さてさてそろそろ週末ですよ! 金曜日!


 またしても寝覚めは最悪だった。夢心地の快楽は一体何処へと消えてしまったのだろうか。というかこんなことにすっかりと慣れてしまっている自分が嫌だ。なんだか、とっても目が回るのだ。


「げぇぇぇ、な、何が起きてるん?」


 そう何故か、重力の方向が全く逆を向いてしまったような違和感。いや重力の向きは変わらないだろう、ということは俺自身が逆を向いているということになるな。

 うん、つまりどういうことだ?


「あら、起きた? おはよさん」


 あぁ、このちょっと甘ったるい声は間違いない、金日かなひたんだ。いや、そもそも昨日は木日もっかたんの日だったわけだしそりゃ今日は金日たんの日だよ。


「起きました。起きましたので、今の俺がどのような状態にあるのか、差し支えなければ教えてくださいませんか……? そして出来れば助けて頂きたく存じ上げるのですが……」


 とても丁寧にへりくだってみた。いや違うんだ、金日たんは自称しっかり者だから、なんていうか、こうちょっと厳しいんだ。でも自分に甘いんだよ、あの金髪カールは。


「しゅうはあれよ? 簀巻き状態でベッドの縁から落ちて上下反転状態。ちなみにわたしがわざわざ頑張ってその状態にしたんだから、感謝しなさい?」

「なんで!? というかどこに感謝する要素が!? てか、助けて……、簀巻き状態だと割とマジで動けないんだけど……」

「なんで、ですって? そんなの時間を守らないしゅうが悪いからに決まってるじゃない!」


 何を言っているんだコイツは、というような驚き声だった。寝起きが悪いからと言って簀巻きにして逆さまにベッドから落とす奴も非常識だと思うな、俺は。


「や、うん。俺が朝起きられないのは俺に非があるよ、それは認める。うん。けどさ、これは流石にあんまりだと思うんだ……」

「いいかしら、しゅう。この世で最も大事なものは時間よ、だから時間は厳しく管理しないと勿体ないわ!」

「分かった、分かったから。すぐ準備するから取りあえず解放してくれヘルプミーだよ!」


 今すっごく鼻で笑われた。直後に、パチンッと手が鳴らされて、俺を簀巻きにしていた謎の力が失われた。

 つまり、ベチャっとなんとも無様に地面を転がったのだった。

 そして俺は迅速に立ち上がり、自分でいうほどテキパキと朝の支度を済ませてしまう。

 誰よりもスピーディに朝自宅を終える男、木村修一! とは俺のことだぜ! とかなんとか、名乗りを上げて見たくなったが、特に意味がないので胸にしまっておくことにしたい。


「よろしい。あっ、しゅう、今日はあれよ! 帰ってきたらわたしと一緒にゲームするんだからね! ホラーゲームよ!」


 そんな俺の速さに満足したのか金日たんは上機嫌だった。上機嫌に俺にゲームの相手役を押し付けてきた。まぁいいけど。自称しっかり者がゲーム大好き妖精だとは呆れるぜ!


「おう、任せとけっ。でも泣くなよ?」

「ななななっ、泣かないわよ!」


 完全に泣いてちびる感じの受け答えだと思った。



 普段よりも一等早く校門を跨いだ俺は、例によって例のごとく、佐藤と鉢合わせた。そろそろ慣れてきた。


「おぉ、木村おはよ。やっぱり水曜と金曜は早いな!」

「あぁおはよ。まぁなんだ、そうだな、大体その二日くらいはうまくこう、調子が噛みあうんだよ」


 俺はあくびを噛み殺し損ねて口元を手で覆って間延びした感じにそういった。


「よく言うわね!」


 カバンから飛び出してきた金日たんがベチッと俺の頭をはたいてきた。

 佐藤は足を止めないままで俺の前に留まる。


「するってーと? ほかの平日三日は調子が悪いのか?」

「や、普段は寝坊助なんだが、水と金は早起きできるんだ」


 取りあえず金日たんはスルーして佐藤の問いに答え、

「ほー、良く分からん!」

「だろうな、俺も良く分からんし」

 うむと、やたら偉そうにうなずいて見せた。


「なんだそりゃ。まっ、いいやまた後でなー」


 一度考え込むしぐさを見せた佐藤は取りあえず適当に流すことにしたらしく、適当に手を振ってまたランニングの続きへと向かっていった。



 やったー! 終わったー! と思ってカバンを掴んで立ち上がれば、俺の横をいい笑顔をした佐藤がサムズアップで通り抜けていった。なんなんだ一体。


「悪いな今日は金曜日! 部活が最も苛烈になる日! 幸い、今日はやっと晴れてグラウンドも乾いている! じゃあな!」


 嬉しそうに走っていく。もう背中から喜びが滲み出ていた。


「な、なんだったのあの人……?」

「金曜の佐藤は特別仕様なんだよ」


 そう、基本的に金日たんは金曜日モードの佐藤しか知らないので、ほかの妖精たちと違って佐藤が面白い奴だという認識がないのだった。

 金曜日モードの佐藤とはつまり、部活全力勢な佐藤本来の姿であり、つまりは佐藤ハイパーモードなのだ。ハイパー佐藤、強い。


「あ、あそぅ……。それより早く帰ってゲームするわよ!」


 パチパチクリクリと、目玉を白黒させながらもやっぱりゲーム大好き金日たんだった。



 そして俺たちは喜び勇んでおうちに帰還してきたのだ。


「あー、金曜日はいいわぁ。レアなモンスターも出るもの! ゲットするのー! あの珍しいあいつをゲットするのよー! げぇっとー!」


 鼻歌交じりにルンルンしている。なんて上機嫌なんだろうか。


「先週は確か『どうしてなのよぉ! なんでゲームは金曜日に発売しないのよぉ! おかしいじゃない!』とか言ってなかったっけ?」

「むぐぐ、細かいことをよく覚えてるじゃない……!」


 どうして金曜日にゲームが出ないのか、それは週末に発注を合わせるためなのだ。それに文句をつけるとは立派な糞ゲーマーである。


「あの涙目っぷりは非常に、なんというか、おかしみがありましたなー!」


 ニヤニヤしながら追撃していこう。


「き、鬼畜だわ! 何この、何この子! 畜生よ! 酷いわぁ!」

「酷いのはどっちじゃーい! けどな、自称しっかり者のゲーム大好き金髪縦ロール妖精は果たして俺のことを非難できるのかねぇ?」


 キィーとなっている金日たんにさらに追撃を仕掛ける。こうなりゃ徹底的にやってやる!


「げ、ゲーム好きの何がいけないっていうのよぉ!」

「や? いけないなんて言ってないけども。でもアレだぞ? ちゃんとしたしっかり者の水日たんは俺に勉強するための時間を作ってくれるし、土日つちひたんなんかなんと、俺に勉強教えてくれさえするんだぜ? それに比べると金日たんはなー、毎回ゲームゲームゲームって、これじゃあなんちゃってしっかり者だよなぁ」


 自分の不甲斐ないところは取りあえず全部棚にうっちゃって、攻勢を続ける。


「ぬっ、ぬぐぐぐぐ! ち、違うわよ! わたしは、わたしはあれよ! しゅうに娯楽を提供しているのよ! ほら、いつも疲れているでしょ? だからわたしが癒しを提供しているの!」


 答えに困窮しているのが如実に分かったので、俺はここらで溜飲を下げることにした。あんまり追い詰めたら泣いちゃうからね。


「はいはい、そういうことにしておこう。そうそう、金日たんいつもありがとうね」

「ぐぬぬぬぬぬぬ!」


 しかして、ゲームを始めれば瞬く間に金日たんは機嫌を直して熱中するのだった。


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