おっぱい落語的な
なつみ@中二病
おっぱい落語
【登場人物】
女 噺家さん的な演者。以下の役を全部一人でやる。
カナ 快活な女子。中学時代、胸が小さいことがコンプレックスだった。
ユリ おとなしめ女子。中学時代、胸が大きいことがコンプレックスだった。
/
女 みなさんは、『覆水盆に返らず』という言葉をご存知でしょうか?
一度起きてしまった事はけっして元に戻すことはできない、という意味のことわざです。
英語でも同じようなことわざがあるようでして、
“It’s no use crying overspilt milk.”
「こぼしたミルクを嘆いても無駄」という意味の言葉だそうです。
国や言葉が違っても、通じるところはある、ということですかね。
まあ、「覆水盆に返らず」は元々中国のことわざだそうですけど。
決して戻らないことと言えば、年金や保険の掛け金、ギャンブルですったお金、一度上げられてしまった消費税、タバコ税。
それに、舞台の本番中に飛ばしてしまったセリフ、飛ばしてしまったページ、もう、恐ろしいですね。今でも夢に出て来ます。
あとは、・・・元カレとの関係とか、元カレとの関係とか、元カレとの関係とか・・・(だんだん元気がなくなって泣きそうな顔になっていく。)
(ぱっと気持ちを切り替えて、明るく、)
さて、決して戻ることができないことと言えば、青春時代もまた、戻ることはできない、輝かしい思い出でございます。
これは、そんな青春時代まっただ中の、少女達のお話。
カナ はあー、いい汗かいたーっ!
ユリ はー・・・体育の授業って疲れるなー。
カナ そう? あたしは結構体育好きだよ。
ユリ カナちゃんはいいよ、運動得意じゃない。ユリなんか、運動音痴だもん・・・
カナ そのぶんユリは勉強できるからいいじゃんか!
あたしなんて、学校の授業は体育以外、苦痛でしょうがないよー。
ユリ カナちゃんは数学得意だからいいじゃない。あー、でも体育はほんとに嫌だなあ。
走るのがね、ほんとにもう憂鬱なの。
カナ なんで? そんなにしんどいの?
ユリ んー、肩が凝るから・・・
カナ ? ・・・・・・
(カナ、ユリの胸を見て何かに気付く。)
(カナ、自分の胸元を手で隠す動作。)
カナ !? あー、そーゆーことですか。ユリは胸おっきいもんね。あーそーですか。
たいへんですねー、胸大きい人はー。
ユリ カナちゃん、声が大きいよ!
カナ あたしにはそんな悩みないけどねっ!
ユリ もう・・・。でもね、ユリね、ほんとに悩んでるんだよ。
カナ お、大きいとそんなにタイヘンなのか?
ユリ ・・・うん。肩は凝るし、走るとこすれて痛いし、なんかじろじろ見られるし。
カナ そっかあ。・・・ケンカ売ってんのかテメエ。
ユリ カナちゃん!? 抑えて、抑えて!
カナ はああ。巨乳もタイヘンなんだなあ。
それに比べて貧乳はいいぞ貧乳は! 体は軽いし、空気や水の抵抗が小さいから走るのも泳ぐのも早いし、チカンには遭わないし、たまに男に間違えられるし、うん、貧乳最高!
(カナ、その場に崩れて凹む。)
ユリ カナちゃん! カナちゃん!
カナ いいんだ。
ユリ うーん、でも一番困るのは、好きな下着のサイズがないことかなあ。
かわいいデザインに限って合うサイズがないんだよねー。
カナ へ、へー。
ユリ カナちゃんは、どんなのつけてるの?
カナ え、あたし? あたしは、つけてないよ。
ユリ え? なんにもつけてないの?
カナ なんにもつけてないよ。
ユリ スポーツブラもつけてないの?
カナ スポーツブラってなんですか?
ユリ え・・・裸?
カナ 服は着てるよ!!
ユリ ???
カナ 不思議な顔をするな!
だって、あたし、つけても意味ないし、ていうか胸ないし。生きてる意味ないし。
ユリ そこまで自虐的にならなくても・・・
カナ どうせあたしには、なあんにもありませんよー。
ユリ でも、早めにつけた方がいいと思うよ。
カナ そんなの、あたしには必要ないやい!
えー、年頃の女の子のカナとユリ。
カナは胸が小さいことにコンプレックスを抱いておりまして、
ユリは胸が大きいことにコンプレックスを抱いております。
男子も女子の胸に興味があるお年頃。
とある男子からの質問です。
「どうして女子はブラをするんですか?」
ユリちゃんにも訊いてみましょう。
どうなの、ユリちゃん?
ユリ えーっとねえ、ユリはー、形が崩れないようにだと思うなー。
ユリ そういうわけだよ、カナちゃん。
カナ どういうわけだよ。
ユリ 形が崩れちゃう前に、ブラは絶対した方がいいと思うな。
カナ 崩れるほどねえやつはどうすればいいんだよ!? 酷だよ!
ユリ でも、将来のためにも早めにつけた方がいいらしいよ。
カナ 将来ってなんだよ! いったい何のためだよ!?
ユリ 今日の放課後、二人で下着買いに行かない?
カナ 行かない! 絶対行かないっ!!
ユリ 絶対あとで後悔することになると思うんだけどなー。
断固として拒否するカナ。
カナは、女子っぽいことをするのが苦手な女の子でした。
女の子っぽい服、仕草、趣味、そういうのを自分がするのはとても恥ずかしいことのように思えてならなかったのです。
結局その日は下着を買いに行くというイベントは発生しませんでした。
さて、次の日、家庭科の授業でエプロンを作ることになりました。
自分達で生地を切って、ミシンで縫って作るわけですが、
エプロンを作るにあたって、なぜか体のサイズを測ることになりました。
女子は女子同士で集まり、タオルで隠しながらメジャーを使ってスリーサイズを測ります。
男子も女子も、なんだかそわそわしてしまって、ちょっと授業どころじゃありません。
嫌がるカナを押さえつけ、ユリがメジャーを片手にカナに迫ります。
ユリ カナちゃん、暴れないで!
カナ 嫌だ! やめろ! あたしのプライバシーを数値化するな!
ユリ そんな理系っぽいこと言っても無駄だよ!
カナ やめろ、離せ!
ユリ ちょっとで終わるから! 恥ずかしいのは最初だけだから!
カナ マジでやめろ! 数字になって現実化してしまったら、最初どころか、ずっと恥が続くじゃないか!!
そのとき、つるっと手が滑り、ユリの手がカナの胸をわしづかみにしてしまいます。
こだまするカナの悲鳴。
カナ きゃーーーーっ!!(胸を手で隠して)
なぜか絶叫するユリ。
ユリ ぎゃーーーーーっ! 女としてあるべきものがないっ!!
カナ ふざけんなーっ!
カナは暴れ出し、隣の男子にぶつかってしまいます。
男子の手がつるっと滑り、カナの胸をわしづかみにしてしまいました。
こだまするカナの悲鳴。
カナ きゃーーーーっ!!(胸を手で隠して)
男子もたまらず。
男子 うわーーーーー・・・? つかむところが、ない?(パントマイムで壁を作って)
(パン、と手を叩いて)
「パン!」とカナが男子を平手打ちする音が響きます。
カナ お前らうっせー! 悪かったな、乳がなくてよーーーーっ!!!
暴れ出すカナ。騒ぎ立てる男子たち。授業はもうしっちゃかめっちゃかです。
別に好きな男子じゃあなくても、男からそんな屈辱的なことを言われたとなっては、恥ずかしいやら悔しいやらで、
カナにとってトラウマとなってしまいました。
放課後。
ユリ ねえ、カナちゃん、ごめんってば。
カナ ・・・ユリは、別にいいよ。許すまじはあの男子共だ!
人のことバカにしやがって!
ユリ カナちゃん、今から下着買いに行かない?
やっぱりブラはした方がいいと思う。
カナ いや。あたしはブラなんて、そんなチャラチャラしたものはつけない。
ユリ ちゃらちゃら・・・?
カナ あたし、一生ブラジャーはつけないっ!!
ユリ ええーっ!!??
カナの決心は固く、「さらし」を巻いて生活する始末。
さらしを巻いたからにはこれはヤンキーになるしかないと、間違った暴走をしてしまったのはまた、別の話。
結局彼女は20代に入るまでブラをつけずに過ごしましたとさ。
さて、そんな青春の一ページも過ぎ去り、少女達はいつしか大人になりました。
大人になった彼女たちが再会し、同窓会のような、女子会をやってみたり。
大人の女子会の会話は下ネタが激しいようでして。
この二人、いい年こいておっぱいの話題で盛り上がります。
ユリ カナちゃん、やっぱりさ、大人になって感じるおっぱいの魅力はまた違うよね~。
カナ わかるわー。ていうかユリもあたしも、発想がおっさんじゃない?
ユリ 確かにー。
あ、こないだね、すっごい巨乳の人が街歩いてたよ。
ヤバかったよ、ほんと。あれは日本人のおっぱいじゃなかったね~。
カナ あんたが言うなよあんたが! ユリって昔っから胸でっかかったもんねー。
ユリ カナちゃんだって大きくなったよねー。昔は胸小さいことすっごい気にしてたのに。
カナ よかった。ほんとに人並みにまで成長してくれてよかった。
まあ、ユリには全く敵わないわー。あんたすごすぎ!
ユリ いやいや、自慢できるようなものじゃないですよ。たれパンダですよ、たれパンダ。
寝っ転がるとおっぱいがこぼれて、なくなっちゃうよー(笑)
カナ ・・・・・・
ユリ どうしたの?
カナ あのさあ、ここだけの話、あたし、離れ乳なんだよね。。
ユリ はなれ、ちち・・・?
カナ 寝っ転がらずとも、さいしょっからおっぱいがこぼれてるんだよお!
ユリ あー。ちゃんとブラしなかったの?
カナ そうだよ! 若い頃は、ずっとさらしで過ごしてたんだよ!
ユリ ええっ!? あれからずっとさらし生活だったの!? ・・・裸!?
カナ 裸じゃねえよ! 服は着てるよ!
ユリ あーあ、ちゃんとブラつけないから、形が崩れちゃったんだね・・・
カナ あー、あたしもあの時恥ずかしがらずに、ちゃんとブラジャーしとけばよかったーっ!
「覆水盆に返らず」
「こぼれたミルクを嘆いても無駄」
それと同じく、
「こぼれた乳を嘆いても、もうどうしようもない」
──おあとがよろしいようで。
おっぱい落語的な なつみ@中二病 @chotefutefu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます