第15話 暴走族/バンパイァ5


 ぼくがめざしたのは〈赤いつた〉の邸宅だった。

 壁に這った、つたの葉は赤かった。壁は白煉瓦。明治時代の西洋館。

 昨夜夏子を送りつけた家にたどりついた。

 夏子とわかれぎわに唇をあわせた。なにかが吸いとられて、なにかが吹きこまれている快感。それは絵を描きたいというぼくの芸術意欲を吸いとり、さらにその意欲をボルテージアップして夏子が吹き返してくれている快感だった。

 唇はひんやりと冷たかった。

 キスには情熱がこめられていた。

 身も心もとろけるようなキスだった。陶酔した。

 離れるのがつらかった。

 ひんやりとした夏子の唇の感触が。

 夏子の家にむかっているぼくの唇にある。

 夏子のことを思っただけで胸の動悸が高鳴る。

 すきだぁ。夏子のことすきだ。

 おれの恋人はバンパイァだぁ。と、こころのなかで叫んだ。

 夏子はたぶんバンパイァと呼ばれることをいやがるのだろう。

 照れ屋のぼくにやっと恋人ができた。それも会ってすぐの。一目ぼれの恋人だ。

 A BOY MEETS A GIRL. そして恋におちる。こんなことがおきるとは夢にも思わなかった。

 会ったとたんの恋人宣言。はじめから、夏子の素性はあかされていた。それでも、好きだ。夏子がなんであれ、好きだといことには、かわりない。

 夏子の邸宅は、街の西南の地。鹿沼富士の裾野にある雑木林の奥にあった。隣接して五月カントリー倶楽部がある。なんども通った道のような既視感があるのは夏子の記憶がぼくの脳にプリントされたからだ。

 大谷石が二段ほど重ねられ、その上に鋳鉄製の槍のように尖った柵が構築されていた。無粋な鉄の防御壁にとりかこまれている。それほど敵襲を警戒している。だが、柵には色とりどりの薔薇がからみついている。風情がある。周囲の森林の風景にとけこんでいる。

 襲撃にあったあとだ。

 ぼくは木刀を身にかくして門をくぐった。

 ちらりとみた表札は、雨野京十郎と時代がかったものだった

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