれた感じは受けないんだけどな…?
それとも、美少女にはそうせざるを得ない事情でもあるというのか…?
まさか、弱みでも握られて…?
いや、先程から見るにもしかしたら美少女はハゲデブ親父と会うのは初めてではないのかも知れない…!
コレはまさか…会う回数を重ねて警戒心を解いてから事に持ち込むタイプか!!
俺の脳裏に「児童買春」の文字が浮かび検挙ポイントとかそんなの関係無しに怒りが頂点に達する!
そうこうしているうちに、最初のひと舐め以外の殆どのパフェを高速でハゲデブ親父に食べさせたらしい美少女は席を立ち「行こ!」とその手を引く。
恐らく、お目当てのバッグを手に入れたいのだろう。
…全く、この年齢の少女とは大人の男を舐めすぎている!
何かあってからでは遅いというのに…ま、そんな阿呆をなんとかするためにも俺たち「少年課」があるわけだけど。
口の周りのクリームを拭う暇もあたえられないまま、美少女に引きずられるようにハゲデブ親父はカフェを出て行く。
すかさず俺も、カフェを飛び出す!
背後から「二度とくんな!」とウェイトレス涙声がしたがきっと幻聴だろう。
数分後。
「こっち! こっち!」
すっかり人混みが増えた通りを、美少女はまるで勝手 知ったる様子でハゲデブ親父の腕をぐいぐい引っ張りながら進む。
恐らく、スマホかなんかで既に目的のショップの目星はついているんだろう。
きらびやかなブランドショップのショーウインドウが並ぶ中、美少女はその一つにハゲデブ親父を引きずり込む!
援交の金で高級バッグね…鉄板だけど直で買わせるのは少し珍しいな…。
俺は、店内には入らず外から中の様子を伺う。
ガラス越しに見えるハゲデブ親父がどこか暗い顔で、カードでバックの代金を払いその後ろで美少女がはしゃいでいる。
…うわぁ~一体幾らしたんだろうな…。
が、お買い物はそれだけでは終わらなかった。
その後、美少女はハゲデブ親父を連れまわしファッションショップ、アクセサリーショップを巡り次々買い物をさせていきそのたびハゲデブ親父の顔が曇っていく…コレは危険だ!
「ぶふーっ、ぶひーっ!」
大量のブランド品の紙袋の寄り集まったバケモノと化したハゲデブ親父が、醜く息をきらしながらよたよた歩く。
その目立つ姿は、否応無しに道行く人々の視線を集める。
「大丈夫? 少しもつ?」
美少女が、心配そうに言うが息切れを激しくしながらもハゲデブ親父は首を振_______バサッ!
抱え切れなかった大き目の紙袋が地面に落ち、慌てたハゲデブ親父が拾おうとしゃがん______びりぃぃぃ!
ハゲデブ親父が屈んだ瞬間、派手な音がしてぱっつんぱっつんだったスーツのズボンがケツの辺りから見事に真っ直ぐ裂け谷間から晒されるくたびれ黄ばんだ茶筋のくっきり入った白ブリーフが俺も含め道行く人全ての視線を否応無しに奪う!
おげぇぇ!
茶筋とか! ちゃんとケツ拭けよ!
つか、パンツ黄ばみすぎだろぉお!?
「のほっ!? ぶひうう!」
茶筋を直視した通行人たちのがくすくすと嘲笑する中、美少女が羞恥心からか地面に膝をついたまま恍惚の鳴き声をあげて固まるハゲデブ親父の手引いて立たせそのまま引きずっていく!
俺は、すかさずその後を追った!
「あはははははは~なにしてんの~! あーお腹いたい…うふふふ! 上着貸したげるっ…てか、パンツ! パンツ! きゃはははは!」
駅前の犬の像の前。
大爆笑の美少女は、落ち込みながら小さく蹲るハゲデブ親父に何やら止めを刺している!
うわっ!
馬鹿! なに考えてんだよ!!
こんな得体の知れないハゲデブ…いや、援交なんてするような大人の男をそんな風にからかうな!
何されるかわかんねーぞ!
「ぐぅ…そんなに笑わなくても…」
「だって、ちゃ…だめー無理ー! お腹いたい!! だって_____」
pppppp
突然のアラームに、俺の心臓が跳ねる!
うそっ!?
俺の携帯、サイレントなのに!??
いつも胸元に入れてる少年課の携帯を慌てて取り出すが、違う…俺のじゃない…!
すぐに視線を戻すと、どうやらアラームはあちらの携帯だったらしくハゲデブ親父は少し険しい表情を浮かべ太い指でボタンを操作している。
「…そろそろ行こうか…」
ハゲデブ親父の言葉に、爆笑していた美少女が動きを止める。
「…もう…いくの? もうちょっとだけ…」
「約束だろう…!」
すこし強い口調でハゲデブ親父がいうと、美少女は少し顔の強張らせしゅんとうな垂れてしまう…。
「では、白いお城にまいりましょうか…可愛いお姫様…」
美少女のブレザーを腰に巻いたハゲデブ親父が瞳を潤ませ小汚い手を伸ばして、薄気味悪く油ぎった唇で微笑む。
気持ち悪っっ!
なーにーが「白いお城」だ!
ケツ破けて筋パン晒して殺し文句のつもりか!
下衆が!!!
俺は、ぎりっと奥歯を噛み今すぐこの場で検挙したい衝動を押さえ込む!
…まだだ…現行犯…現行犯で挙げてやる!
美少女が差し出された小汚い手を取り、二人は駅の方に歩きだす。
すかさず俺は後を追った!
◆◆◆
え?
此処は…。
電車を乗り継ぎ辿り着いたその場所。
俺は思わず二人から目をそらし、その建物を見上げた。
だって、それは余りにも俺が想像していたものとは違ったから・・・。
呆然としている間に、二人は「白いお城」に入っていく。
やめておけばいいのに、俺の脚は二人の後について中に入ってしまった…。
広いエントランス。
そこには、老若男女がひしめき合いながら待合のベンチで順番を待っていて二人はブランド品の紙袋をガサガサさせながらその間を抜けてエレベーターに乗る。
慌てた俺は、尾行の事を忘れ慌てて同じエレベーターに乗り込んでしまった!
エレベーターの狭い空間に俺、ハゲデブ親父、美少女が三つ巴する…俺と言う部外者がいるせいか二人は全く会話をしない…まいったな…空気が重く感じる。
チン
7階を指したところでエレベーターが止まり二人が下りたので、俺も続いておりる。
二人は俺の事など気にも留めず、すたすたとそこへ向う。
703号室:ヤマモト・ユウコ様
そう書かれた手書き表札のスライド式の扉を美少女が開けて、続いてハゲデブ親父も入っていく。
「あー楽しかったー!」
部屋に入るなり美少女がそういいながら、自分の髪を無造作に掴み上げ引っ張る______かぽっ。
!?
美少女の腰まであった艶やかな黒髪が、その頭皮からはがれつるりとしたハゲ頭に…て、カツラ??
その黒髪のカツラを、指でくるくるまわしながら部屋の隅に置かれた木製の帽子スタンドにひょいとかけると美少女は殺風景な部屋のベッドの上にごろりとダイブしてぱたぱたと足をばたつかせる。
「ぶふぅ…楽しかったかい?」
近くにあったパイプイスを広げ、手にいっぱい抱えた紙袋をそこに乗せながらハゲデブ親父は言う。
「うん! 久々にブレザー着てショピングして少しだけどアイスも食べれたし凄く楽しかったよ! それに…うふふふ」
明らかに表情の暗いハゲデブ親父に、美少女はにこにこ笑いながらベッドの上でごろりとする。
「心配しないで! こんなに早くドナーが見つかって移植手術が出来るなんて私は幸運なの…絶対上手く行く…もう! パパが泣いてどうするの!」
「ぐじゅ…ずずず…手術が終わって…元気になったら、今日買ったもの全部着てまた…いこ"うな…」
美少女は「当たり前じゃない」と、言葉を詰まらせ泣きじゃくる父親のハゲ散らかした頭を抱き寄せて微笑んだ。
◆◆◆
へ?
そんな…ええええええ…!!!!
ドアの隙間から様子を伺っていた俺は、絶句すると同時に捕まえなくてほんと良かったと胸を撫で下ろす。
ああ!! 恥ずかしい!
少年課の人間が、親子と援交を取り違えるなんて!
こんなの誰かに見られたら…!
「仲嶺」
少年課の警察官としてあるまじき失態に羞恥心で悶えていた背後から突然名前を呼ばれ、俺の心臓が跳ねる!
おそるそる振り返るとそこには、腕を組んで渋い顔をした同期の山岸が仁王立ちしていた。
こ…こいつ!
いつからそこに!?
いや、どこら辺から見られていたんだ!?
山岸は無言のまま俺を睨みつけ、言った。
「オレの負けだ」
へ?
「お前、いつからあの二人が親子であのガキが病気だって見抜いてた?」
「え…ああ?」
俺の曖昧な返事に山岸は眉間に皺をよせ、なにやら悔しそうな顔をする。
「オレにはあのハゲのおっさんが、ガキとやろうとしているようにしか見えなかった…もしお前が張ってなかったら間違えて検挙するところだった…流石だ…」
「は? なんの話だ?」
俺の問いに山岸は苦笑する。
「謙遜するな…お前、オレに恥をかかせない様に…引いてはあの親子が無事に買い物を楽しめるように自分のポイントの事なんかそっちのけでずっと見守ってたんだろう? 大学時代からお前のそう言う所には敵わない」
え? あ? 違…何言っちゃってんのお前!??
どうやら俺より先にあの親子に目をつけていたらしい山岸は、俺が全てを見抜いた上で尾行したと…?
山岸の余りの過大評価に、俺は言葉を失いぱくぱくと口を動かす事しか出来ない!
いや、全て偶然ですよ??
お前に尾行されていた事すら俺知らなかったからな!?
そんな俺の気持ちなど露ほども知らない山岸が、くるりと背を向け腕時計を見ながら「もう時間だ」と溜め息をつくとpppっとアラームがなる。
ソレは、今月の検挙ポイントの締め切りの合図だろう…はぁ…希望課への転属願が受理されるのは只一人つまり首位が二人と言う事は今回は該当者無しと言うことになるだろう…。
「0.5ポイントだ」
「え?」
肩を落とす俺に、山岸が言う。
「自己集計しなおしたら、オレはお前に0.5ポイント差で負けてた…それでなくても今回は完敗だ」
それって…?
「仲嶺、お前がナンバー1だ!」
山岸はそういい残すとその場から立ち去っていった。
俺はもうしばらく病室で寄り添う親子を見つめる…2つのハゲ頭が丁度窓から入る夕日に照らされてオレンジ色になって病室の壁に寄り添って影を浮べる。
娘か…。
その寄り添う影を見ていると何だか無性に妻に会いたくなって、俺は急ぎ足でその場を後にする!
今日は、報告書を上げたら何が何でもに家に帰ろう…!
そして、最近構ってやれなかったマタニティブルーで情緒不安定な妻を抱きしめて普段は触れる事を禁止している彼女の大好きな俺のケツを思う存分もみしだかせてやろうと思う。
ケツ☆らぶ 粟国翼 @enpitsudou
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