第32話 新たなる恐怖4

 隼人は夏子を振り返りながらホテルの自動ドアを通過した。

 沿道の人出がうそみたいだ。ホテルのフロントは閑散としていた。

 あのとき、鬼島と田村は階下からエレベーターで昇ってきた。

 レストランは最上階にある。狙撃には屋上が適している。

 だから、屋上で夏子と隼人をおそったのだ。でも、なにか準備してある気配はなかった。

 フロントには女性がいた。

「客室で府中橋に面しているのは……」

 花火大会でもないのに、なにいってるのかしら。不審な顔からそれでも返事がもどってきた。

「四階の角部屋です」

 とげとげしい声だ。夏子を羨望の眼差しで見ている。その部屋に泊まりたいというと、ふさがっています、そっけない。フロントの上のテレビでは、サタンの一行が鹿沼インターを下りて、市街地に向かっていると報じている。一刻に猶予もない。

「その部屋のキーをだしなさい」

 と夏子が厳しい声でいった。ガードマンが血相変えて走ってきた。フロントが隠しボタンを押したのだ。

「これは、隼人さん」

 現役の警察官のころ皐道場に通ってきていた松本だった。

「そんなことが」

 松本が絶句した。さすがに、隼人が伝えた情報への反応は素早かった。

 キーをフロントの女の子から松本がひったくる。

 三人はエレベーターに乗り込む。

 ちらりと隼人はテレビをみた。サタンの車が、鹿沼駅前の道路を左折して、府中橋への直線道路を進んでいた。そのまま進めば、間もなく府中橋だ。橋を渡りきれば十字路。右折すれば川上澄生美術館。左折すれば福田屋デパート。

 その十字路の箇所だけ歓迎の人垣が途切れているはずだ。

 見晴らしが利く。

 そこをスナイパーは狙う。まちがいない。

 距離にして三〇メートル位だ。

 松本が鍵穴にキーをさしこんだ。開かない。

「あの娘、またキーをまちがえた」

 フロントにもどったのではタイムアップだ。

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