第2話 破壊怪獣 ギャラガン
日本で三十番目の高さを誇るビルがなぎ倒されたのは、夕日が地平線に消えた時だった。
「今日は怪獣か……」
男は雄叫びを上げる怪獣の足下でその巨体を見上げる。周囲には既に人の姿は無い。上を見すぎて首が痛くなった男が視線を下げると、近くの建物の側面に巨大なモニターが付けられていた。そこに映るのはヘリコプターから怪獣の様子を声を荒げて逐一報告するキャスター。
「突如郊外の湖から現れたモンスター、ギャラガンは、サーティービルを襲撃したのち、現在東に向かって進んでいるようです! 次の標的を探しているのでしょうか!」
怪獣は暫定的にギャラガンと名付けられていた。ギャラガンは三百メートルを超すその巨躯で街をひたすら蹂躙してゆく。一歩進む度に地面が割れ、世界が揺れる。瓦礫が瓦礫を呼び、都市に終末の影が落ちる。
そして、唐突に。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!」
何が琴線に触れたのか、突然立ち止まった怪獣は太陽に向かって咆哮を飛ばした。
ところが、それは断末魔の叫びであった。ギャラガンの足下、数メートルもある足の指を、その男はペタペタと触っていた。
「ごめんな、これ以上暴れられると困るんだ」
ギャラガンは打って変わって弱々しい声でひと鳴きすると、身体を真横に倒した。数多くのビルがクッションとなって押し潰された。
舞い上がった土煙が晴れた時には、潰れたビル群の上で横たわる、澄んだ瞳の怪獣が絶命していた。
「あら、田中君。お帰りなさい。土木関係のバイトだったの? ちょっと服が汚れてるわよ」
煙草を楽しんでいた大家は細身の隣人の格好を見て言った。
「どうも。バイトではないんですけど。ボランティア、みたいな」
田中はいそいそと服の汚れをはたき落とす。質素な服から砂が落ちた。
「あら、そうなの。そうそう、夕方に怪獣が出たらしいわよ。おっかないわねぇ」
「そうなんですかあ、怖いですねえ」
棒読み口調にならないように精一杯の抑揚をつけて返事をして、田中は自室へと引っ込んだ。
「でも、またあの人が現れたそうよ、今回も姿がはっきりとは確認できなかったみたいだけど……」
扉を閉める直前も、大家の語りはまだ続いていた。
「……やれやれ」
田中は玄関に腰を落とした。
「あの怪獣は、本当に悪だったのかな」
命を奪ったその手を握りしめ、田中は今日殺した怪獣を思い出して目を閉じた。
彼の耳には星が瞬き始めた空から、咆哮が聞こえていた。
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