覇(ハ)

第8話 改造人間 アサシンズ・メタル

 七月の昼下がり。路地裏の日陰に、ポニーテールを揺らしながら一人の少女が駆け込んだ。近隣の中学の制服に身を包むその少女の顔には恐怖が色濃く現れている。

 ところが突然少女の脚は止まった。路地の先から体格の良い黒スーツを着た三人の男が待ち伏せしていたのが見えたからだ。

 急いで元来た道を戻ろうとするも、そこからも既に同じ服装の男がもう一人、歩み寄って来ていた。 

「俺たちとしては穏便に済ませたいところだが……姿を見られちゃあ、仕方が無ぇ」

「俺たちの正体を言いふらされちゃ困るんだわ。悪いな、お嬢ちゃん」

「ここでおとなしーく始末されてくれや」

 後方の三人組が拳を鳴らす。前方の男が獲物を前にしたハイエナのような表情を浮かべながら、首にあるチョーカーに手を伸ばした。

「せっかくだから、試運転だ。君は運が良いなあ、一日に二度も改造人間の変身が見られるなんて」

 運が良いもんか、と少女は口に出したかったが、グッとこらえる。言えば瞬殺は間違いない。言わなくたってこの後瞬殺されるのはわかりきっていたが。

 男は首筋のチョーカーに付けられたスイッチを押した。みるみるうちに筋肉が膨張し服が破れる。そしてその下から見える、肌という肌も剥がれ落ち、銀色のボディが現れた。

 脱皮を思わせるような変身を完了すると、男が首を回して言った。

「さて、最期に何か、言いたいことはあるかな」

「…………っ……!」

「恐怖で声も出ないか。可哀想に。楽に逝かせてあげよう」

「ひっ……!」

 銀色の手が少女の顔に迫って、




「じゃあ僕から一つ言わせてもらいますけど。服が破ける意味あります?」




 その声は改造人間の後方から聞こえてきた。少女に伸びた手が止まり、金属の首が真後ろに回転する。

「……何者だ、貴様」

「田中です。そう、それで服が破ける件で。もったいないと思うんです、服。だったら最初っからタンクトップみたいな、ある程度伸びる服にすれば良いと思うんですがどうでしょう」

 少女はそうっと首を伸ばした。そこには、便所サンダルを履いた男が肩をすくめて立っていた。

 半身を機械にした男は、田中と名乗った男に歩み寄る。頭一つ分、田中より背が高いので男が見おろす形になった。

「あいにくだが、俺の姿を見たならば生かしておくわけにはいかない。ヒーロー気取りでのこのことこんな場所に入ってきたのが運の尽き――おい、聞いてるのか、何してぐぴゃらぶふぁ!?」

 語尾がおかしくなったのは、田中が改造人間の胸にペタペタと触り始めた直後だった。

 膝をついた改造人間の胸元には、大砲で貫かれたかのような大きな穴が開いていた。

「おおおお、お前、いい、一体、俺に、な、何を……」

 大穴を開けられた男は一度身体を震わせた後、うつぶせに倒れて動かなくなった。

「リーダー!」

「て、てめえ!」

「何をしやがった!」

 三人組の男たちも、銀色の身体へと変貌した。少女はとっさに田中の背後へ回る。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「リーダーのかたきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「しいいいいいいいいいいねええええええええ!」
















 一分後、四つの死体に向かって田中は手を合わせていた。隣で少女も手を合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る