第16話 ボイスストーカー
このダンジョン世界において不便さを感じることといえば、情報伝達速度の遅さではないかと思う。ジェシカの結婚式で
とはいえ、まったく外界からの情報がないのかといえば、そうでもない。法螺貝のような形をした音声伝達装置、
ただ、これらの起動には多少ではあるが魔導力を消費することになる。
そういうわけで、螺時音も常時つけっぱなしにはしておらず、緊急時や必要と思う時に短時間起動させるという使い方になる。そのため、ますます情報取得は遅れていくというわけだ。
ん、夏休み魔法子ども伝羽相談は緊急なのかって? あれは、年に二回だけの特別番組だからいいのだ(おれは決してロリコンではない)。
さて、実はこのところおれがずっと頭を悩ませている問題がある。いや、宿屋に関する面白い話のネタが浮かばないとかそういうことではなく、そのネタの提供者にほとほと困っているのだ。
というのは、
おれが
そんな気味の悪い
タイミングの問題なのだろうか?
おれとサツキは日中、夜間に限らず
その無言
犯人に告ぐ。
まじで、本当に、心から勘弁してほしい。
おれがうーんと唸っていると、サツキが勤務表を片手にやってきた。
「支配人、ちょっと見てください」
そう言うと、サツキは机の上に二枚の紙を広げる。一枚目にはは日報から拾い上げたらしい無言
「無言
「ふんふん、それで?」
「それなのにタオは無言
「いや、さっぱりわからん」
おれが即答すると、サツキは深いため息をつく。
「いいですか、支配人。タオがいて、何度も無言
三秒間の空白の後、俺はぽんと手をうった。
「はるほど! サツキ、頭いいなぁ!」
「支配人はちょっと頭弱いですね」
「うるさい! ということはこの無言
「そうです。今日はタオが休みで、無言
一方、タオが出勤していると分かれば、彼女が
サツキは俺に向かってビシッと人差し指をむける。いや、俺は犯人じゃない、と思いつつも、彼女の洞察力には感心せずにはいられなかった。
「しかし、それが分かったとして、タオがしゃべっている相手から無言
「タオに聞くのが早いでしょうね。怪しい
「そうだな。よし、それは明日タオに確認するとして、どうやってその相手を
「私に良い案があるんですけど、ちょっと外してもいいですか?」
サツキはそう言うと、悪戯を企む子どものような笑みを浮かべながら事務所を出て行った。
翌日、俺がタオに聞き取りをすると、最近よく
「そうなんですよ、私も少し怖いなとは思っていたんですが、明確に悪いことをされているわけではないので、何とも対処しづらくて、支配人に相談しようと思っていたところなんです」
困り顔でタオが言うと、サツキが彼女の肩に手を回した。今日は休みのはずなのに、彼女のためだといって、作戦遂行のために事務所にやってきたらしい。サツキとはついさっき作戦会議を終えたところだ。
「いい、もう一度確認だけど、タオはいつも通りに仕事をして、その怪しい相手から
「わかりました。よろしくお願いします」
サツキはニヒヒ……と、歯を見せて笑い声を漏らす。彼女の中では成功の筋書きがはっきり見えているようだ。
――ヒーヒョロロロ……
ちょうどそのタイミングで
「はい、アマンデイの宿ですが……」
『……』
無言
おれは少しでも話を引き延ばし、かつタオに
「あれ? また無言だなぁ。最近多いんだよなぁ、困ったなぁ。タオ! おれちょっとお客さんが呼んでるんだけど、事務所番をしていてもらっていもいいか?」
はっきりいって棒読みの下手くそな演技だったが、これで相手は次に
案の定、無言
しばらくの間をおいて、ふたたび
「はい、アマンデイの宿屋、タオがご用件を承ります」
『ああ、タオさん。また空いている日を知りたいのだが、今、時間は大丈夫かい?』
「はい、ご希望をお伺いいたします」
美しい声で対応をするタオ。確かに、この声に一目惚れ、いや一耳惚れしてしまう輩がいても不思議ではないなぁ、と感心しているとサツキが厨房から戻ってきてニヤリと笑い、親指と人差し指でわっかを作って準備完了のサインを送った。タオもうなずいてサインを了解し、この相手が無言
「はい、ではご希望のお日にちをお調べしますので、しばらくお待ちくださいませ……くしゅんっ!」
タオの声のストーカーにはたまらないだろうと思いつつ、おれたちは大急ぎで厨房へと駆け込んだ。
三分後、おれとサツキとタオ、そしてダンカンで大笑いしながら、作戦の成功をハイタッチでお祝いした。
保留にした
「ごめんなざいね、わだじ、オーグ
『タ、タオさん……オーク族なんですか?』
「オーグ
と、ダンカンが一芝居うったところで
さすがに今回は無言
ちなみに、タオのファンになっていただくことについてはまったくもって大歓迎なのである。彼女の対応の素晴らしさに感激していただけるお客様も多いのだ。
ただ、星の銀貨五枚をちゃんと支払って宿泊していただければ、宿屋の主人としては幸いなのである。
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