第30話 新たなる恐怖2


 デスロック「サタン」が来鹿するのは今夜だ!!

 故郷凱旋公演「サタン」という幟が立っている。

 そうだ。狙撃。テロだ。テロ攻撃。狙撃。

 ホテルからの狙撃だ。

 鬼島と田村はホテルの屋上から見ていたのだ。

「サタン」一行が通る停車場坂の実地検分をしていたのだ。

 その視野に夏子と隼人をとらえたのだ。

 スナイパーとしての鬼島と田村は場所と位置確認をしていた。

 あまりにもタイミングが悪すぎる。

 夏子の注意をほかに向ける。

 ただそれだけの目的で襲撃してきたのにちがいない。

「そうよ。わたしもそう確信する。いそぎましょう」

 夏子と隼人はじぶんたちの推理におののく。なんてことだ。鹿人のフエントにすっかりだまされていた。

 テロ。テロだ。鹿沼で奇想天外のテロが起きる。

 なぜ、そんなことを、するのかわからない、だから、テロだ。

 なぜ、鹿沼なのだ。

 なぜ、「サタン」のボーカル福沢秀人なのだ。

「サタン」を襲撃する計画……? がある。

 まちがいない、それ以外にかんがえられない。

 ほかに、なにがある。

 なぜだ。なぜそんな、おおそれたことをする。

「サタン」を襲撃すれば、世間の注目を浴びる。

 でも――そんなことで、この世の中はかわらない。

 でも――恐怖を、不安を世間に広めることができる。

 明確な理由はわからない。それがテロだ。世間をさわがせ、恐怖の底におとしこめばいいのだ。それがテロだ。

 理由はわからないが、鹿人が権力を手にするのに必要なのだろう。

 あるいは、単なる自己顕示欲からくる行動なのか。

 偉ぶりたいだけなのか。

 でも起きようとしているテロには、隼人も夏子も確信がもてた。

 天啓。神の声だ。隼人はそう感じた。

 あいつぐ、戦い。吸血鬼との戦いに幻惑されていた。

 敵の真の狙いが、ほかにあることに気づかなかった。

 理由はさておき、阻止しなければ。

「落ち込まないで。はじめから、目くらましにあっていたのよ。鹿人は作戦たてるのに長けているから」

 なんてバカげた、無謀なことを企てているのだ。

 それほど権力を手にしたいのか。

 なんて怖ろしいことを平然と実行に移そうとしているのだ。

 それほど権力を手中におさめ、人間を支配したいのか?

 いままでの、すべての攻撃はテロを察知されないためのフェイントだ。

 ほかに注意をそらすミスガイドだ。

 妖霧から街を守るために。

 妖霧を防ぐため――妖霧の元を断つために高村神父がダイナマイトの入ったリックを背負って洞窟に潜入した。暗い坑道で先をいそいでいる。

 たったひとりで。果敢にも突き進んでいる。

 そうしたイメージが隼人の脳裏に浮かぶ。

 神父さん申し訳ない。夏子もおれもご一緒したかった。

 行きたかった。ごめんなさい。

 高村神父は暗い坑道にひとり消えていった。

 無事に帰ってきてください。

 宇都宮のひとびとを吸血鬼のわざわいからガードするために。

 宇都宮で遊びまくっている鹿沼の若者を助けるために。

 神父はよろこんで命を賭けた。

 もはや餃子を食べたくらいでは、吸血鬼の牙を避けることは出来ない。

 神父はこの教区の守護神。ガードナーだ。

 この町を固守してみせる。

 この町の平和を死守する。

 という決意をひめた神父のイメージが隼人の内部にある。

 ぼくと夏子も鹿沼を守る。

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