第6話 RFと夏子のバトル1
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鬼島がナイフをかまえる。夏子は、ぼくと背中合わせに立つ。
この美少女を守ることができるのだろうか。たとえナイフであっても、刃モノで攻撃してくる敵に直面するのは初めてだ。二人を迎え撃つ。命をかけても夏子は守る。頭がくらくらするほど興奮していた。
「あらあら、たいそうなお出迎えね」
ところが、夏子は余裕の声で、鬼島に声をとばす。
鬼島の手にしているのは大型のバタフライナイフだ。
銀色に光っている。ナイフを振っている。金属のこすれあう音がする。
威嚇するために、チャカチャカと音を加速させる。間合いをつめてくる。
アロハ男の田村のほうは冷酷な顔で夏子とぼくをにらみつけている。
「たいそうな歓迎ね」
「もどってきてはいけなかったのだ。ラミヤ姫」
夏子はラミヤ姫と呼びかけられた。えっ、どうなっているのだ。夏子は吸血鬼のお姫様なのか。長い黒髪が夕風になびいている。たしかに、美しいだけではない。品性がそなわっている。ぼくには、想像もできない背景で育った夏子といまこうしている。
「よくごぞんじだこと」
「永久追放のはずだった」
「どうして、わたしがもどってくるのがわかったの」
二人の男の青黒いうろこ状の肌が光っている。
鬼島に夏子が問いかける。返事はない。
「あんたらに、とやかくいわれるスジはないのよ。鹿人(しかと)兄さんの指令かしら」
ラミヤ姫と呼びかけられた夏子が高らかに哄笑した。
宵闇がせまっていた。
暗くなるほど、この娘は力をますぞ。はやくかたづけようぜ。田村」
鬼島がアロハ男に呼びかけた。参戦するように叫びかけられた。田村は動かない。
鬼島はナイフを両手ですばやくさばく。
交互にもちかえる。
フェイントだ。
夏子がひく。
さらに後にすさる。
ナイフの動きを見極め、ぼくは夏子と鬼島のあいだに割って入ろうとしているのだが、そのスキがみいだせないで、焦った。
鬼島は切りつけるのがむずかしい。困難と悟る。
夏子の動きは敏速だ。鬼島はナイフを夏子の胸になげようとしている。
「銀のナイフでもわたしは傷つけられないわよ」
夏子のあまりの冷静さに、ぼくは不安になる。
「夏子さん」
「夏子でいいわよ」
斜陽の最後の光矢が彼女の顔を照らした。
そして薄闇に反転した。
攻撃する鬼島も、夏子もこの一瞬を逃さなかった。
シュッとナイフが風を切る。
夏子は巨大なコウモリ翼に体をたくす。リアルに目撃したわけではない。ぼくにはそのように察知できた。
ナイフは空をなぐ。
夏子は中空を飛ぶ。
ばさっと羽ばたきすら聞こえてきた。夏子は水槽タンクの上にいた。
「そこから隼人、見ていて。わたしの動きが見えるようになってね。わたしのことなら、心配いらないのよ。わすれたの? わたしは死ねない女なのだから……」
ああ、夏子のアンリアルと思えた話は、ほんとうだったのだ。夏子は吸血鬼だった。その事実を知って、思わず身震いしてしまった。ぼくをからかっていたのではなかった。そこまではみとめられても、目前の彼女の動きはゲームの世界の出来ごとのようだ。
夏子の動きは煙っている。よく見えない。
吸血鬼ムーヴイングなのだろう。ゲームで覚えた用語をフルに活用して彼女の動きを見つめた。「吸血鬼アドベンチャー」ゲームをやっていて役に立った。
凄まじい速度で移動する。
小さな竜巻のようだ。なみの人間にできる動きではない。
鬼島が夏子のまわしげりでふっとんだ。手からナイフも床に落ちた。
「田村!!」のんびりと眺めているだけの田村に、床にころがった鬼島が叫ぶ。
アロハ男の田村がしぶしぶ拳銃を夏子にむける。
「姫。ブスイなモノで許してください」
「無粋と承知ならやめたら」
拳銃で威しながら田村はナイフをひろいあげる。
屋上に常夜灯がともった。
田村がナイフで夏子の首筋にななめに切りつける。
夏子はとびのく。
夏子の髪がたなびく。その髪の先が切られた。
夏子の苦鳴がぼくの胸にひびく。髪の先まで神経がとおっているのだろうか?
夏子を助けなければ。やうやく、動けるようになった。
田村の手にあるナイフをぼくは足でけった。ナイフが中空にはねあがった。
おちてきたナイフを受ける。田村の脇腹につきたてた。
しかし、血はでない。緑の体液がかすかににじんだ。
「レンフイルド。兄さんの従者たちも死なないのよ。放っておけばいい。すぐに再生するわ」
ナイフを手にあえいでいるぼくにかけられた言葉だ。
ひとを刃物で刺して、ぼくは興奮していた。
だが、彼らをヒトといっていいのか。
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