第3話

女でいたい時以外、女でいたくない。



そんな事を思うようになったのは、多分大学院の直上(ちょくうえ)の先輩のせいだ。


単刀直入に結論から言おう。


私は先輩からセクハラを受けている。


もっとも、先輩の方からしたらセクハラなんてしているつもりは毛頭ないのかも知れないけれど。


最初は下の名前にちゃん付けから始まった。


1年目、私がB4(大学四年生)の時は名字にさん付けで呼ばれていた。


でも私がM1(大学院一年生)に上がり、彼とチームを組まされてから状況は変わる。


「なつみちゃん」


昨日まで前川さんと呼んでいた男が、今日はなつみちゃんと呼ぶ。

昨日の前川は今日のなつみである。(私の姓は前川という。)


彼からしてみれば、それは仲良くなる為のきっかけ作りだったのかも知れない。


しかし、私は、そもそも女を下の名前で呼ぶ男を信用できない。


いい年こいて何が○○ちゃんだ。


私はお前の彼女じゃねえっつーの。


なんて、それは過剰反応をし過ぎかと思われるかも知れないが、それは人によるだろう。


言う側と言われる側の。


それはキャラクター性だったり、関係性だったり色々あるが、


簡単に言うと、私は彼の事を生理的に受け付けないのだ。


と言うと誤解を与えてしまうかも知れない。

私という人間性を疑われてしまうかも知れない。


しかし、無理な物は無理なのだ。


私だって最初は名前を呼ばれる事くらい許容していたさ。受け流していたさ。


しかしだ。


ある日、あの野郎はパソコンに向かって作業をしている私の背後に立ち、


頭をポンポンと撫でてきた。


ぞっとした。


ぞっとしないぜとかいう表現があるが、しないという表現を使う事も否定したくなる程にぞっとした。


なぜ頭を触る?


誰の許可を得て?


お前は俺の(私の)彼氏かなんかかよ。


そこで拒否しなかったのがまずかった。


そこで嫌な顔を出さなかったのがまずかった。


私は世渡りや人付き合いは表面上は上手くやる。

上手くやれてしまう。

そんな私の性質が裏目に出た。


その日から、その先輩の、奴のセクハラは徐々にエスカレートしていった。

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大学院生なつみの憂鬱 なつみ@中二病 @chotefutefu

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