ケツ☆らぶ

粟国翼

ケツちょこ!

 「好き大好き!」


 前々から「この娘いいわー」って、思ってたいっこ下のゆるふあツインテールの色白もち肌ベビーフェイスが頬をコレでもかってくらい真っ赤にして俺に告白する。


 おお! 遂に! 彼女いない歴=年齢の俺にも春が来た!


 と、冷たい真冬の冷気に吹かれても心は躍るはずだった。


 トイレで学ランのズボンをずり下げられて壁向かされた状態じゃなけりゃね!



 ぷにっ♡



 彼女の冷たい氷のような指先が、それに触れる。



 「ああ…コレ…この臀部の弾力、割れ目の食いつき…正に理想…!」



 すりっ♡



 「ひぃ!?」



 もち肌が! もち肌が! 尻っに! 俺、俺の尻にっっっつ!!!


 

 「おっおまっ…! 止めてくだっさっ…おねがっ…!!」



 もはや、年下だとか女とか関係ないく恐怖のあまり敬語になる!


 女に触られるなんてラッキーとかそんなの無い!


 コレはもはや暴力だ!!


 

 「いつもみてました! 我慢して我慢して…でも、もうダメ…! すんすん すんすん」


 「いやあああああああああああああ!!!」



 俺は、恥も外聞もかなぐり捨てて女の様に悲鳴を上げる!!

 頬ずりしてる冷たい頬が!

 割れ目に沿って熱いと息が!!!


 嗅いでる! 嗅いでるよ! 怖ええ! 


 恐怖に慄きに動きが取れない俺だったが、遂に割れ目に指がかかった所でまるで潰される寸前のヤギのような断末魔の悲鳴を上げその魔の手から逃れる為命の限り足を動かしその場を駆け出す!


 あっあんなに可愛いのに…!


 痴女…痴女だ…ほんまもんの変質者だよ…!


 残りの授業なんてそっちのけで駆け戻った寮の部屋に飛び込み、がっつり鍵を掛け布団をかぶって震える。


 体育推薦で受かったこの高校にに通う為、島から上京して3年。


 『内地は恐ろしい所だ』と、言っていた伯父の言葉が頭を過った。



 俺は、小学校から柔道をならっていた。

 自慢じゃないが、そこそこ強い。

 中学でも成績を残しこの高校もスポーツ特待で進学して全国大会では個人戦で3位、団体戦ではベスト4入りしてその功績もあって大学にも特待で進学する事が決まっている。


 だからじゃないけど、無論女と付き合ったことなど無い。


 …好きだった女はいたけど、彼女にはずっと片思いの相手がいて告っちゃみたが見事玉砕していた訳だが、それが少しトラウマで色恋沙汰から少し距離を置いていたんだけど…。


 初めて…好きだなんて言われたのに…!


 「尻ってなんだよ! 尻って!!!」


 『先輩! 渡したいものがあるの!』っと、トイレに連れ込まれた段階でおかしいとは思ったんだ…それから壁を向くように言われてズボンを下ろされて_______。


 摘まれ、もまれ、嗅がれて、もう少しで指を指を______うわああ!!


 どうしよう…怖くて学校行きたくない…。

 でも、進学を控えて単位を考えるとそうもいかないし…それで無くとも俺にはあまりサボれない事情がある。


 翌日。


 俺は、いつもの様に駐輪場の側を通って教室へ____もぎゅ。


 「うひゃお!?」


 「ああ…いい…」


 尻に食い込む掌からのがれ、距離を取ってそれと対峙すいる!


 そこにいたのはゆるふあツインテールのもち肌。


 「蔵当…!」


 蔵当エリカ、体育科の一年で俺の所属する柔道部のマネージャー。


 「逃げても無駄ですよ、仲嶺先輩_____そのお尻はアタシのものです絶対に誰にも渡しません!」


 可愛らしい声の宣言に、駐輪場中の視線が釘付けだ!


 「ふざけんな! 俺の尻は俺___つーか俺の一部だ!!!」


 「ええ、そうですよ? だから付き合って下さい! 大好きです!」


 お前が好きなのは俺の尻であって俺じゃないだろが!!!


 俺は、蔵当の尻にたいする求愛を黙殺し踵を返して三年の教室へと駆け出すが、蔵当はその後ろをまるで背後霊のようにピッタリと付いてまわる!


 「ついてくんな! この変態!!」

 「嫌です! 仲嶺先輩はそのお尻の魅力に気付いて無いんですよ! 狙われたらどうするんですか!?」


 はぁ?


 何処の世界に、柔道有段者で185cm90キロの筋骨隆々とした男の尻を狙おうなんて命知らずがいるんだよ?


『そんな奴いるか!』っと、つっ込もうと振り向くと俺の尻を凝視する命知らず女が鼻息荒くしてた。


 

 それから、蔵当は授業時間と部活動を除く全てにおいて俺の背後…『尻』から決して離れようとしない…もしコレが男なら容赦なくぶちのめして追っ払うがそうも行かない。


 相手は頭の中身は非常に残念だが可愛らしい女子なのだ、手荒な真似は俺の社会的立場を失墜させる事だろう。



 昼休み。


 「はい、コレ食べてください! コラーゲンがたっぷりですよ」


 目の前で豚足定食を食べていた蔵当が、そのメインたる揚げ豚足を俺のキツネうどんにぼちゃんと投げ込む。


 「うを!? なにすんだ!」

 「今、仲嶺先輩に必要なものですよ…ふふ、ぷりぷりになって下さい…」


 恍惚の表情でに~っと微笑む…この痴女が!! 怖すぎんだろ!?


 「いいご身分だな仲嶺」


 油でギラギラのキツネうどんに途方に暮れていると、聞き覚えのある声が降って来る。


 「山岸…」


 山岸修、俺と同じ学部の3年で柔道部のレギュラー。


 「特待生の中でも期待のホープとか言われてた癖に、ヘルニアで使い物にならないポンコツがマネージャーといちゃつくとか何? 女とやりに学校きてんの?」


 『その腰で女とやれんの?』と、いけ好かない面が嘲るように歪む。


 「ちょっと! 山岸先輩! いくら何でも! 怪我は誰にでも起こりうる事だし、仲嶺先輩はちゃんと治療を受けてるさいちゅ___」


 俺は、蔵当を無言で制止する。


 コイツの言ってることはもっともだ、反論なんて出来ない。


 俺は、特待で大学が決定しているにもかかわらずこの3学期から椎間板ヘルニアの治療に入った…。


 しかも、今までの無理が祟って長期の治療となってしまったため後半は実績など上げられるはずも無く現在に至る…批判があっても仕方が無い。


 山岸は、更にぐちぐちと嫌味を並べてからようやく去って行った…多分あいつ蔵当の事が好きなんだろうなぁ。


 「なんて無神経な人! 軽蔑します! ねっ、仲嶺先輩!」


 「…」


 俺に山岸を軽蔑できる資格なんてない、かつて俺も家庭の事情で退部になったクラスメイトに似たような事を言ったしもし怪我なんてしてなかったら同じように反感だって持っただろう。


 とりあえず脂ぎったうどんと、場違いな豚足をたいらげて席を立ったら又しても背後から蔵当に尻を掴まれ悲鳴をあげてしまった。



 


 「うんうん、これなら少しづつなら練習を始めてもいいかのう?」


 「本当ですか!?」


 通いつめている接骨院の爺先生の言葉に俺の心は躍った!


 「あくまで少しづつ、最初は軽めの筋トレからじゃ…無理はいかん」


 おんとし90歳の皺がれた手が、ペチンと叩く…尻を。


 「ふぉふぉふぉ…相変わらずええのうワシももう少し若かったらのう~」



 なでなで…さすさす…♡


 きっ、気のせいだ! 最近、蔵当に尻を執拗に狙われるから何気ない言葉や治療がこんなにも卑猥に感じるんだ!


 『もう行きますんで!』っと、診療所を後にし学校の武道場へと向かう…この時間ならもう誰もいないはず…。


 俺は、武道場の入り口で辺りを見回す。


 よし、蔵当にはつけられてないな!


 あの告白の日から約一ヶ月あまり、俺は蔵当の尻に対するストーカー行為に頭を悩ませていた。


 蔵当は、何故か俺の尻が狙われているという非常に残念な妄想の元に大学及びその登下校において護衛と称して付きまといやたらコラーゲンを摂取させようと自作の弁当を持参して食わせようとした。


 気持ち悪い。


 気持ち悪いが、食い物には罪はないのでありがたく頂くのだがそれがたちの悪い事に美味い…恐ろしく俺の口にあい気が付いたら最近の口にしてる物といえばおやつに至るまで蔵当の手料理と来てる!


 傍目から見れば、可愛い彼女に毎日弁当もらってるリア充野郎に見えるだろうが奴の目的をしってる俺は全くもって喜べない。


 あれは、俺の為じゃない…俺の尻を育てる為の料理なのだから!


 「はぁ~…」


 俺は、これでもかと言うくらい盛大な溜め息をつきながら半年以上訪れなかった道場のドアを開けた。


 久しぶりの畳の匂い。


 暖房のまだ入ってない冷え切った道場に一礼して上がり、更衣室でジャージに着替えて筋トレ用のトレーニングスペースへ向う。


 しっかり柔軟、ダンベル、スクワットけっして無理ないように______。


 「どの面下げて来たんだ? ポンコツ野郎」 


 ああ、五月蝿いのが来たよ…。


 「山岸…」


 山岸は、怒っているのか少し顔を赤らめ血走った目で俺を睨んでる。


 「出てくよ___ぐえっ!?」


 退散しようと横切る俺を山岸が行き成り畳みの方へ引きずり、乱暴に転ばせる!


 「勝負しろ仲嶺」

 「っ!」


 来たか!


 『負けたほうが相手のいう事を聞く』山岸の言葉に俺は確信した。


 山岸は壮大な勘違いをしている…と!


 俺は、久々に柔道着に袖を通し山岸と対峙する。


 神前に礼。


 お互いに礼。


 まさか、こんな事で勝負をする羽目になるとはな…ブランクとヘルニアの事を考慮するに多分勝ち目はない。


 が、負ける前提の勝負などするつもりは無い!



 「「始め!!」」



 _______。



 結果から言うと、俺は負けた。


 組み合って程なく、技をかけようとしたら腰が悲鳴をあげて行動不能になった。


 腰から下が動かせず、うつ伏せのまま畳みに横たわり『待った』をかけて負けを認める…泣きたいくらいに情けない。


 「勝ちは勝ちだ」


 山岸が息巻く。


 「ああ、何が望みだ?」


 まぁ、聞かなくても分かるよ…多分、蔵当に関わるなとかそんなんだろう?


 あーあー弁当美味かったのになぁ…なんて暢気にかまえていたらいきなり山岸が俺の柔道着の下穿きをずり下げた!



 伝統的に男子は道着の下に下着は穿かないので当然、生尻が晒される!


 もちもち…。


 山岸が俺の尻をもみしだく…まて! なんだ!?



 「オレが先にめぇつけたんだ…それをあの女…」



 まって、ちょと待って!

 

 「オレが勝ったんだからいいよな? これオレのもんだよな?」


 「ノンノンノンノン!! バカ! やめろ!!」


 いかれた椎間板の所為で動けない! 怖い! マジで怖い!


 誰か! 助けて! 


 目を固くつむった寸前になって思い浮かんだのは優しい笑顔。



 蔵______。


 「ぐはっ!」


 次の瞬間、のしかかっていた山岸が凄まじい力によって道場中央まで吹き飛ばされる!


 身動きの取れない俺の視界に入った、道着に身を包んだツインテールの背中。


 すかさず飛び掛った山岸だったが、勝負は一瞬だった。



 「仲嶺先輩! 仲嶺先輩! 大丈夫ですか!!」


 蔵当が俺の尻に回答を求める。


 「今日の準備に手間取って、一緒に居なかったからこんな事に!!」


 レギュラーの山岸倒すとか蔵当強かったんだな…先程の勇姿に俺の胸が高鳴る。


 俺の好みは自分よりも強い女。


 これは惚れる。


 「こうしちゃいられません!」


 蔵当は、道着の懐から何かを取り出す。


 「な…なんだそれ?」


 「チョコレートシロップです!」


 「は?」


 「色々考えたんですが、これが一番だと思って!」


 なんだ? 全く話が見えない。


 「今日は2月14日バレンタインです」


 ぶりゅ♡


 俺の尻に暖かいチョコレートシロップがぶちまけられる!


 「ひっ!」


 「この一ヶ月、育てたこのお尻…食べるのはアタシです!」


 

 この日、俺は男の子としてなにか大事なものを永久に奪われた気がした。

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