第4章 夢怪盗の逆襲
1 どうすれば夢怪盗を捕まえられるか?
放課後、白鳥さんは僕の部屋に来ていた。今後の作戦会議だ。
正直、また妹が「にーちゃんが彼女連れ込んできた」とかさわぐので気が進まなかったけど、白鳥さんが自分の部屋に僕を入れることをかたくなに拒んだのでしょうがない。外で会ってるところをクラスメイトに見つかって、デートだデートだとさわがれるよりはましってもんだ。
きょうの議題はもちろん、ちんぷんカンガルー一族の正体についてだ。
きのう、夢を盗まれそうになった夢旅行者が僕のクラスメイトではなく、児童会長の渡真里菜であったことでかなり絞られそうな気がする。いや、だけど……。
「渡さんは児童会長だ。うちの生徒なら名前と顔ぐらいは知ってるんじゃないかな?」
「でも、ジロー君は、真里菜さんが夢の中で架空の世界を渡り歩くタイプの人に思えましたか?」
「いや、ぜんぜん」
勉強もスポーツもできる優等生だけど、昼休みや放課後も目いっぱい遊ぶタイプ。友達もたくさんいて、孤独とは縁がない。だから作り話に没頭するようには見えない。あれだけ実生活が楽しそうなら、夢の中で自分の居場所を探す必要はない気がする。
「そうです。本来なら夢旅行者は実生活ではむしろ地味でおとなしく、この人はなにが楽しみで生きてるんだろうって感じが多いです。でも真里菜さんは正反対のタイプです」
「うん。だから?」
「つまりちんぷんカンガルー一族は真里菜さんのそういう隠れた一面を知っている人間じゃないでしょうか?」
「なるほど。つまりたんに児童会長として知っているという程度じゃないってこと?」
「そうです」
つまり彼女が自分の内面まで話せる親しい友達の可能性が高いってことだ。それと同時に僕のこともよく知っている。
誰だ? 僕があの思い出を大切にしていると知っているやつ。しかも渡真里菜と親しい人間。正直、まったく心当たりがない。
「被害者の人間関係からある程度つきとめられると思ってましたが、それだけじゃ無理かもしれません。ひょっとすると生徒たちの好みや性格を調べまくってる人なのかも」
つまり、自分の身近なやつだけでなく、学校中の生徒たちを調べつくして、データとして持っているってことか? だとすると、教師か事務員かも。
「じゃあ、どうしようもないじゃないか?」
「もう現行犯で捕まえるしかなくなります」
現行犯。つまりきのうみたいに、誰かの夢の中で捕まるってことか。
「だけど、渡さんの夢にはさすがにもう現れないかもしれません」
ようするにまたジュベール伯爵に頼るしかない。
「まあ、渡さんの夢を盗まれることを防いだだけでも、きのうの仕事は意味があったってことだよね」
「そうです。ちんぷんカンガルー一族にしてみれば、たまたま見つけた最良のえさ場がなくなったわけですから、悔しくてしかたないんじゃないでしょうか?」
たしかにそうだ。あいつにしてみれば、安定して盗みがいのある夢を量産する渡さんは、貴重な存在だろう。なにせ盗んでも盗んでもいくらでも新たな夢世界を作り出してくれるんだから。
「ひょっとして、こりずに彼女の夢に現れることもあるんじゃ?」
「もちろん、その可能性だってあります。渡さんの夢がそこまで魅力的な場合、新しい夢主を探すより、あたしたちと戦うことを選ぶかも」
そっちの方がこっちはやりやすい。どの夢に出没するのかわからないんじゃ、手間がかけりすぎる。
「ただ、その場合でも、しばらくは渡さんの夢には現れないと思います。たぶん、ほとぼりが冷めるまでは」
たしかにきのうのきょう、現れるとは僕にも思えなかった。
「その場合、あたしたちとの戦い方も研究してくるでしょう」
きのうのように、背後からロープを不意打ちで絡ませることもむずかしくなるかも。
「やはり一番いいのは、夢怪盗の正体をつかんで、夢怪盗の夢の中に入り、不意をついて捕まえることです」
「攻撃は最大の防御ってやつ?」
「まあ、そんなところです。もっとも不意をつかないと返り討ちにあいますけど。なんてったって本人の夢の中ですから、まともに戦えばあっちの方が強くなります」
「でも夢を同調するとき、こっちの能力を刷り込むんだろ? 勝てるんじゃ?」
「普通ならこっちが刷り込んだ暗示を、夢怪盗が自分たちの都合のいいように書き換えたりはできません。こっちの暗示の方が強いんです。だけど自分の夢の中でなら話は別です。最終的には夢主の意思が一番強いんです」
「なるほど」
「こっそり忍びこんで、不意打ちをかけるのはむずかしくありません。ただ、正体をつきとめるのがむずかしいんです」
「じゃあ、それについては僕ももう少し考えてみるよ」
なにしろ、僕は被害者でもあるわけだから、白鳥さんよりは夢怪盗の正体に迫りやすいはず。たとえば、僕が南の島に行ったことを誰に話したとかを思い出してみるとか……。
「とりあえず、今夜はどうする?」
「ジュベール伯爵のところへ行きましょう。むかえに行きます」
けっきょくそうするしかないのか。
僕はそれまでに、せめてちんぷんカンガルー一族の正体に迫るヒントだけでも見つけてみようと思った。
残念ながら、僕と満里奈さんはご近所でもなければ、同じ塾にも通っていない。というか、すくなくとも僕は塾になんか通っていない。勉強なんて学校の中だけでたくさんだ。
だったら低学年のころの友達で、今彼女と同じクラスのやつは?
思い浮かばなかった。
だったら逆に今のクラスで、前に満里奈さんと同じクラスだったやつは?
そういえば、あの橘がそんなことをいってたような気もするけど、橘がちんぷんカンガルー一族ではありえない。なにせ僕らが橘の夢の中にいたとき、ちんぷんカンガルー一族は満里奈さんの夢に現れたんだから。ミステリー風にいえばアリバイがある。
じゃあ、橘以外ではどうだろう? 同じクラスだったやつはいるか?
それはすぐにはわからなかった。調べてみる価値はあるかもしれない。
「じゃあ、帰ります」
僕が考えこんでいるのをみて、白鳥さんは部屋を出て行った。
「にーちゃん、にーちゃん、なにやった? 彼女帰ってくぞ。怒らせたか?」
いきなりどたどたとモコが部屋に乱入してきた。
「なにもやってないよ」
「だから怒ったのか?」
「おまえ、意味わかっててしゃべってるか?」
モコはちょっと考えこんだ。
「じつはよくわからない。にーちゃん、それってどういう意味?」
「知るかっ!」
じつのところ、僕もよくは知らなかった。
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