第9章 解体工事はじめ! 快感(意味不明)!

 エレベーターのドアが開くなり、歓声が沸き起こった。

 さっき映画のような活躍を見せたメンバーが戻ってきたからだ。みんなサルが手にマシンガンを持っていることには気づいていないらしい。

 みな満面の笑顔を浮かべ、大騒ぎしている。


 もちろん例外もいる。玉城だ。ようやく顔に生気を取り戻しつつあったようだが、サルの顔を見るなり幽霊でも見たかのように驚いた。

「な、な、な、なんで貴様、ここにいる?」

 信じられないだろうが、上の階のやつらを全員倒したからだ。


 サルは玉城を無視して、客たちに宣言する。

「みなさん、新オーナーとしてお知らせがあります。長らくお世話になったこのお店もたった今から閉店することとなりました。すみやかに退出をお願いします」

 さすがにブーイングが出た。いくらなんでも非常識すぎる。


「つきましては、お詫びとして好きなだけ現金をつかみ取りしてお帰りいただきたいと思います」

 とたんにブーイングは歓声に変わる。


「ほら、金貸し。ここにある現金を持ってくるのよ。それからそこのお姉さん、非常階段があるんでしょう。開けて」

 サルは骸骨と、近くにいたバニーガールに指示を飛ばす。もう彼らに逆らう気力はないらしい。サルのいいつけにロボットのように従った。


 たちまちテーブルの上に、現金の山ができる。

「さあ、勝った人も、負けた人も、好きなだけ持ってっていいですよ。持ったらあそこの非常階段から上に行ってください」

 サルはにっこり笑うと、そういった。


 客たちは我も我もと争うように札束を奪うかと思いきや、みな意外に冷静に行動した。持って行く量も節度があるというか、ビビっているというか、大して多くない。遠慮しないで持っていったのは、例のなんとかというえらいやくざくらいだった。


 けっきょく、客が全員帰った後も、大量の札束が残った。

 残ったのは、サルたちとスタッフ。サルはそこでまた宣言する。

「こんどはオーナーとして、あなた達に通達します。あんたたちは全員クビ。すぐに出て行きなさい。ぐずぐずしていると死人が出るよ。解体工事を始めるからね」


 テック9を持った右手を高々と掲げた。

 悲鳴とともに、スタッフたちは階段に殺到した。百合子もどさくさに紛れて逃げた。残っているのはもはや玉城ひとりだけ。


「な、な、な、なにをする気だ?」

「解体工事っていったでしょう」

 サルはいきなりテック9を乱射した。ルーレット台が吹き飛ぶ。


「や、やめてくれぇ。俺の城だ。ここは俺の城なんだぁ」

 サルは玉城の叫びを無視して、ポーカーテーブルに弾丸の雨を降らせる。チップとカードが宙に舞った。


「ひぎゃあああ。頼む。やめてぇ」

 玉城がサルに飛びかかろうとしたので、襟首を捕まえた。

「止めて欲しいか?」

 玉城は情けない顔で必死にうなずく。

「だったら白状しろ。貴様らの本当の正体はなんだ?『神の会』か?」

 俺は耳元ですごんだ。

「知らない。そんな組織は知らない。俺はたんなる裏カジノのオーナーだ」

「じゃあ、なぜ如月がいる?」

「あいつはただの用心棒だ。それ以上のことは知らない」

 玉城の顔は真っ青だ。正直いって、俺にはこいつのいっていることが本当かどうか読めない。


 鳴り狂うマシンガンの音に耐えられなくなったのか、玉城は床にへたり込む。

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃああ」

 サルは狂ったように笑うと、走り出した。

 スロットマシンの群れに乱射する。

 マシンが砕け、コインが煌めきながら飛び散る。


「たらららららら~ん」

 マガジンラックを交換すると、テーブルというテーブルを破壊し尽くし、トイレに弾丸を撃ち込んだ。それが終わると、壁や天井に乱射した。


「ああぁっん、素敵ぃ」

 サルの常識はずれな行動を、ただひとり目をハートにして見つめている者がいた。神無だ。もう完全に顔がとろ~んとしている。

 やっぱりこいつも変なやつだった。


「ああ、面白かった」

 すべてを破壊しつくし、ようやく満足したらいい。サルはテック9を投げ捨てると、子供のように笑う。

 玉城は白目をむいたまま、床に倒れて失禁していた。いや、べつに弾に当たったわけじゃない。精神的なショックだろう。

 まあ、こいつの正体がなんであれ、二度と立ち直れそうにない。


「さあて、それじゃあバックについてるやくざか、仲間が来ないうちに帰ろうか?」

 サルは店の備品のバッグに現金を詰め込みながらいった。

「五月ちゃんたちも取ったらいいよ」

「いや、あたしたちはいい。借金チャラにしてもらっただけで十分だ」

「うん。愛子さんの活躍見れただけで大満足」

 妙にさっぱりした顔で笑い出した五月と、恋する乙女の目でサルを見る神無。


「まったく、ふたりとも欲がなさすぎっ」

 サルはそういうと、札束を詰め込んだバッグを俺に渡した。

 まるで強盗だが、この店は合法的にサルのものになったのだからいいのだろう。それにしてもいったいいくらあるんだ? よくわからんが、数億円は間違いなくある。サルのやつの貯金がまた増えやがった。


 階段を上りながら、俺は考える。これだけのことをユマに報告しないわけにもいかないが、いったいどう報告すればいいんだ?

 まさかトサンの闇金から一兆円借りてポーカー勝負したとはいえないぞ。

 ましてや奪い取った店で、マシンガンを乱射したなんていえるもんか。

 おまけにけっきょくこの事件の黒幕が、『神の会』なのか、この前のことを逆恨みして如月が、自分が用心棒をしている裏カジノを使って復讐しようとしただけなのか、わからずじまいだ。


 俺の心配をよそにサルは脳天気にいう。

「なんかおなか減ったね。なにか食べていこうか?」

「食うってなにを?」

 五月があきれ気味にいう。サルは少し考えてから、元気よく叫んだ。

「もっちろん、カツカレーだよ」

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