ケツこんぶ!!!



 「どうしよう…死んでんじゃねぇか…?」



 腰のリハビリついでに来た公園で壁相手に一人キャッチボールしててさ、虚しくなって思いっきり投げたボールが跳ね返って飛び込んだ林でさ倒れてたんだよ。


 コロコロ転がるボールの横で、明らかにサイズの合わないぴちぴちのスクール水着を着た七三分けの中年のおっさんが頭から血を流して。


 何で!?


 なんで、このおっさん水着なの!?


 しかも、スク水がぴちぴちだからTバック見たくケツに食い込んでケツ毛があふれ…じゃなくてよぉ!


 


 …いやいや、もしかしなくても俺の所為かコレ!?


 

 「やべぇ…マジでどうしよう…!」



 とりあえず何とかしないと!


 俺はそこら辺に落ちてた木の枝でおっさんを突いてみる…がピクリとも動かない。




 「へんじがない、ただの屍のようだ」



 なーんて…って…



 「ウソだろおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 え?


 え?


 何コレ!?


 どうすればいいの?!


 応急処置とか救急法とかが、頭の中で駆け回る!



 事故とは言え、ひっ、人殺しはやだぁぁぁぁぁ!!




 あまりの事に俺の脳裏に走馬灯が走る!


 なんだ?


 何でこうなった??


 えと、たしか、いつもは土日にこっそり武道場でやってる痛めた腰のリハビリのトレーニングをさ、たまには気分を変えようって思ってそれでこの公園に…そんで、たまたま落ちてたこの野球ボールで壁相手にキャッチボールしてそれで。



 倒れているおっさんのスク水の食い込みからケツ毛が揺れる。

 


 「おい! おい!」


 ぶっ倒れるおっさんの肩を掴んでガクンガックン揺らしてみるが、だめだ、白目むいてまるで壊れた人形のようだ。



 ああ! ヤバイ! やばいって!


 どうすりゃ良い?


 ここは…これはアレか?


 どうすんだ? 


 人工呼吸か??


 血迷った俺は、おっさんに唇をよせ______ひっ!


 唇が触れる寸前、白目をむいていた目がグリンと回転し俺を凝視しその腫れぼったい脂ぎったぬらりと動く。



 「うぎゃああああああああああああああ!!!」



 俺はおっさんを放り出して、その場から全力で逃げ去った!


------------------------------------------------------------------------------------

 ダダダダダダダダッ ガチャ バタン!!




 全速力で寮の部屋まで逃げ帰った俺は、鍵をかけてドアの前でへたり込む。



 「はぁ はぁ 恐いよ、キモイよ、スク水だよケツ毛だよ…」



 なっ、なんだったんだありやぁ…?


 全力で走った為、喉が死ぬほど乾いて俺は冷蔵庫をあけ_______



 「ごばあぁぁぁあん!!!」


 「ぎゃあああぁぁぁぁあ!!!??」



 丁度俺の腰くらいの高さの一人暮らし用の冷蔵庫から『悔い改めよ』と言いながら、さっき公園で倒れていたスク水姿のおっさんが這い出てきた!



 「なっ、何で家にいるんだよ!!!」


 「ふふふ…ザ!世界仰天ミステリー」


 あまりの事に床に蹴躓き部屋の隅まで一気に後退する俺を、くねくねと競歩をしながらおっさんが壁際まで追い詰める!


 ヒィ!


 ピチピチのスク水で締め上げられたお稲荷さんが、うりうりと俺の眼前にぃ!!



 「うおおおおお!!!?」



 余りのキモさに突き出した拳が、おっさんお稲荷さんにグニンと沈み吹っ飛ばす!



 ぐにってした! 


 ぐにってした!


 生あったけぇ! いやあああああああ!!!


 

 

 吹っ飛ばされたおっさんは、打ちひしがれたお稲荷さんを押さえた状態で壁にめり込みながらもよろよろと立ち上がる!


 恐い!


 キモイ!


 つか、どうやってあの公園から此処まで?


 てか、なんで部屋しってんの!?



 「ほぐぅ…ぐひゅうぅ…! ひ、左の玉がぁぁぁぁぁぁ! んほおぉぉぉっ!!」



 内股で前かがみのスク水のおっさんが、恍惚とした顔で呻きながらじりじりにじりよってくるぅ!!

  


 「ちっ、近寄んな! 何もんだよ! てめぇ!!!」


 「ぐふっ づひゅぅぅぅぅ…ワタシが何者かだとぅ…よかろう…」


 おっさんはお稲荷さんをさすり腰をとんとんと叩きながら飛び跳ね、ギョロリとした目で俺を見据えふひゅうううう…っと、息を吐く!



 一瞬訪れる沈黙。


 六畳一間の密室に、スク水を着用した変質者と対峙すると言う異常事態に否応なしに緊張が高まる!

 


 

 

 「ワタシは_____!」



 おっさんは自分の乳首をつまみながらターンしてケツを突き出しながらウインクしてカッと目を見開く!



 「ワタシは、人魚よん★」


 

 スク水の食い込んだケツから、剛毛のケツ毛が風も無いのにふそりと波打つ。



 ピッ。



 「あー、もしもし警察ですか? 部屋に変質者が_____」


 俺は、スマホを取り出し迷う事無く速攻で警察に電話した。



 「んほぉぉ!? させるか!! 必殺! マーメードフラッシュ!!」


 おっさんは、スク水の根元を掴み引き千切らん勢いで吊り上げケツに食いこませる!


 年の割にはぷりんとしたケツに食い込んだ布のから溢れる剛毛がウニのように毛羽立ち蠢く!



 「ヒィ!?」



 その余りの変態的なポージングに、一体何が起こるのかと一瞬固まったが特に何も______



 『_____もしもし、此方は●●警察署。 どうしました?』


 

 スマホの向こうの警察官が、無言の俺に声をかける。



 『落ち着いて、ご自宅の住所答えられんま____!? なっ! 何だこれは!? たっ、たすけっガガガガガガッツ ぎゅおおぉ!? ピーーーーーーーーガチャ ツーツーツー』


 「はっ! え ちょ、」



 唐突に切れる通話。


 「もしもし? おーい! もしもーし…」


 どんなに話しかけても、電話の向こうからは返答が無い!


 え?


 え?


 何?


 俺は思わずおっさんのケツを凝視する!



 「ああ、人魚のワタシがなぜ陸に上がっているのか気になるか?」


 「んなもん知らねーよ!! むしろ警察官の方が気に掛かるわ!! 一体何しやがった!?」


 「ヤツは死んだ」


 「死んだの?!」


 「ウソ★」


 「嘘かよ!!!!」



 おっさんは、急に何も無い斜め45度の虚空に視線を移す。



 「人魚のワタシが陸に上がったのは18年ほど前の事______」



 行き成り語り始めちゃったよ!



 「お前の話なんて聞きたくネーよ! はよ出てけ! この変質者!!!」


 「…グチャ」



 おっさんは突然スク水の食い込んだケツに手をつっ込みズルンと何かを引き出し、俺に向って投げつける!



 べしゃ! どぅるん!!!



 「ぎゃああああああああああ!!」



 俺は避けるまもなく巻き込まれ、胴、腕、足がそれに締め上げられる!


 

 うげぇ!


 ヌルつく! それに磯臭い…これは!?


 「…さぁ! 話を聞かねば、その『昆布』がお前を〆るのだよ?」


 体に巻きつく『昆布』は、おっさんが『wo』と言うたびまるで意志でも持ってるみたいにヌルつきながら締め上げてくる!



 「っく! わかった…話を聞く…!」



 くっ! 昆布に拘束された状態で自分を人魚だとほざく変質者の話を聞くはめに!


 屈辱的だが仕方が無い…。



 「あれは、18年前の事。 娘が人間の男と恋に落ちていまったのだよ…。


 『待ちなさい!』


 『放して! 私決めたの! あの人と生きていくわ!!』


 バッシ!


 『くっ! そんなにあの男と…許さん! 許さんぞぉぉぉ!! どうしても行くというならこのパパを倒してから行きなさい!!!』


 『パパ…』


 ドカッツ


 ボキボキボキッツ


   ギピュ コキュッツ


 ワタシの制止も聞かず、海を離れ男の下へ行きまったのだよ。


 …それから18年、娘からはなんの音沙汰も無く心配になったワタシは海辺に流れ着いたこの服を纏い娘を探し続けているのだよ…」


 おっさんははらはらと涙を流しながら遠い目で語り切った…あくまで人魚の設定を崩す気は無いらしい。


 訪れる沈黙。

 

 ちっ! 


 語り切ったおっさんが、感想欲しそうにこっちをジッと見てやがる!


 …人魚かどうかはおいとくとして、少なくとも公園からここまで瞬間移動し電話の向こうの相手を攻撃できる危険な生物に変わりない…ここは話を合わせておかないと危険だ!


 

 「あ、そっ…取り合えずおっさんが人魚ってのは認めるよ…昆布出てきたし…けどさ、娘を探してる真っ最中なんだろ? 急いだ方がいいんじゃない? こんな所で油売ってる場合じゃないんじゃないのかな~…なーんて…」


 …おっさんの言われてみれば魚っぽい目がぎょろりと俺を見下ろす。


 我ながらなんと微妙な交渉だろう。



 「…人魚は陸に上がるとき自身に魔法をかけるが、その力は永遠ではない…定期的に補充が必要なものだその補充を怠ればその人魚は文字どおり『泡』となって消えるのだよ」


 「はぁ…」

 


 話が見えない。


 行き成りのファンタジーに首を傾げるの俺の元に、自称:人魚を語る変質者がおもむろに迫り____ずるっ!


 おっさんの手が、巻きつく昆布ごと俺のズボンを引き下げる!

 

 


 「んひぃ!? なっ、何すんだ!?」


 「おお…素晴らしいなんと魔力に満ちた尻だことか…ボールの当った傷の回復に随分魔力を使ったが、予想以上だ…これならば」



 身動きの取れない俺のケツにヌルヌルのおっさんの手が掛かり、もちもちともみしだく!



 「ぐふふふ…公園では食い損ねたが、ここなら邪魔されまい…さぁ」


 おっさんは脂ぎった唇をじゅるりとなめずる。


 は?


 食う? 食うってそういう意味!?


 まっ、まさか!


 あの公園の時点で目をつけて…もし、ボールが当ってなかったらあの場で…いやいやいや! 



 「くそっ! どいつもコイツも…ケツ、ケツって…ふざけんなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 ブチブチブチィ!



 俺は、体を拘束していた昆布を力任せに引き千切る!



 「なっ! 何だと!? ワタシの昆布を!? まさか魔力は_____ぐはっ!?」


 怯んだおっさんは、驚く間も無く俺の一本背負いを食らい畳みの床に叩きつけられる!


 「柔道部なめんな! この変質者!」


 「せっ、せめてひと舐め…」


 俺は、スク水の食い込むケツを此方に向けてぷるぷるほざく変質者を縛り上げようと近くにあった延長コードを手にとって_____ガチャ。



 突然ノックもなしに、部屋のドアが開く。



 「あんた…なにやってるの?」


 「……おっ、お袋?!」


 ドアを開けたのは、田舎に住んでいるはずの俺の母親…。


 そうだった! 今日はお袋が田舎から出てくるって言ってた!


 お袋の視線がケツを空き出し畳みに突っ伏すスク水変態親父と、それに延長コーをもって迫ろうとする息子を高速で移動しみるみる顔が強張っていく!



 しまった! 見た目にはある種のSMプレイに見えなくも無い。



 「ちっ、違うんだ! お袋! これは_____」


 「パパ?」



 お袋の言葉にスク水の食い込んだケツがビクンと跳ね、ぶるぶると震える。



 「パパ…パパなの…?」


 「その声は、うろ子! うろ子なのか!?」

 

 スク水の食い込んだケツが、ずいっとお袋ににじり寄る!

 へ?



 「では! この子は…!」


 「ええ…パパの孫よ…!」



 は?


 スク水のケツが、お袋と抱き合う。


 18年ぶりの感動の再会_____いやいやいや…ウソだろおぉぉぉ!!!!



 「うろ子…やっと、やっと…ゴホッ! ホゴッ!」


 「ああ! パパ…こんなになるまで無理をして…」



 お袋が、呆然と立ち尽くす俺をちらりとみる。



 アイコンタクト『ケツをだせ』。



 「いや! 無い無い無い無い! 馬鹿だろ! 息子になに強要しようとしてんの!?」


 「大丈夫よ! 舐めるだけ! 人命掛かってるんだから我慢なさい!」


 「ふざけんな! 舐めるだけとか何のつもり?? つか、人魚とかガチなの!??」


 「しのごの言わず出しなさい!!」

 


 うろたえる俺のズボンをお袋がずり下げる!


 相手がお袋なだけに、殴って逃げるわけにも行かず下げられたズボンに躓き俺は畳の床に転ぶ!!


 「さっ! パパ!」


 「いやあああああああああああああああああ!!!!」



  ぶちゅるるぅぅぅぅ…!


 脂ぎった唇がケツの割れ目に触れて、ショックの余り俺の意識が遠のいた。


------------------------------------------------------------------------------------

 ザン…ザザン…

   ザン…ザザン…


 夕日が照らすオレンジ色の波の音と潮の香り。


 此処は、俺の寮の近くの浜辺だ。



 「…ほんとに人魚なのかよ…?」

  

 海にバシャバシャと入っていくスク水のおっさんは、砂浜に佇む俺と涙ぐむお袋を振り返ってにっこり笑う。



 人魚は海に戻ると陸には戻れないらしい…だからこれでさよならって_____バシャン。


 

 あ。



 あれほどの事をしておいて、あっさりとおっさんは行ってしまった。



 俺のケツに張り艶と潤いを残して。



 お袋の話によると、人魚の唇には美容効果があるらしい。


 かと言って、俺のケツがキレイになった所で誰も得はしないだろうがね…。


 それにしても、何故だろう?


 あんな出会いだったと言うのに、身内だと思うと何だか感慨深い思いが込上げる。


 少しだけ、ほんの少しだけ「もうちょっと話しておきたかったな」なんて思いながら俺はお袋は夕日の沈む海を後にした。

 

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