第8話 RFと夏子のバトル3
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ヨーカ堂の駐車場にルノーを止めてある。
肩をつけて、並んで歩いた。恋人どうしの散歩に見える。
まちがいなく恋人どうしだ。会ったばかりなのに、心がかよいあっている。
ぼくの心は高鳴り、頭は夏子への恋心でぼうっとかすんでいる。
また、夏子のカゲリが隼人の頭に浮かぶ。ああ、夏子が欲しい。欲しい。だれでも恋人ができると、あからさまに彼女とのセックスを妄想するのだろうか。それとも、ぼくが直情径行な性格なのか。はっきりいえば、スケベの、ゲスの極みなのか。こころが卑しいのか。
黒川の流の音さえ遠のいた。二人だけの世界に晩夏の風がそよいでいた。
川の堤の桜の群葉が揺れている。
隼人には疑問がのこっていた。夏子の帰還をなぜ彼らが知ったのか。夏子には鹿人という兄がいて、二人の間には確執が在る。兄妹でなにか争っている。
「わたしにもわからない」不意に彼女がツブヤイタ。
「なぜ、兄妹で、争うのですか」ぼくは声に出して訊いた。
「わたしにもわからないのよ」
それが夏子の応えだった。こころをよまれていた。ぼくが夏子とセックスしたいと情慾に悩まされているのもリーデングされている。はずかしい。そう思うと顔がほてった。
まだ薄明るい。暮れなずむ街に灯がともっていった。
それをまるで待ってでもいたようだ。
さきほど胸をときめかせながら夏子に追いすがった停車場坂のあたりだった。ふいにバイクの音がひびいた。
ドロドツトンドドドとなりひびくエンジン音。
まちがいない。ハーレーダヴィッドソン1200ccの轟音だ。
ハーレーを先頭に、ホンダ、カワサキのバイクが疾走してくる。急な坂を暴走族の一団が下ってくる。
「くるわ。あきらめなかった。しっこいのね」
車止めの細いポールをひきぬいた。鎖がついていた。それをぐるっと手首にまきつけた。汗ですべるのをふせげる。
夏子とぼくは走りだしていた。駐車場までいますこしだ。トラブルは避けたい。だが、止めてあるルノーのところまでは到達できなかった。追いつかれた。バイクに囲まれた。
郷土資料館の裏に宵闇が青くよどんでいる。
バイクが迫ってくる。轟音をあげてふたりに迫る。
ぶちあたって、はねとばす気だ。全身が凍るような恐怖を感じた。おそろしいのはもちろんだが、怒りもあった。
体が小刻みにふるえている。
すぐに追いつかれた。
バイクが迫る。
身をかわした。
ポールを横に振った。
ライダーに叩きつけた。
男はふっとぶ。
バイクだけが独走していく。
つぎのバイクがきた。
跳躍してやりすごす。
普通ではかんがえられないほど。
高く飛んだ。
夏子も飛翔していた。
ふたりは空中で手をとりあった。
おどろいたことに、横に滑空した。
夏子だけなら滞空時間はもっと長かったのだろう。
ぼくが重荷になった。
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