日曜日だ! さぁ遊びに行こうか!


「ずっとーん! 起きろしゅーちゃん! 朝のアニメが始まるんだぞ!」


 とても元気のよい日日かっかたんの声が、その見事な頭突きとシンクロして俺のどてっぱらにクリーンヒットした。

 もうダメ、朝っぱら一発目から攻撃力高すぎる……。

 日日かっかたん、大体オレンジ色した日曜日の妖精さん。とてもテンションが高い。

 もう、うめき声をあげる他ない。火日たんの体当たりよりも数段砲撃染みた一撃だった、ぜぇ……。痛ってぇよ……。正直言うともう一発で目がチカチカして目が覚めた途端にノックアウト寸前なのだった。


「うげぇ!? げほ、ごほっ。あ、あぁ日日たん……。おはよ……」

「おい、しゅーちゃん! 早く起きろ! 日曜朝のアニメが始まる!」


 そして俺が痛みでうめきながら転げまわっているというのに全く動じないこのフリーダムっぷり。流石は、末っ子である。


「なんで、俺は日曜なのにこんな早起きしてんだろうな」


 一通りせき込み終えて思わず遠い目をしてそっとつぶやく、現在時刻は午前六時十五分である。平日よりも起床時間が早い。


「細かいことは気にするなー! それより早くしないとスーパー超人オメガカーちゃん始まっちゃう!」


 ワチャワチャと一人で騒ぐ日日たん。それを横目で流し見て、もうどうにでもなれ、の精神でハァとため息をついた。


「あー、ハイハイ」


 それから自室においてある小さなテレビの電源を入れてお目当ての番組が移るチャンネルへと合わせる。


「んじゃ俺は朝飯作ってくるからおとなしくしてろよなー」


 ガリガリと頭を掻き、あくびをしながらそう言い日日たんを自室に一人残して、出ていき、朝食の用意を始めた。

 日曜日も早起きをする男、それが俺こと木村修一なのだ。



「おぉー、いけっそこだー!」


 番組を見ながらひとりでヒートアップしている日日たん。

 俺はその横で皿の上にトーストと真っ二つに切り分けたハムエッグにレタス、あとはホットコーヒーに冷たい牛乳を入れてぬるくしたカフェオレという朝食を食べる。

 なんという締まりのない朝の風景だろうか。



「スゲーな! しゅーちゃん! やっぱりオメガカーちゃんは最強だぜ!」

「そーだな」


 オメガカーちゃんが相手を爆発させて悪をやっつけてエンディングを迎えたらしく、日日たんのテンションはヒートアップしっぱなしだ。


「ソ、ソロレンジャーつえぇぇぇぇ!」

「やばいなー、怖いわー」


 擬装戦隊ぎそうせんたいソロレンジャーが始まり、その圧倒的強さにオメガカーちゃんのことは忘れてしまう日日かっかたん。


「コ、コランダムZがまた死んだー! い、生き返ったー! こわい!」

「もはやギャグだろコレ……」


 死んでは生き返って悪を倒す新感覚ヒーロー、スパルタンコランダムZのあまりの斬新さにともども釘づけにされ、

「な、なぁしゅーちゃん! かっちゃんも腹筋鍛えたらあんな風になれるかな?」

 マジカル幼女シックスパックンを真似て腹筋を鍛えようとする日日たん。


「わぁぁぁぁ! いけぇ! ルミナスアマリリーマジカルバースト!」


 トリガーハッピーフラワーゆりっぺの必殺技を一緒に叫び、

「俺の三次定点に追いつけるかな? だって! かっこいー!」

 三次元定点加速バーストワンの決め台詞に震え上がる。


「な、ココで裏切り者!? そ、そんなぁ、せっかくここまで愛情込めて育てたっていうのに――!」


 愛劇のアシスタントのトンでも展開に裏切られ驚愕し、

「ブレスペのカード買ってよしゅーちゃん! かっちゃんもアレやりたい!」

「『そんな未来俺が壊してやる! 行くぜ――! ブレイクスペル発動!』って?」

「なんでしゅーちゃんがやるんだよー!」

 カードアニメ、テンパラメント―未来を壊せブレイクスペル編―に影響される。


「ほぉわぁぁ、ケンダマシストかっけぇぇぇ!」

 ひたすら格好良くけん玉の技を決め続けるだけのアニメ、ケンダマシストケインにかじりつく。


 そんな日曜日の午前中なのだった。



「しゅーちゃん、お昼食べ終わったなら出かけるぞ!」


 そして、俺がお昼を食した後に、日日たんは元気いっぱいにいう。


「ハイハイ。で、どこに?」

「決めてない! けど確か近くのデパートの屋上でヒーローショーやってたはずだ! それ見たい!」

「ハイハイ」


 全くしょうがないな、と日日たんの小さな頭をなでる。

 けれど内心では複雑なのだ。何せ、俺はもう高校生である。であるので、一人でデパートの屋上のヒーローショーを見物しているとなんというか、端的にいうと人目が気になるのだ。

 だけれど、日日たんを無下にすることなんてもっての他である。

 ので、開き直って一人でヒーローショーを楽しむ高校生になるしかないのだった。



 ハイテンションな日日たんをしり目に傍目では一人でデパートをうろつく高校生として日曜日を存分に楽しむ不審者こと俺、木村修一である。

 せめてもう少し色気のある休日の過ごし方をしたいなと思いつつも、まぁでもこうやって振り回されるのもそれはそれで悪くはないのかな、なんて一人で自己完結してみたりする。


「あー、楽しかった! って、もうこんな時間だ! 早くおうち帰るぞ、しゅーちゃん!」

「ハイハイ」


 ヒーローショーを見た後に一通りデパートを見終わって日日たんと帰路を辿り始めたのは午後五時過ぎ。



 家に帰りつきひと段落息を吐き出した俺たちは揃って、お茶を啜る。


「あー、もう七時じゃん! どうしよどうしよ! 日曜日終わっちゃう!」

「ほら、また来週があるじゃん?」


 お茶の間の定番アニメを見ていたのだが、それが終わったら日日たんが猛烈に騒ぎ出した。


「今週の日曜日は一回しかないんだ――!」


 そりゃソーだろうけど、そもそも日日たんは日曜日しか出てこないだろと突っ込みを入れたくなって、だけれど素知らぬ顔を突き通す。


「少しゆっくりするのも日曜日の役割だと、俺はそうも思うんだけどなぁ」

「うぅぅ、そうかなぁ……、しゅーちゃんがそういうならそうかも……」


 日日たんは、というよりも妖精たちの共通の性質なのだが、分かりやすく言うとまぁチョロイのだ。


「じゃー、まったりしよう!」


 ふんす! と日日たんは鼻息を荒げる。


「そーいやさ、日日たんはほとんど飯とか食べないよな」

「んー? そもそもアレだぞー? かっちゃんたちは別にごはんとかいらないぞー?」


 今日一日、いま飲んでいるお茶だけしか食べ物らしきものを口にしていない日日たんに、お腹空かないのか? という疑問を込めて聞いてみたら、帰ってきたの予想外の答えだった。えぇ、マジで? そうだったんだ……。


「それ初めて聞いたんだけど……?」

「そうなのかー? 確か最初の頃はみんな食べてなかったんじゃないかー?」


 そう指摘されて出会った頃のことに思いを馳せてみるものの、なんとも記憶は曖昧でおぼろげだった。


「うーん、何分大分昔だからなぁ……」

「でも、あれだなー。確かにみんな食べるの好きだなー」


 うんうん、と日日たんは何故か凄く他人事のよう呟くので思わず苦笑いが零れた。


「特に木日たんとかすごいんだけど……」

「アレなー。しょーじき、かっちゃんもドン引きレベルだよー」


 ケラケラと笑いながら身振り手振りでその大食漢ぶりを表現する日日たんは小っちゃくてかわいらしい。愛い奴めぇ!


「というか、明らかに体積以上のものが胃袋に消えている気がするんだが」

「余剰分のエネルギーはなんかこう、いい感じに変換されるから大丈夫だってつちちゃんが言ってた! だから問題ない!」


 とても大雑把でざっくばらんとケラケラ笑いを続けていた。


「土日たんが……。ならまぁ大丈夫なんだろうな」


 そのあまりに適当な言い分に、だけれど土日たんがそういうなら……、という謎の信頼感が発揮されたので、あまり深く詮索しないことにしようと思ったのだった。



 晩飯を食べ終えた俺が明日の準備をしていると、何やらか細い、いっそあまりにも気弱な日日たんの泣き言が飛来した。


「なー、しゅーちゃん。日曜日終わっちゃう」


 泣き言、というかもう半べそだ。


「あぁだなぁ。また明日から新しい一週間だよ」

「なぁ………、みんなの休みが終わっちゃうよ……」


 ぐずっていた、それはもう盛大にぐずっていた。


「そりゃ一日だもん、でも終わったらまた次が来るだろ?」

「んー、日曜日すぐ終わっちゃうな……。もしかして……、みんな日曜日が嫌いだからすぐ終わっちゃのか?」


 そういえば、と昨日の土日たんとのやり取りを思い出してなるほどと納得する。

 こうして日日たんが日付変更時間頃になるとぐずるのはもう毎回のことだった。


「違うって、みんな日曜日大好きだよ」


 頭をなでて日日たんを宥める。


「ほんとか? じゃあなんで日曜日はすぐ終わっちゃうんだ?」

「日曜日はさ、みんながいっぱい楽しんでるからだから時間がたつのが早いんだよ」


 なんだかこれじゃあ父親と娘みたいだな、なんて益体もないことを考えた。


「そっか、なら日曜日は、かっちゃんはいらない子じゃないんだな……!」

「そうだよ、みんな日曜日大好きだから、みんなこのまま日曜日が終わらなければいいってそう思ってるよ」


 俺はなるべく優しく、言い含む。


「うん、うん、そうだよなっ。じゃあもう、ね、る……。おやすみしゅーちゃん」

「おやすみ」


 すぅと、日日たんの姿は妖精盤へと吸い込まれて消えていく。

 この時俺は気が付いていなかったのだけれど、時刻は既に零時を回っていたらしいのだ。


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