第11章 けっきょく戦う羽目になるのかよ?

 学校の裏は小さな丘になっていて神社はその上にあるらしい。たしか鳥居とかいういかにも日本的な門をくぐると、上に向かう階段があった。

 俺はそれを上っていく。両サイドにある木々の緑が心地よい。国土のほとんどが平地で山だの丘だのがない王国では見られない風景だ。ついさっきまでいた学校からは考えられない静けさで、時おり聞こえる鳥の鳴き声が心を和ませる。

 天辺まで上るとけっこう広い場所が開けていた。奥には祭壇と思われるものがあり、まわりはやはり緑の木々に囲まれていた。静寂に満ちたこの場所は空気すら清める雰囲気がある。なにか神聖な感じすらした、といいなおしてもいい。まあ、日本の神様がいるところらしいから当然といえば当然かもしれないが。


 五月はそんな中で木漏れ日を受け、ひとり立っていた。手には細長い布袋を持っている。


「よう、待たせたか?」

「そうでもない」

「で、なんで俺を呼び出した?」


 五月は無言のまま、布袋から木刀を取り出した。

 そのまま布袋を地面に投げ捨てると、すうっと木刀を顔の右側に構える。切っ先を天に向け、木刀を垂直に立てる、いわゆるトンボの構えだ。


「おいおい、やっぱり果たし状だったのかよ、あれ?」

「ラブレターだとでも思ったのか?」

「いや、そうは思わなかったさ」

 信じて疑わないやつはいたけどな。


「俺はひょっとして別のことかと思ったぜ。たとえばきのう歌舞伎町でおまえを襲ったやつらのことで手を組もうとかな」


 五月に反応はなかった。むしろあえて感情を押し殺したような顔をしている。あえていえば人形のような顔だ。


「水無月流剣術、第十三代伝承者、水無月五月」


 五月は正式に名乗った。俺は昔サルに借りて読んだ宮本武蔵を思い出す。たしか昔の日本の剣豪は互いに名乗りあって真剣勝負した。五月はそれを気取っているらしい。

 それにしてもただものじゃないとは思っていたが、伝承者とは。いや、どんな剣術なのかはよく知らないが。

 なんにしろ、こんな厄介ごとはごめんだ。


「おい、俺はべつにおまえと戦う気はないぜ」

「あたしが正式に名乗ってるんだ。おまえも名乗って構えろ」

「まっぴらごめんだね」

「あたしは学校で水無月流を名乗ったことも、伝承者であることをいったこともない。おまえに対する礼儀だと思ったから名乗ってるんだぞ」

「俺の知ったことか」

「ならば、あたしが一方的にぶちのめすのみ」


 やれやれ、やっぱりこいつは戦うのが好きなだけだ。来るんじゃなかったと心底思った。

 こんな無益な戦いはしたくないが、そうもいっていられないらしい。五月の決心は固いようだし、ここまできたら、あっさり逃がしてくれるとは思えない。やるしかないだろう。

 そもそも俺に名乗るような流儀はない。強いていえば子供のころから自己流で覚えた日本の武術や格闘技、それに中学からたたき込まれたサンリゾート王国軍隊格闘術だ。だが王国の名前を出すわけにはいかない。


「綾小路影麻呂、流儀はない」

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