けつまげどん!!

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 「何故だ! 何故、下着を着用しない!! 丸出しじゃないか!! さっ、コレを!」


 「ふざけんな!!」



 壁を背にした俺は、取り囲む全身タイツの黒ずくめ集団のリーダーと思しき男が差し出すソレを叩き落として睨み声を荒げる!


 確かに現在の俺は小雪舞い散る凍てつく様な寒さの中、身に着けているのはピンクのTシャツと便所草履のみで下半身は丸出し…『パンツをはけ』この黒ずくめの言う事はしごくまともだろう。


 勘違いしないで欲しいのだが、俺だって何も露出が趣味の変態じゃない。


 いい加減寒さで玉が縮こまってるし、差し出された親切は受けるべきだ…だれがどう見たってこの現状で間違ってるのは俺で正しいのは奴等。


 疑う余地は無い。


 こんなにたくさんのギャラリーの前でフル●ン晒すとかありえねぇ…出来るもんなら受け取ってさっさと着用すべきだ本当はそうしたい!



 差し出されたものが、まるで女の下着のようなTバックでフリルとレース満載のメンズランジェリーじゃなけりゃな!!!

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 ランジェリー。



 それは、本来パンティやブラジャーを含めない女性用のインナーウェアを指し補正下着であるファウンデーション、肌に直接身につけるブラジャー、パンティー、寝具であるネグリジェを含めないもの。


 俺にとってのランジェリーなるものの認識は、ふくよかな谷をたえる清らかなる双山を守る鉄壁の盾であるブラジャーと聖なる密林を守護するパンティのセットである。



 ランジェリー。



 それは、聖域を彩る普遍的な憧れ。


 いつの日か、剥ぎ取る事を前提とした儚い布着れ。


 俺から言わせれば、ランジェリーなんぞはデザインや形よりもその下にある花園にしか価値が見出せない。



 だから、俺にこんな事予想だにしない自体が降りかかるだなんて思わなかったんだよ!



 「素晴らしい!! ああ、たまらない!!」


 「おお、まるで奇跡だ!!」


 「貴方こそ、完璧に穿きこなせる!!」


 「御尻様!」


 「御尻様!!」


 「じゅるり…!」



 ざっと見て30人くらいの男の視線が集まる…俺のケツに!


 そして、なまめかしく崇め奉り賛美する!


 俺のケツがいかに素晴らしく、もはや神々しいと!



 ああ、クソっ…まさか前じゃなくケツを隠す日がこようとは!!



 事の始まりは一か月前。



 この学園から男性用下着が消滅した。



 いや、消滅したからってそれ自体はどうという事は無い。



 無くなったならまた買ってくるなり作るなりすればいい…問題なんて無かったはずだった。


 

 『ケツアルコアトル』


 

 奴らが現れるまでは!



 ケツアルコアトルとは、元々ストレスを溜めた特進科の男性用ランジェリーを崇拝する変態コレクター集団に過ぎなかった。


 男性用ランジェリーだって、奇抜なデザインやフリルやレース、シルクとかいった素材にこだわった嗜好品に過ぎず一部の苛烈な愛好家達の間で流通するに留る品である以上でも以下でもなかったはずである。


 

 が、そんな一般男子生徒にはなんの関わりも持たなかった男性用ランジェリー愛好家集団は自分たちを『ケツアルコアトル』と名乗り突如世界に牙を剥くと宣言した!



 奇妙奇天烈摩訶不思議な何らかの方法を使い、世界から『普通の男性用下着』を消滅させると宣言した彼らは『男性の心の安らぎと精神の解放』の名の元に次々と嫌がる男達に男性用ランジェリーを着用させ篭絡させていく。


 

 そして、その魔の手は平和な生活を送っていた体育科生徒であるこの俺にも迫ってきた!



 奴等組織の言うところの『選ばれし聖なる御尻』を持つ俺に!


 意味がわからないが、俺のケツが篭絡すると『ケルアルコアトル』がマルスの化身として男性用ランジェリーを持って混沌としたこの世界を幸福の元に統治するらしい。



 …ふざけろ! どこのノストラさんだ!


 そんな世界統治なんざクソくらえなんだよ!!


 身長185CM:体重90キロの筋骨隆々とした男が、そんな女みたいなすけすけフリルやレース、ミントブルーの縞パンを穿かされてたまるか!!




 俺は、抗った!



 フル●ンになりその証を立てる事でもはや世界に広まるケツアルコアトルに反目意志を突きつけ、高校推薦を勝ち取った持ち前の柔道を生かし同じくランジェリーを穿かされまいを戦う仲間と共にショッカーの如く攻めてくる奴等の刺客を退け続けた!



 だが、一人また一人仲間はランジェリーに囚われていく…そして最後まで俺のケツを勝手に守護していた山岸までも…。



 遂に俺一人になってしまった…!



 「くっ! 何故、何故俺なんだ!!」


 ランジェリーを構えて迫り来る手下どもをなぎ倒しになぎ倒したが、どこからともなく『メンバー』が集まり俺の体力は削られていく…ちっ…此処までか…!

 


 雪の上に膝をつく俺の背後にジャリっとブーツが、踏みしめる。

 

 「やはり素晴らしい…我等の偉大な指導者もお気に召して下さるだろう」


 背後でケツに見とれ感歎の声を上げる野太い声…。



 「偉大なる指導者だとっ…貴様等の目的はなんだ! 何の為にこんないかれたパンツを俺に履かせようとする!!」



 振り向き睨みつける俺に、黒ずくめのリーダーはぱっくり割れた股間にレースでスケスケのあられもないパンティを身に着け仮面越しにニヤッとわらう。



 「ふふふ…偉大なる指導者の目的は安らぎと解放による世界統一それにはその『御尻様』が必要なのだ!」


 



 …まったく話が見えない!!




 黒ずくめのリーダーは、くねくねと身もだえならが言葉と続ける。


 「やっと…やっと、巡ったこのチャンス…あの者が『御尻様』から離れるのをどれだけ待った事か…!」



 『あの者』と言う言葉に、俺はゾワッとした感覚を覚える…この黒ずくめは『アイツ』が居ないのを見計らって俺に襲い掛かったのか…。



 …はっ…全く良い判断_________ガスッ。


 黒ずくめの卑猥なパンティに目を奪われていると、突然の衝撃に視界がぶれる。



 「…さぁ、きて頂きます…『御尻様』_____」



 霞む視界に、T字剃刀を構えた卑猥なパンティが笑っているのが見えた。


----------------------------------------------------------------------------------



 じょり


  じょり


 じょ


  ぶじゅ~


 ざりっ



 俺は、下半身のすーすーする感覚で目を覚ました。



 薄暗い部屋…?


 体を這うナニカ…?



 チャリッ…

 


 なんだ?


 


 両手を万歳の状態で鎖でつるされて…あれ? 服? へ?



 「…なっ…いやああああああああああああああああああ!!!」



 余りの状況に俺は、恥も外聞もかなぐり捨てて女のような悲鳴をあげる!



 「無い! 俺の『毛』が!! 剃られてる! たっ玉の裏までっ!??」


 

 そう、俺の…俺の体毛が脇の毛から胸毛、ギャランドゥからあそこの毛まで全て綺麗に剃り上げられてるぅぅぅぅ!!



 「勿論、『御尻様』の方にもぬかりはありません」


  

 そこには、仮面越しにも分かるくらいポッと頬を赤らめる黒ずくめのリーダーが泡のついたT字剃刀を構えうっとり溜め息をつく!



 「『御尻様』にそんな醜い無駄毛は必要ないですから…うふっ」



 「いやあああああああああああ!!!」



 悲鳴をあげる俺など見向きもしないで、黒ずくめは俺の背後に『御尻様』に回り込み_______ぐにっ。



 「あ わわわ 何すんだっ! てめっ!!」



 ケツの頬をつかまれ_____ジョリッ。



 「ヒィ!!」 


 「ケツ毛なんて持っての外です…大いなる支配者より賜った神具を身に着けて頂くのですから」


 

 じょり


   じょり



 「…っつくっ!!」


 すっかり剃りあげられた『御尻様』に、暖かな蒸したタオルがあてがわれる!



 はぁっ…あったけぇ…じゃなくてよぉ!!!


 「さぁ、準備は整った…」



 ガコン



 「なっ、何だ!?」


 背後でナニカが開いたのか、冷気が俺のケツに吹き荒ぶ!



 「きゃーーー御尻様ーーーーーーー!」


 「ケツアルコアトルに栄光あれーーーーーー!!」


 「聖ないる御尻よ、我らに安らぎと解放をもたらせたまえーー!!」



 背中を向ける俺の耳の飛び込んで来たのは、無数の歓喜に沸く人々の声…それも数十人なんてモンじゃない…百? 二百? いやもっとだ…どうしよう怖くて振り向けない!!



 「っ…お前らは一体…こんな下着で一体何が変えられるってんだよ…!」



 睨みつける俺に、仮面の向こうで黒ずくめが卑猥なパンティを揺らしながら笑う。


 「男性用ランジェリーがなぜ此処までこの学園の生徒たちにに浸透したかわかりますか?」


 「…知るわけねーだろ…? って、なにすんだ!?」


 俺の胸にブラジャーをあてがいながら、黒ずくめは言葉を続ける。



 「それは『不安』です」


 「ふあん? って、あの不安の事か? …なんでそんな事で??」


 「君は覚えていますか? あのリーマンショックを…」



 「は? リーマンショックって…あの?」


 リーマン・ショックとは、2008年9月15日に、アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻してサブプライムローンとかいう住宅ローンがほぼ破綻して米国のバブルが崩壊したとかなんとか…世界的な金融危機になって日経平均株価も大暴落を起こしリストラと倒産とかが増えて就職だって氷河期所か…ってやつだよな? たしか?



 「それが何だってんだ?」

 


 「その、リーマンショックの影響による不安で追い詰められ癒しと自分を守るためにランジェリーを着ける男性が増えたのです…そしてその波はその子供達にとりわけ富裕層にあって経済的不振からストレスを感じやすい受験間際の男子生徒に!」

 


 「は? へ? 何だって??」


 「分りませんか? この気持ちが!!」



  …微塵も理解できない。

 

  が、もしそれが事実ならならリーマンショック罪深過ぎだろ!?


 「ネットでたまたまみついけて、初めは好奇心だからだったが、着てみるとこのフィット感が『守られている感』で心に安らぎと適度な締め付けが自分と向き合い更なる精神の解放をもたらすのです…この運命の出会いをきっかけに小生はある思いに至ったのだ! この感動を世界中に広め…不安や苦しみから全ての男性を解放したい! と! そして、出合ったのだ大いなる支配者に!」

 

 

 パチリ


 っと、留め具がかかり俺の胸についに男性用ブラジャーが着せられる!!



 「くっ、止めろ! こんな事したってどうにも_____」


 「『なる』のだよ! 高等部体育科2年、仲嶺一…君のもつ『聖なる御尻様』と大いなる支配者より賜ったこの『神具』さえあればな!!」


 

 黒ずくめは高笑いしながら『しんぐ』と言いながら取り出した豪華な小箱が俄かに輝く…もはや嫌な予感しかしない!!



 

 「おおお! 神具がこんなにも激しく!! ああ…コレで我らの大いなる支配者の願いが______」



 人々の歓声とともに、箱が開かれ光が溢れる!


 穿かされてしまうのか?


 卑猥なパンティを?


 統治されてしまうのか? パンティで!?



 「やっ、やめろおおおおおおおお!!」



 黒ずくめが、鼻息荒く俺の股間にそれをあてがおうと手を伸ばす!



 いっ嫌すぎる!


 世界がどうこう以前にこんなの穿きたくない!



 誰か________!


 



 「触るな! そのお尻は、私のものだ!」

 



 ざわつく歓喜の怒号を貫く凛とした声。



 その瞬間、次々に上がる悲鳴!


 ああ、背中を向けたこの状態らでも分かる_______。



 _______来た________俺を助けに。




 一番最悪な奴が!




 数多の悲鳴を乗り越えて、奴は俺の背後で黒ずくめと対峙する。



 「貴様! 何故ここに!! 大いなる支配者は…あの方はどうしたのだ!?」


 「大いなる支配者? ああ、自分は宇宙から来たとか恐怖の大王だとか喋るあの変な岩? とっくの昔に倒したけど?」

 


 奴のけろりとした答えに、黒ずくめは発狂したように悲鳴を上げなら襲い掛かっただろう。


 

 そして、ほぼ一撃に沈んだ。



 背後で起きた事だが、見なくても分かる。


 「ふぅ…やっと見つけましたよ~勝手に離れちゃダメじゃないですかぁ~~!」


 ひんやりした指が、するっと背中を滑って____ぷにっ。



 「ひんっ!?」



 さわさわ。

     さすさす。



 「…すんすんすん」


 「いやああああああ!! お前っ! 止めろっ!!」



 俺のケツに鼻をうずめるコイツの名前は蔵当エリカ。


 俺のケツに恋する痴女。



 はっきり言って、俺からしてみればケツアルコアトルなんかよりこの女のほうがよっぽど危険だ!



 「うふふ…まるで生まれたての香り、それにこのさわり心地…剃毛もなかなか…あ、いえ、勿論普段の雄雄しいフェロモンも猛々しく剛毛の生えたナチュラルなお尻も最高ですから!」


 背後から回り込んできた蔵当は、俺好みのまっしろなもち肌の頬を赤らめならがらゆるふあのツインテールを揺らし必死に弁明をはじめた。


 そんな弁明はいらない!


 早く俺のケツから離れろ!


 この、痴女が!!


 「あ、ブラジャーはいただけません外_______」


 既に装着されていたブラジャーに手を伸ばした蔵当の手が止まりナニカに気がついたのか言葉を詰まらせる。



 「く 蔵当?」 


 「…この見事なお尻を経廉恥な布切れで装飾するのは頂けないと、思ってましたが…コレは_____」



 蔵当の手に、いつの間にか『神具』の入っている小箱が乗せられている。



 「コレが『神具』とか言うのかしら?」


 「おい! 一体何っ…?」


 「いえね、ケツアルコアトルの連中が祭ってた岩っぽいのがこの『神具』を選ばれしものが身に着ければ世界が幸福の元にとか何とか自分が消えても私が成し遂げるとか言ってたんで気になったんですが…」



 蔵当は、そのくりくりとした二重の瞳を輝かせながら箱を覗き込む。



 「…なんて事…! 正に、『神具』…驚天動地です…彼らを駆逐したのは早計だったかも…あ、でもコレでよっかったかな?」



 にや~と、いやらしく笑う蔵当の手にちょこんとそれは乗る。



 何だ?


 茶漉し?


 いや、灰汁とりのお玉?


 …それにしては、網の部分が柔らかそうなレースに見えるし持ち手? らしき所は余りに曲がりすぎてるしどう見ても柔らかそうだ。


 「ああ…これなら、パンティラインなんて無いしお尻の美しさも損なわれません…」



 恍惚の表情の蔵当が、艶かしい笑みを浮べてる!



 「やっ止めろっ! こっち来んなっ!!」



 迫り来る蔵当。


 天井からの鎖で腕を拘束され、逃げ出す事の出来ない俺の脳裏にある一文が浮かぶ。



 ××××××年第7番目の月:天から地に落とされし驚愕の大王アンゴルモアの大王を甦らせ、その前後にマルスは幸福の名のもとに統治するだろう。



 まっ…まさか。


 しゃべる岩、世界を震撼させた組織、俺のケツの為なら最強になれる痴女、幸福を与える『神具』_______。



 思考が停止した俺に、『神具』があてがわれる。


 そのレースのネットが優しく前を包み込み押し込まれたGボールとグイーンと後ろに伸びた1本棒の楽じゃない締め付けがケツの穴を押す!



 IバックCストリングショーツ。



 何者かに囁かれたこの響きと共に、俺のケツを守護するマルスによって世界は幸福の名のもとに統治された。






--- 創世記:X年:囁かれし者の記述より一部抜粋 ---

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