第13話 夏休み子ども魔法伝羽相談室
「みなさん、こんにちは。今年も夏の特別企画、子ども魔法
磨き抜かれた宝玉のように艶のある女性のアナウンサーの声が
夏になると子どもたちの学校が休みとなるため、こうした
テレパス系魔法を使った装置の番組に別のテレパス系魔法で出演するというちょっとワケのわからんことになっているが、自分の声が
おれはこのコーナーが好きで毎年楽しみにしている。いや、決してロリコンというわけではない。おれがなぜこの放送が好きなのかは、放送内容を聞いてもらえればきっとわかるはずだ。
「さて、今日は魔法についての質問を受け付けています。回答いただける先生は、賢者のライオネル・チャールズ先生です。先生よろしくおねがいします」
「よろしくお願いします」
「それでは最初のお友達です。おはようございます!」
アナウンサーの呼びかけからややタイムラグがあり、こもった声が
「……おはようございます」
「お名前とお年をどうぞ!」
「……アレサ・ルーズワットです。九歳です」
新鮮な果実のように実に爽やかな女の子の声だ。いや、決してロリコンではない。
「はい、それではアレサちゃんの質問はなんですか?」
またもや一瞬の間が開く。テレパス系魔法とはいえ、発動から到達までの時間がかかるのはごく当たり前の現象だ。
「あの。えっと、どうして、夏なのに、氷のまほうが使えるんですか?」
「はい、夏なのに氷の魔法が使えるのはどうしてか? という質問ですね。 アレサちゃんは氷の魔法を使っているところを見たことはありますか?」
「はい、あります」
「暑いときに氷の魔法が使えるのは不思議ですね。では、チャールズ先生に聞いてみましょう!」
ここで、素人くさいおっさん登場。素人というのはあくまで放送媒体においてトークの素人ということであり、魔法についてはプロフェッショナルなわけだが。
「はい、アレサちゃん。こんにちわぁ」
「……おはようござ、あ、こんにちわ」
「アレサちゃんは、どういう時に氷の魔法をみたのかな?」
「えっと、お父さんがよっぱらって帰ってきたときに、お母さんがお父さんをこおらせました」
「どうやって凍らせたのかな?」
「えっと、実家に帰らせていただきますといったら、顔が真っ青になってこおりました」
「あー、それはまた別の魔法かなぁ? 他にはどんな時に氷の魔法をみたのかな?」
「えっと、怖い犬に追いかけられたときに、お母さんがまほうで氷のかべを作って、犬がぶつかってにげました」
「そうそう、そういうことだね。そのとき、お母さんが氷を作った時は夏だったのかな」
「夏でした」
なるほどなるほど、とおっさんが一人納得するように唸る。そして、ここからはおっさんのターンが始まるのだ。
「じゃあ、アレサちゃんは、どういったときに氷ができるか知っていますか?」
「冬とかさむいときです」
「そうだね。でも、アレサちゃんのお母さんは夏の暑いときにも氷を作ってくれたんだね。不思議だねぇ」
それを知りたいからわざわざ
「アレサちゃんは、氷は何でできているか知っていますか?」
「水」
「そう、水が冷えると氷になるんだね。じゃあ、空気の中には水が含まれていることはしっているかな?」
「……わかりません」
「わからないかな。これは水蒸気っていうんだよ。お湯を沸かすと白い湯気がでるよね。わかるかな? あれは水蒸気が冷えて目に見えている状態なんだよ。空気中の水蒸気はいってみれば水が気体になったものなんだね」
「……」
「氷の魔法では空気中の水蒸気を使うんだよ。何もない空間に氷が現れると思いがちだけど、あれは空気中の水蒸気が凍るんだよ。アレサちゃんは氷の結晶を見たことあるかな?」
「……ありません」
「ないかぁ。実はねぇ、氷の結晶というのは六角形に枝が生えたような形をしているんだよ。その結晶というは水の分子が規則正しく並んでいる理想的な状態で、この結晶が作られるスピードが融解するスピードを上回れば一気に水分子が結合して氷が作られるんだよ。そのためにはまず凍らせようとするエリアを空間魔法を使って一時的に閉鎖空間にして、さらにそこを真空状態にすることで、水分子を一気に沸騰させるんだ。アレサちゃんは気化熱というのはわかるかな?」
「……わかりません」
「じゃあねぇ、注射をしたことはある? 注射をするときにアルコールを塗るとすっと涼しくなるよね?」
「なります」
「あれが気化熱といって、液体が気体にかわるときに熱を奪うんだよ。つまり、真空状態で沸点が下がった状態で急激に沸騰すると気化熱によって閉鎖空間の温度が一気に凝固点を下回るんだ。そのときに空間内の水分子に衝撃を与えることで、瞬時に分子は理想的な配列に戻ろうとして氷の結晶化が促進されていき、さっき説明したみたいにして連鎖的に氷が形成され、一気に氷の壁ができるというわけなんだよ」
「……」
「ちょっと難しいけど、お母さんの魔法書にやり方の説明があると思うので、いちど読んでみてください」
「……はい」
ここでふたたび美しい声の女性アナウンサーがアレサちゃんに話しかける。
「つまり、空間を囲って、一気に真空状態を作ることで、夏でも氷の塊が作れるということなんだって。わかりましたか?」
「……はい……」
絶対わかってないな、これ。
「ぜひ、お母さんにやり方を聞いてみてくださいね。それじゃあ、お
「……ありがとうございました」
「支配人。わたし、今の説明、何一つわかりませんでしたけど?」
おれの隣で一緒に放送を聴いていたサツキがぼそっと呟いた。
「安心しろ。おれにもさっぱりわからん。これは純真な子供たちが理詰めと専門用語を駆使した大人に論破され、結論は『お母さんに聞いてみよう』『百科事典を見てみよう』に落ち着くという、毎回安定したトークバラエティなんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます