第14話 暴走族/バンパイァ4



 高野の携帯がなった。

「おれだ」

 ルノーを追いかけていった仲間からだった。

「高野さん。フジヤマの裾、皐月カントリー倶楽部のあたりで見失いました」

「ようし。そこまでわかれば、ジョウトウダ」

「姫の逃亡先がわかったのか?」

 鬼島が機嫌をなおした。

「フジヤマの周辺にまちがいないな」

 倉庫の裏口に高野の姿があらわれた。後ろ手に扉をそっと閉める。

 小さなカタッという音がした。チームのものは、11時まで営業時間を延長したヨーカ堂で。50%引きの弁当やドリンクをかってきた。

 勝沼産の赤ワインを高野も飲んだ。ラミヤの所在がわかった。鬼島がゴキゲンな万札を何枚もヒラリとおいていった。

 高野はまた血をなめた。もう鼻血はかたまってしまった。

 なにかものたりない。

 血をすすってみたい。

 赤ワインを飲んだ。

 これが血だったら、もっとうまいはずだ。

 これが血だったらと思っただけで体がふるえてきた。

 たまらず倉庫をそっとぬけだした。

 ヨーカ堂の駐車場を若い女があるいてい。両手に不透明なレジ袋をさげている。

「重そうですね。もってあげましょう」

 ふいに荷物をうばわれた。キョトンとしている。口をぱくぱくさせている。声はだせない。女は高野を見ただけでふるえている。たのしい。女は泣きだしている。恐怖にすくんでいる。たのしい。

「こわがらなくていいから」

 高野はたのしんでいる。女は両足の間から湯気をたてている。失禁してしまった。

「こわがらなくていいから」

 高野は女をかかえて駐車場の隅の暗闇に誘う。だれにも見られていない。女はおびえている。逆らう気力もない。逆らっても、この高野の凶暴なパワーからは逃れられない。泣き叫んでもムダだ。誰も助けにきてはくれない。運命だ。とあきらめている。

 それでは、ものたりないんだよ。もっとこわがってくれよ。それではね、おもしろくないよ。もつと泣き叫べ。命乞いをしろ。子羊のようにおとなしい。屠殺場につれていかれる子羊のように、運命に従順すぎる。

 もっと叫べ。叫べ。もっと泣け。泣け。抵抗してみたら。死の恐怖にふるえているだけだ。それではおもしろくな。

 高野は女をひきよせた。

 腕の動脈にかぶりと噛みついた。暗いので視認はできない。真紅の血が噴き出し高野の、喉元や、顎にこびりついている。血液をなめて、そしてたっぷりと――。新鮮な血を吸った。どくどくと喉を鳴らして女の血を飲んだ。殺しはしない。適当なところで吸血はやめた。それでは、まだ喉の渇きはいやされない。

 高野は河川敷を歩きだした。口を真っ赤に染めたまま――。捕食する獲物をさがす。

 すぐに目に入った。高校生が川に面した木製のベンチでいちゃついている。

「コンバンワ」

 声をかけても夢中でキスしているので気づかない。高野はカブっと少女の襟首に噛みついた。少女は悲鳴をあげた。断末魔の悲鳴だ。 楔のようにのびた犬歯を首筋に深く打ちこんだ。ドクっと血があふれる。

 いっきに吸血行為にはげむ。

 新鮮でうまい。

 少年が健気にも高野につかみかかってきた。

 高野の腕のひと振りで少年は流れの中央まではねとばされる。なみの力ではない。おれはまちがいなくパワーアップしている。

 少女の血はうまい。おびただしい血。少女の血が高野の喉に流れこむ。闇の中で血は香ばしい匂いをたてている。

 この先ももっと大量の血を飲みつづけたい。少女は血をすわれながらあえいでいる。

 これでおれは、まちがいなくバンパイァとなった。

 おれはもう夜の一族だ。バンパイァだ。高野は不敵な笑みをうかべていた。

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