第3話 浜辺の少女の3
3
……ふふふ、とぼくの耳たぶに熱い息がかかる。
チクンと首筋に痛みを感じた。針で軽くつつかれたような痛みだ。
ちょっと唇が触れただけらしい。
それでもぼくは電流が流れたようなショックを受けた。
「ついてきたのね。ワルイコ」
澄んだハイトーンの声。少女はぼくの背にはりつくように立っていた。
「わたしは少女ではないのよ」
だが……、顔はいかなる画家の天才をしても絵がきえぬ美しさだった。しいて、西洋絵画のなかにそのカテゴリーを探すならば。フェメールの〈青いターバンの少女〉に似ていた。心にしみこんでくる。なつかしい、けがれをしらぬ……。おののくような清純な美しさだった。
それなのに、少女ではないという。
からかわれているのだ。いつのまにか髪は黒く。肌も色白の日本人のものにかわっていた。
「あなたは……」
大きな黒い瞳でみつめられてブルット身震いした。
ああ……こんなにきれいな瞳をしている少女がいる。
きみは……と少女に呼びかけることがはばかられた。
確かに、とても少女とは思えない。大人っぽく感じられる美少女だ。
黒い瞳がぼくの影を映していた。じっと恥ずかしいほど見つめられた。
少女を抱きしめたかった。この腕に少女をぐっと抱きしめたい。鼓動が高まり、少女に聞かれるのではないかと恥ずかしかった。ぼくはさきほどまでの、デスペレートな気分、暗い思いからすっかりぬけだしていた。それどころか、胸がわくわくしていた。彼女に夢中になっていた。
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